ヨット教室物語・第1004話

麻美子は、隆に言った。

「ああ、俺のことか」

「そうよ!」

麻美子が隆に言って、皆は笑っていた。

「まあ、良いじゃん。11月からは同じ船に

なるのだから」

「同じ船で、あんなに怒鳴っていたら、私が

時々小突いてやるからね」

「はいはい、わかりました」

隆は、麻美子に従っていた。

ヨット教室物語・第1003話

船首にいたアクエリアスのクルーが岸壁と結

ばれていた舫いロープを回収し、アクエリア

スの船体は完全に岸壁から離れた。

「じゃ、出航しましょうか」

アクエリアスが館山の漁港を出港した。

その後に続いて、ラッコも出港していた。

「香織ちゃんも大変だ。よその船のオーナー

からも大声で指示されちゃって」

「え、そうなの?」

「あんたのことよ」

ヨット教室物語・第1002話

てから、隆に聞いた。

「中村さん遅いから、もう引いちゃえ」

隆に言われて、香織が少しずつアンカーロー

プを引き始めた。

中村さんは、慌てて準備を終えると、隆の言

葉に苦笑しつつも、アクエリアスのラットを

握り直した。

香織がアンカーロプを引くのに合わせて、ア

クエリアスの船体はゆっくりと岸壁を離れて

後ろへと動き始めた。

ヨット教室物語・第1001話

隆は、ラッコのステアリングを握って、港内

を周りながら、アクエリアスのデッキ上に突

っ立っていた香織に大きな声で声をかけた。

「これから、アンカーロープを引こうと思っ

ていたのよ!」

香織は、自分の足元に置かれているアンカー

ロープを持ち上げると、隆の方に見せた。

「頑張って引いて!」

「もう引いてしまってもいいの?」

チラッとまだ出航準備中の中村さんの方を見

ヨット教室物語・第1000話

それから朝食後、香織は、中村さんたちアク

エリアスのクルーと共に、奥の岸壁に泊まっ

ているアクエリアスに戻って、三崎へ移動す

るための出航準備をしていた。

先に、下ろしていたアンカーを上げて、館山

漁港の岸壁から離れたラッコは、漁港内をぐ

るぐると周って、アクエリアスが出航するの

を待っていた。

「香織!そこに突っ立っていないで、これか

らアンカーを上げるんだから手伝えよ」

ヨット教室物語・第999話

「確かに、ラッコは快適ですものね」

アクエリアスのクルーまで、中村さんと一緒

にメインサロンのソファから立ち上がれなく

なっていた。

「中村さん」

隆は、中村さんたちに苦笑していた。

「さあ、出航しますか」

隆の言葉に、中村さんたちも、ようやく重い

腰を上げて、立ち上がった。

「さあ、出かけるか」

ヨット教室物語・第998話

香織は、隆から借りたセーリンググローブを

手にはめていた。

「そろそろ出航しますか」

隆が、皆に言った。

「そうだね」

と言いつつも、中村さんはなかなかメインサ

ロンのソファから立ち上がれずにいた。

「ここに座っていると、快適すぎて立ち上が

れなくなるな。アクエリアス出さなければ、

こっちでずっと乗っていられたのにな」

ヨット教室物語・第997話

香織は、隆に言った。

「えっ」

「だって、生徒が手カサカサっていう姿、な

んか可愛いじゃない」

「おばさんになると、生徒じゃない人にも手

カサカサって言われるのは辛いものよ」

麻美子が、自分の手にハンドクリームを塗り

ながら、香織に返事した。

「切実っ」

隆が言って、皆は爆笑していた。

ヨット教室物語・第996話

「確かに、そうだよね」

香織は、隆に言われて納得した。

「このセーリンググローブ貸してあげるから

持っていって良いよ」

隆は、自分の付けていたセーリンググローブ

を香織に手渡した。

「素手でシートを引くと、皮が剥けたりカサ

カサになってしまうから。学校で生徒たちに

先生の手カサカサって言われてしまうよ」

「生徒に手カサカサって言われたい」

ヨット教室物語・第995話

セイルを上げたり下ろしたりしないとヨット

が上達しないよ」

隆は、朝食を食べながら、香織に話した。

「私ってまだよくヨットのことわからないし

アクエリアスの役に立っていないけど」

「そうじゃなくて、わからないなりにも、自

分からシートを引いたりして積極的に手伝い

に行かなきゃ、それでないとわからないまま

何もしなければ、いつまでもわからないまま

だからさ」

