「良明くんは17階」
ゆみは、ボタンを押し直した。
エレベーターが7階についたので、ゆみはエ
レベーターを降りた。
「それじゃね、バイバイ」
ゆみは、良明に手を振った。
「日曜日は、お弁当作って、良明くんの野球
を見に行くね」
ゆみは、エレベーターの中の良明に手を振り
ながら、声をかけた。
「良明くんは17階」
ゆみは、ボタンを押し直した。
エレベーターが7階についたので、ゆみはエ
レベーターを降りた。
「それじゃね、バイバイ」
ゆみは、良明に手を振った。
「日曜日は、お弁当作って、良明くんの野球
を見に行くね」
ゆみは、エレベーターの中の良明に手を振り
ながら、声をかけた。
金曜日の放課後、学校が終わったゆみは、シ
ャロルと別れて、良明と自宅に帰った。
「エレベーター来たよ」
ゆみは、自分のアパートメントでエレベータ
ーに乗りながら、良明に言った。
「私は7階」
ゆみは、ボタンを押した。
良明が10階のボタンを押した。
「良明くんは、10階じゃないでしょう」
良明は、首を横に振った。
ゆみは、良明に提案した。
「マジで?ゆみちゃんが、お昼のお弁当を作
って来てくれるの?」
ゆみは、別にヒデキの分まで作るつもりなか
ったのだが、ヒデキが嬉しそうに返事した。
肝心の良明の方は黙ったままだった。
「あ、遅刻しちゃうよ」
ゆみは、良明の手を引いて走り出した。
「早く教室へ戻らないと」
ゆみは、良明と教室へ戻っていった。
ヒデキは、ゆみに自慢していたが、
「そうなの?野球するんだ」
ゆみは、ヒデキのピッチャーには全く興味を
示さず、良明に聞いていた。
「良明くんが野球するのだったら、私も観に
行こうかな」
ゆみは、良明に答えた。
「観に来なよ。朝の10時からだから」
ヒデキが、ゆみに言った。
「私がお弁当作っていってあげようか」
ゆみは、チラッと良明の方を見た。
「良明がキャッチャーをやるんだよな」
黙ったまま立っている良明に代わって、ヒデ
キがゆみに答えた。
「え、野球をやるの?」
ゆみは、良明に聞いた。
良明は何も答えず、黙ったままだった。
「野球やるよ!彼はキャッチャー」
ヒデキが、ゆみに答えた。
「俺がピッチャーで投げるんだ」
ゆみは、ヒデキに即答した。
さっき、ジョンソンには答えづらくて適当に
返事したゆみだったが、ヒデキには正直に答
えてしまっていた。
「あいつらのチームは応援しなくて良いよ、
俺らのチーム側にいれば良いからさ」
ヒデキが、ゆみを再度誘っていた。
「俺らって?」
ヒデキは、いま1人でいた。
「え、良明くん?」
「野球の試合?」
今日は、なんで皆から野球を見にこないかと
誘われるんだろうと、ゆみは思っていた。
「もしかして、樺村君の野球?」
ゆみは、ヒデキに聞き返した。
「別に、樺村の野球ってわけじゃないよ」
ヒデキは答えた。
「あいつのアメリカ人チームと、俺ら日本人
チームで試合をするんだよ」
「その試合だったら行かない」
「ゆみちゃん」
ゆみが良明と食堂を出て、午後の授業のため
教室へ移動しているとヒデキから呼ばれた。
「こんにちは」
「日曜日って時間ある?」
「日曜日?」
ゆみは、ヒデキに聞いた。
「うん。俺ら、シートンパークで野球の試合
をするんだけど、観に来ない?」
ヒデキは、ゆみの事を誘った。
本当のヤンキースタジアムに行くとか言うか
もしれないし、行けそうなら観に行くわね」
ゆみは、適当に返事しておいた。
「うん。お兄ちゃんがどこにも行かないって
言ったら、待っているからおいでね」
ジョンソンは、ゆみに笑顔で答えた。
ジョンソンは、ゆみにはいつも笑顔で優しい
のだが、ゆみのクラスのステファンを恐喝し
て、彼からお財布を取り上げた事を、ゆみは
知っていた。
「野球、観に来るの?」
樺村は、ゆみに英語で聞いた。
「そうね、まだ決めていないけど」
ゆみも、英語で答えた。
日本人同士なのだが、樺村も普段から英語ば
かりで話しているし、ゆみも英語の方が理解
