ヨット教室物語・第973話

「お鍋なんだけどさ、これ一つをテーブルの

真ん中に置いて、皆で突っつきましょうか」

麻美子は、魚とお野菜を煮込んだ鍋を、パイ

ロットハウス側のメインテーブルの真ん中に

ドカンと置いた。

「こっち側で食べる人たちの分はないの?」

ダイニングテーブルで野菜を揃えていた隆が

麻美子に聞いた。

「今日は人数少ないし、皆そろって向こうで

全員食べられるでしょう」

ヨット教室物語・第972話

「さっき、お風呂の帰りに漁港前のお魚屋さ

んで買ったのよ」

麻美子は、真っ赤な鯛のアラを煮込みながら

瑠璃子に返事した。

「やっぱり、漁港のお魚はスーパーで買うお

魚と全然違うよね」

「クルージングで、漁港に停泊した時の楽し

みの一つよね」

美味しい魚が食べられるのは、ヨットで漁港

に立ち寄った時の楽しみだった。

ヨット教室物語・第971話

「なんか手伝う?」

「陽子ちゃんとか瑠璃ちゃんが手伝ってくれ

てるから大丈夫よ。中村さんたちとお酒飲ん

でて良いわよ」

雪は、麻美子に言われて、パイロットハウス

のメインサロンで、中村さんたちとビールを

飲んでいた。

「きれいなお魚。ローゼンでこんな立派な

お魚売っていたっけ?」

瑠璃子は、冷蔵庫から魚を取り出した。

ヨット教室物語・第970話

「持ってないから、香織ちゃんに全部払って

もらってしまった」

隆が、麻美子に答えた。

「やだ、もう」

麻美子は、慌ててお財布を持って、香織のと

ころに行った。

「面倒かけちゃってごめんね」

「ぜんぜん大丈夫だよ。隆さんには、ヨット

でめちゃ楽しませてもらっているし」

出してもらったお金を清算していた。

ヨット教室物語・第969話

「アイス食べる?」

「食べる!」

お財布の無い隆は、ここでも香織にアイスを

ご馳走になっていた。

「お風呂、気持ち良かったよ」

「良かったわね」

隆が、ヨットに戻って、麻美子に報告すると

笑顔で返事を返してもらえた。

「そういえば、お金はどうしたの?どこかに

持っていたの?」

ヨット教室物語・第968話

「本当、歩かない財布だよな」

隆は、陽子と苦笑していた。

「私、お財布あるから大丈夫よ」

香織が、隆に言った。

「後で、ヨットへ戻ったら、麻美子からお金

返してもらってね」

隆は香織にお城の入場券を買ってもらった。

「もう、麻美子はいないよね」

お城を見終わって、帰り道のお風呂屋さんに

戻って来たが、麻美子の姿は無かった。

ヨット教室物語・第967話

「それじゃ、私たち先にお風呂へ行ってから

ヨットに戻っているよ」

麻美子は、隆に返事した。

それから、隆たちは歩いて館山城まで行くと

お城の中へ入ってみることになった。

「俺、そういえばお財布持って来てない」

隆が、陽子に言った。

「お財布は、歩くの拒否して、お風呂屋さん

に行ってしまったものね」

陽子が、隆に言った。

ヨット教室物語・第966話

麻美子は、戻って来た隆と陽子に言った。

「なんで、お城まで大した距離じゃないよ」

「健脚の人だけで行って来て」

麻美子に言われて、隆たちだけで館山城まで

行って来ることになった。

「行って来まーす」

「あそこにお風呂屋さんあるから」

隆は、お城に向かって歩きながら、道路の反

対側にあるお風呂屋さんを指差して、麻美子

に教えた。

ヨット教室物語・第965話

隆は、その場で立ち止まって、麻美子が来る

のを待っていた。

「こっち!」

麻美子は、前には進まずに、隆のことを手招

きして呼び戻した。

「こっち!」

「何、どうしたの?」

仕方なく、隆と陽子が戻って来た。

「私たち、ここの公園でのんびりして待って

いるよ。だから、お城まで行って来て」

ヨット教室物語・第964話

「あそこまで登るのは嫌だな」

中村さんは、山の上の方に見えている館山城

の屋根を見上げて、ため息をついていた。

「しかも皆、若いから歩くの速いのよね」

麻美子も、前を行く皆を眺めて、中村さんに

話を合わせていた。

「隆ー!」

1番先頭を歩いている隆を大声で呼んだ。

「早くぅー、待っているよ」

隆が、後ろを振り返って麻美子に返事した。

ヨット教室物語・第963話

「館山城でも行ってみるか」

隆が、皆に提案した。

「山の上に建っていたお城?」