ヨット教室物語・第994話

て、家で寝ているのと同じぐらいに快適に寝

れてしまったよ」

「それは良かったわ」

麻美子が、笑顔で中村さんに返事した。

「今日はどうするの?」

「明日の帰りも楽になるし、このまま東京湾

を横断して、三崎に行こうかと」

隆は、本日の予定を中村さんに伝えた。

「香織も、ただアクエリアスに乗っているだ

けじゃなくて、ちゃんとウインチとか使って

ヨット教室物語・第993話

「おはよう、よく眠れたな」

中村さんは、ラッコのパイロットハウスのバ

ースから目覚めて、麻美子に言った。

「クルージングに来て、こんな朝遅くまで寝

ていたことは初めてだな」

「そうですよね。クルージングの時って、毎

日次の寄港地へ移動するからって、なんだか

んだと割と早めに起きてしまいますものね」

隆は、中村さんに答えた。

「寝床が、しっかりシーツまで敷いてもらえ

ヨット教室物語・第992話

隆は、パイロットハウスの通路とサロンの間

に付いたカーテンを仕切った。

「よく出来ているな」

中村さんは、フィンランド製ナウティキャッ

トの造船技術の高さに感動していた。

「これは、快適に寝れてしまうな」

アクエリアスのクルーもクルーも感嘆した。

「おやすみなさい」

隆と麻美子は、香代を連れて、アフトキャビ

ンの自分たちのバースに入った。

ヨット教室物語・第991話

隆は、窓枠の内側に付いているロールカーテ

ンを下ろした。

「そんな所にカーテンが付いていたのね」

麻美子は、隆が閉めたロールカーテンを見て

ほかの窓にも付いていたロールカーテンも閉

めて、全ての窓のカーテンを締め切った。

遮光性のあるロールカーテンで、窓の外の漁

船の灯などがパイロットハウス内に全く入っ

てこなくなっていた。

「後は、ここを閉めれば、完全個室だよ」

ヨット教室物語・第980話

「後は、普通にシーツを敷けば良いのよね」

麻美子が、メインサロンのバースにシーツを

敷き終えると、ベッドが出来上がった。

「これだと、窓から朝陽が入ってきて、この

部屋眩しくならないかな?」

麻美子は、パイロットハウスの四方に付いた

大きな窓を見て呟いた。

「朝陽ぐらい大丈夫だよ」

中村さんは、麻美子に言ったが、

「カーテンを閉めれば良いんですよ」

ヨット教室物語・第979話

フォアキャビンでは、雪が、自分が寝るため

のベッドメイクをして、眠りについた。

ダイニングのベッドメイクを終えた麻美子は

パイロットハウスのメインサロンのテーブル

を下ろして、パイロットハウスのベッドメイ

クを始めていた。

「ここは、どうやったらベッドになるの?」

初めて、メインサロンのバース作りする麻美

子は、横にいる隆にクッションの敷き詰め方

などを聞いていた。

ヨット教室物語・第978話

「そろそろ寝ましょうか」

夜遅くまで飲み明かすなんてこともなく、適

当な時間で夕食の後片付けをすると、皆そろ

って就寝となった。

麻美子は、ダイニングサロンのテーブルを下

ろすと、クッションを敷きベッドメイクして

カーテンを閉じ、そこで眠れるようにした。

「3人で並んで寝れるわよね」

麻美子が言うと、陽子、瑠璃子、香織の3人

は麻美子に頷いていた。

ヨット教室物語・第977話

隆たちビールを飲んでいた人たちは、1杯目

のビールを飲み終えると、もう既にオレンジ

ジュースや烏竜茶に飲み物を切り替えた。

食事を終えた後も、静かにお喋りして過ごす

一夜となった。

聞こえてくる音といったら、パイロットハウ

ス前方に付いているモニターから流れてくる

テレビの音ぐらいだった。

「秋の夜長って感じがするね」

皆は、キャビンで風流な気持ちになった。

ヨット教室物語・第976話

「麻美ちゃんは、熱燗飲まないの?」

「じゃ、少しだけ」

麻美子は、雪からお酌に半分ぐらいだけ熱燗

を注いでもらっていた。

夏のクルージングでは、ドリーム号とも合流

したし、お酒を飲む人たちの人数も多く、割

と豪快に賑やかな飲み会となっていた。

が、今夜はしっとりと静かに、大人な優雅な

お酒を楽しんでいた。

「こういう飲み方も良いね」

ヨット教室物語・第975話

「中村さん、飲み物はビールからお酒に切り

替えますか」

「お、そうだね」

麻美子は、ギャレーで温めておいた熱燗を中

村さんたちの前に出した。