できるので、英語で会話してしまっていた。
「観においでよ」
ジョンソンが、再度ゆみに聞いた。
「日曜日よね。お兄ちゃんが休みの日だから
「野球?」
ゆみがジョンソンと話している時に、同じク
ラスの樺村もやって来た。
「おぅ、何をしているの」
「樺村、ゆみちゃんを野球に誘っていた」
「ああ、ジョンソンは、ゆみが好きだよな」
樺村が、ジョンソンに言った。
「ハロー」
樺村は日本人だが、アメリカ暮らしが長いた
め、ゆみと話す時も英語で会話していた。
「ユミー」
ゆみが、いつものランチタイムで良明にお弁
当を食べさせていると、ジョンソンが来た。
「こんにちは」
ゆみは、ジョンソンに返事した。
ジョンソンは、シュタイン先生のクラスで、
ゆみはあまり関わりたくなかった。
劣等生のクラスで、いつも授業もサボりがち
で悪い子ばかりのクラスなのだ。
「今度さ、野球をやるんだよ」
「来週は、ずっとピッチャーが投げて、それ
を皆が打つんだよ」
ヒデキが説明した。
今日の試合では、ピッチャーが投げて打つの
ではなく、バッターが自分でボールを空中に
投げて、そのボールをバットで打っていた。
「来週は、俺がずっとピッチャーだから」
「そうなんだ」
「お前はキャッチャーやってくれよ」
「わかった」
「今度の日曜は樺村と試合だぞ」
野球を終えた帰り道ヒデキは良明に話した。
「樺村?」
「ああ。日本人なんだけど、日本人よりもア
メリカ人の友達の方が多くて、アメリカ人達
と野球チームしているんだ」
ヒデキは、樺村の事を説明した。
「へえ、そうなんだ」
「今日はセルフバット中心だったけど」
ヒデキは、良明に言った。
別人のように、大きな声を出して野球してい
る良明だった。
「お前って野球上手なんだな」
「バッティングも遠く飛びますね」
良明は、ヒデキ達のチームで、すぐにレギュ
ラーというかキャッチャーのポジションにつ
いてプレイしていた。
フィールディングも上手かったが、バッティ
ングも上手で、ホームランを連発していた。
「どこまで飛ばすんだよ」
「お、良明ー!」
公園に行くと、ヒデキたちが野球している場
所は、すぐにわかった。というか、ヒデキ達
の方から声をかけてくれた。
「おおー、野球やろうぜ!」
良明も、すぐにヒデキ達のやっていた野球チ
ームに加わると、一緒に野球を始めていた。
「ボール、そっちに行った!」
「オーケー、任せて!」
いつも、ゆみ達と学校にいる時の姿とは全く
「お母さん、野球しに行ってくるよ」
土曜日のお昼、良明はお母さんに伝えると、
野球の道具を持って、自宅を出た。
「シートンパークで良いんだよな」
良明は、いつも通っているPS24小学校の
近くにある公園へ向かっていた。
ヒデキの話では、いつもシートンパークに日
本人の男の子達が集まって、野球をしている
という話だった。
「公園のどこら辺でやっているのかな」
かで学校へ行くこともあるから、その時は、
お母さんがゆみの事を連れ帰るから、祥恵は
自由に寄り道でも何でもして良いわよ」
お母さんは、祥恵に言った。
「お母さんが、父兄会に参加する時って、年
に何回ぐらいあるのよ」
祥恵は、お母さんの言葉にブツブツ呟きなが
ら、お風呂へ入りに行った。
「まあ、ゆみは私にとっても大切な妹だから
別に良いんだけどね」
あまりウロウロしないでちょうだいね」
お母さんは、祥恵に注意した。
「ゆみに何かあったら大変でしょう」
「はい」
祥恵は、お母さんに答えた。
「でも、私って学校の行き帰りは、いつもゆ
みと一緒なんだけど」
「そうね」
「そしたら、私って寄り道できないじゃん」
「そうね。お母さんが、たまに父兄会かなん
「なに、今日は寄り道したの?」
祥恵は夕食の時、お母さんに聞かれた。
「え、まあ」
「別に寄り道するなとは言わないわよ」
お母さんは、祥恵に言った。
「お母さんだって、学校の帰りにはよく友達
と寄り道もしていたから」
「そうなんだ」
祥恵は、お母さんに答えた。