「うん」

「運動不足だし、行ってみよう!」

ラッコとアクエリアスの皆は、港から館山城

まで歩いてみることになった。

「帰りに、どこかで、お風呂屋さんがあった

ら入浴してこよう」

お風呂セットを持ってのお散歩となった。

ヨット教室物語・第962話

「もしかしたら、私の方が隆よりも、このヨ

ットで出航したいってこだわりがあるのかも

しれない」

麻美子が言った。

「そうなの?」

「うん。このヨットの後ろの部屋で寝るのが

一番落ち着いて寝れるし、朝のメイクとかも

化粧道具揃っていてやりやすいし」

「それはあるかもね」

陽子が、麻美子に頷いた。

ヨット教室物語・第961話

「俺だって、別にラッコで出たいって、こだ

わりは特に無いから、ラッコは横浜マリーナ

に置いておいて、アクエリアス1艇で館山ま

で来ても良かったんだけどな」

隆は、麻美子に言った。

「でも、1艇で全員の寝れる場所あるの?」

「あるさ。メインサロンのテーブルも下がる

し、下げればダブルバースに変わるし」

隆は、パイロットハウス脇のテーブルを下げ

て、ダブルバースに変更してみせた。

ヨット教室物語・第960話

「って、どういうこと?」

「アクエリアスを出さないで、ラッコだけで

皆、乗って来てしまえば良かったってこと」

「あ、そうか。それでも良かったよね」

麻美子は、隆に言われて納得していた。

「こっちで来れば、俺も楽だったな」

隆がラッコでクルージングに行きたいように

中村さんも、自分のアクエリアスでクルージ

ングに出たいのかと思ってたら、中村さんも

全然そんなこだわりは無いようだった。

ヨット教室物語・第959話

中村さんが、隆に返事した。

「それが良いかもね」

「私、荷物をぜんぶこっちに置いてあるから

こっちで泊まっても大丈夫」

麻美子に言われて香織が嬉しそうに答えた。

「っていうか、中村さんのところ3人だけで

しょう。アクエリアスを出す必要なかったか

もしれないな」

「そうだな」

中村さんは、隆の意見に賛成した。

ヨット教室物語・第958話

隙間が狭すぎて、ラッコの横にはアクエリア

スを泊められないので、岸壁の少し奥の方に

アクエリアスは泊める事になってしまった。

「お疲れ」

岸壁の奥に泊めたアクエリアスのクルーたち

3人がラッコにやって来た。

「アクエリアスの泊めたところからだと、街

へ出るには少し遠いですかね」

隆が、中村さんに言った。

「もう、こっちで皆、泊まってしまおうか」

ヨット教室物語・第957話

「千葉のこの辺のヨットマンは、この港に自

分のヨットを泊めているからね」

隆は、陽子に答えた。

館山港は、漁船だけの漁港ではなく、地元の

ボートやヨットのためのマリーナとしても利

用されていた。

「この港は、船の数に対して狭いんだよな」

隆は、地元のヨットが停泊している隙間に、

ラッコも停泊させてもらった。

「中村さーん!そっちに停めて!」

ヨット教室物語・第956話

隆は、香代だけでなく、香織のお昼の心配ま

でする麻美子をみて言った。

「麻美ちゃんが、お母さんになるかどうかは

隆さん次第なんだけどね」

「えっ?」

隆が聞き返したので、なんでも無い、大丈夫

と頷いた陽子だった。

房総を南下していき、富浦の岬を越えたら左

折し、館山湾の一番奥に館山の港はあった。

「漁港なのに、ヨットもたくさんいるね」

ヨット教室物語・第955話

あと少し残っていたサンドウィッチをバスケ

ットの中に戻した。

「でも、香織も、向こうの船でお昼食べてい

るとは思うけどな」

「そうかもしれないけど、私のサンドウィッ

チ食べたがっていたから」

麻美子は、隆に返事した。

「麻美子って、お母さんになったら、ぜった

い過保護のお母さんになりそうだな」

隆は、麻美子に言った。

ヨット教室物語・第954話

お昼ごはんを食べている余裕も持てるぐらい

になっていた。

「サンドウィッチ残りそう?」

「まだ残ってはいるけど、食べようと思えば

全部食べ切れそうだけど」

雪が、麻美子に返事した。

「少し残りそうならば、香織ちゃんに残して

おいてあげて欲しいんだ」

「確かに、それが良いかも」

「うん。香織ちゃんに残しておこうよ」

ヨット教室物語・第953話

「ね、大きな船だらけなんだもん」