「隆は?熱燗は飲んでみる?」

麻美子に聞かれたが、隆は首を横に振って、

断っていた。

今夜の熱燗は、中村さんとアクエリアスのク

ルー、雪の3人だけだった。

ヨット教室物語・第974話

アクエリアスの人数が少ないから、メインサ

ロンで全員座れそうだった。

パイロットハウスのメインサロンだと、四方

を大きな窓で囲まれているので、漁港の漁船

やボートなど港の景色を眺めながらの食事が

できた。

「美味しそうだ」

「いただきましょう」

麻美子の言葉で、メインサロンの席に座って

皆の夕食の時間になった。

ヨット教室物語・第973話

「お鍋なんだけどさ、これ一つをテーブルの

真ん中に置いて、皆で突っつきましょうか」

麻美子は、魚とお野菜を煮込んだ鍋を、パイ

ロットハウス側のメインテーブルの真ん中に

ドカンと置いた。

「こっち側で食べる人たちの分はないの?」

ダイニングテーブルで野菜を揃えていた隆が

麻美子に聞いた。

「今日は人数少ないし、皆そろって向こうで

全員食べられるでしょう」

ヨット教室物語・第972話

「さっき、お風呂の帰りに漁港前のお魚屋さ

んで買ったのよ」

麻美子は、真っ赤な鯛のアラを煮込みながら

瑠璃子に返事した。

「やっぱり、漁港のお魚はスーパーで買うお

魚と全然違うよね」

「クルージングで、漁港に停泊した時の楽し

みの一つよね」

美味しい魚が食べられるのは、ヨットで漁港

に立ち寄った時の楽しみだった。

ヨット教室物語・第971話

「なんか手伝う?」

「陽子ちゃんとか瑠璃ちゃんが手伝ってくれ

てるから大丈夫よ。中村さんたちとお酒飲ん

でて良いわよ」

雪は、麻美子に言われて、パイロットハウス

のメインサロンで、中村さんたちとビールを

飲んでいた。

「きれいなお魚。ローゼンでこんな立派な

お魚売っていたっけ?」

瑠璃子は、冷蔵庫から魚を取り出した。

ヨット教室物語・第970話

「持ってないから、香織ちゃんに全部払って

もらってしまった」

隆が、麻美子に答えた。

「やだ、もう」

麻美子は、慌ててお財布を持って、香織のと

ころに行った。

「面倒かけちゃってごめんね」

「ぜんぜん大丈夫だよ。隆さんには、ヨット

でめちゃ楽しませてもらっているし」

出してもらったお金を清算していた。

ヨット教室物語・第969話

「アイス食べる?」

「食べる!」

お財布の無い隆は、ここでも香織にアイスを

ご馳走になっていた。

「お風呂、気持ち良かったよ」

「良かったわね」

隆が、ヨットに戻って、麻美子に報告すると

笑顔で返事を返してもらえた。

「そういえば、お金はどうしたの?どこかに

持っていたの?」

ヨット教室物語・第968話

「本当、歩かない財布だよな」

隆は、陽子と苦笑していた。

「私、お財布あるから大丈夫よ」

香織が、隆に言った。

「後で、ヨットへ戻ったら、麻美子からお金

返してもらってね」

隆は香織にお城の入場券を買ってもらった。

「もう、麻美子はいないよね」

お城を見終わって、帰り道のお風呂屋さんに

戻って来たが、麻美子の姿は無かった。

ヨット教室物語・第967話

「それじゃ、私たち先にお風呂へ行ってから

ヨットに戻っているよ」

麻美子は、隆に返事した。

それから、隆たちは歩いて館山城まで行くと

お城の中へ入ってみることになった。

「俺、そういえばお財布持って来てない」

隆が、陽子に言った。

「お財布は、歩くの拒否して、お風呂屋さん

に行ってしまったものね」

陽子が、隆に言った。

ヨット教室物語・第966話

麻美子は、戻って来た隆と陽子に言った。

「なんで、お城まで大した距離じゃないよ」

「健脚の人だけで行って来て」

麻美子に言われて、隆たちだけで館山城まで

行って来ることになった。

「行って来まーす」

「あそこにお風呂屋さんあるから」

隆は、お城に向かって歩きながら、道路の反

対側にあるお風呂屋さんを指差して、麻美子

に教えた。

ヨット教室物語・第965話

隆は、その場で立ち止まって、麻美子が来る

のを待っていた。

「こっち!」

麻美子は、前には進まずに、隆のことを手招

きして呼び戻した。

「こっち!」

「何、どうしたの?」

仕方なく、隆と陽子が戻って来た。

「私たち、ここの公園でのんびりして待って

いるよ。だから、お城まで行って来て」