「でも、妹が一緒の時は、中学生が繁華街を
「珍しい顔ぶれだね」
佐藤正英は、祥恵と一緒にいるゆみをみて、
祥恵に聞いた。
「1人じゃ帰れないから、私が一緒に連れ帰
ってあげるしかないのよ」
祥恵が、かっこつけて佐藤正英に答えた。
「ロンロン寄って行く?」
カレーを食べ終えると、吉祥寺駅前のショッ
ピングモール、ロンロンの中でウインドーシ
ョッピングする祥恵たちだった。
店内には、佐藤正英たち男子バスケ部員がい
て、先にカレーを食べていた。
「ゆみも何か食べる?」
ゆみは、首を横に振った。
「全部は食べきれないだろうから、私の分を
少し分けてあげようか」
祥恵が聞いたが、ゆみは首を横に振った。
「おうちに帰って、夜ごはんが食べられなく
なってしまうもの」
ゆみは、姉の祥恵に答えた。
「ちょっとだけ寄り道」
祥恵は、ゆみの手を握りながら答えた。
「寄り道?」
祥恵たちは、井の頭公園の中、池に架けられ
ている橋を渡ると、そのまま吉祥寺駅の方へ
と歩いていた。
「なんか食べていく?」
「いいね」
祥恵は、美和子や百合子たちからの提案で、
駅前のカレー屋さんの店内へ立ち寄った。
て、祥恵は、お母さんとゆみが作ったお弁当
を持って、通学していた。
午後からは、現国と数学の授業だった。
この日の放課後は、祥恵もバスケ部の練習が
無いため、ゆみも祥恵の練習が終わるのを待
つことなく、そのまま祥恵を一緒に家へ帰宅
することが出来た。
「お姉ちゃん、どこへ行くの?」
祥恵が、いつもの井の頭公園駅とは別の道路
を百合子たちと歩いていた。
ようやく中等部の校舎へ戻ってきた。
これから、塚本先生の英語の授業だった。英
語の授業を終えると、これで午前中の授業は
全て終わりだった。
午前中の授業が終わると、教室でお昼ごはん
で、午後の授業までは休憩時間だった。
明星学園には、給食は無いため、生徒たちは
皆、家からお弁当を持ってきていた。
ゆみは毎朝、お母さんと作ったお弁当を持っ
てきていた。祥恵のお弁当も一緒に作ってい
「彼女、なかなか手先が器用なようで上手に
織れていますよ」
森本先生は、ゆみの織ったタペストリーを皆
の前で褒めてくれていた。
「私、こういう苦手だな」
逆に、祥恵は織るのを苦労していた。
「こういうの面倒くさいんだよね」
バスケ部とかスポーツは何でも得意の祥恵だ
ったが、絵を描いたり、手先を使う作業は大
の苦手だった。
「あら、上手じゃないの」
森本先生は、生徒たちの織る姿を1人ずつ確
認していて、ゆみの所へ来ると言った。
「手先が器用なのかしら上手に織れてるわ」
さっき、よそ見をしていたゆみに言った。
今日は初回という事で、まずは小さめのタペ
ストリーを織ってみることになった。
「もう織り終わるわね」
森本先生は、ゆみの織ったミニタペストリー
を取ると、クラスの生徒たち皆に見せた。
ゆみが、家庭科の事を図工と言ってしまった
のを聞いて、クラス中は大笑いになった。
「もう、ゆみったら」
祥恵だけは、ゆみの事を睨んでいた。
「それでは、まずは織り機の使い方を説明し
ますから、よく聞いておいてください」
森本先生は、生徒たちの目の前にある織り機
の使い方を説明し始めた。
ゆみも、自分の目の前にある織り機を確認し
ながら、先生の説明を聞いていた。
「今の先生の話は聞いていましたか?」
「あ、はい」
ゆみは、森本先生に答えた。
「では、何て説明しましたか?」
「それを作るんです」
ゆみは、先生の手にしているタペストリーを
指差しながら答えた。
「要するに、図工の授業ですよね」
「図工ではないです、家庭科の授業です」
森本先生が、ゆみの言葉を訂正した。
「うわっ!」
教室の窓から眺めていたゆみは、思わず叫ん
でしまっていた。
「なあに?」
「あの、大きな木が真っ二つ」
森本先生に聞かれて、ゆみは思わず呟いた。
「あっちの授業が良いですか?」
森本先生は、ゆみに聞いた。
「ならば、あちらの授業に行きますか」
「あ、いえ、大丈夫です」