「ぶつかったら恐いよね」

皆は、緊張感が取れて、一斉に喋り出した。

麻美子は、キャビンの中からサンドウィッチ

の入っているバスケットを持って出てきた。

「サンドウィッチ美味しいね」

本船航路を渡り終えると、あとは千葉側の陸

地沿いを館山まで南下していくだけなので、

セーリングにだけ集中して走ればよいだけな

ので、緊張感もだいぶ解けていた。

ヨット教室物語・第952話

「3時から本船」

と、3時方向から来る本船のことを、瑠璃子

は、香代に報告していた。

それから、麻美子以外の皆は、左右からやっ

て来る本船のウォッチに真剣だった。

そして、ようやくラッコが本船航路を渡り終

えた時、1人だけぜんぜん緊張していなかっ

た麻美子が皆に言った。

「渡り終わったし、お昼にしますか」

「本船航路を渡るのめちゃ緊張した」

ヨット教室物語・第951話

「本船航路を渡る時は、他の人たちも左右か

ら来る本船のことをしっかり見ておいて、本

船とミートしそうだなと思ったら、早めにラ

ットを握っている香代に声をかける」

隆は、ラッコの全員に伝えた。

「ラッコの向きを時計の針と見立てて、左側

から本船が来るなら3時方向に本船、右側か

ら本線が来ているなら9時方向から本船って

香代に伝えてあげるんだ」

隆が、皆に教えた。

ヨット教室物語・第950話

お昼ごはんを食べるのは、東京湾を横断し終

わってからになった。

「香代、東京湾の真ん中には本船航路がある

から、本線航路を渡るときは、なるだけ垂直

に直線で渡らなきゃだめなんだぞ」

「はい」

「途中でどうしても本船とミートしそうにな

った時だけ、本船と平行に走ってすれ違う」

隆は、ラットを握っている香代に、本船航路

の渡り方を教えていた。

ヨット教室物語・第949話

隆が言うと、ラットを握っている香代が頑張

りますと答えていた。

観音崎を越えたのは、ちょうどお昼ぐらいの

時間だった。

「どうする、お昼ごはんにする?」

麻美子は、隆に聞いた。

「うーん、すぐこの先で東京湾を横断して、

房総側に向かうから、お昼ごはんは、東京湾

を横断し終わった後で良いんじゃないか」

隆は、麻美子に言った。

ヨット教室物語・第948話

隆は、アクエリアスに行ってしまった後の香

織に声をかけた。

「向こうに着いたらね」

香織も、ラッコの隆に手を振っていた。

アクエリアスが先にポンツーンを離れて、続

いてラッコもポンツーンを離岸した。

両艇は、沖でセイルを上げると、セーリング

で最初の目的地、観音崎を目指して、走り始

めていた。

「お昼までに、観音崎を交わせるかな」

ヨット教室物語・第947話

「それじゃ、そろそろ出航しますか」

隆は、アクエリアスの出航準備が終わった頃

に、中村さんへ声をかけた。

「行くよ!」

アクエリアスのデッキ上から中村さんは、ラ

ッコにいる香織に声をかけた。

「はーい」

香織は、ラッコからポンツーンに降り立つと

走ってアクエリアスまで行った。

「それじゃ、後でね」

ヨット教室物語・第946話

麻美子は、瑠璃子に答えた。

「うわっ、隆さん愛されてる」

瑠璃子が、隆に言った。

「え、やめてよ。なんで今さら麻美子に愛さ

れなきゃならないのさ」

「麻美ちゃんじゃないよ」

「麻美ちゃんのお母さんによ」

陽子が訂正した。

「ああ、そうね。麻美子のお母さんと俺は、

めちゃ仲良いもの」

ヨット教室物語・第945話

「うん、半分ぐらい、うちのお母さんにも手

伝ってもらったけどね」

「麻美ちゃんのお母さん、お昼のサンドウィ

ッチとか作ってくれるんだ」

「うちのお母さんなんて、私が会社で食べる

ためのお弁当だって、絶対に作らない」

瑠璃子が、麻美子に言った。

「うちのお母さんも、私のためだったら作っ

てくれないわよ。なんか隆が食べるものだと

自分から喜んで料理し始めるのよね」

ヨット教室物語・第944話

「これって、何が入っているの?」

「お昼のサンドウィッチよ」

陽子がパイロットハウスのテーブルの上に、

置かれているバスケットのカゴを指差すと、

麻美子がバスケットのフタを開けてみせなが

ら、陽子に答えた。

「すごい、これって麻美ちゃんが朝から作っ

たんですか」

バスケットの中には、たくさんのサンドウィ

ッチが入っていた。