「1人で全部操船するの」
生徒が、先生に質問した。
「そうです。本来、OPは1人乗りのヨット
なので、オリンピック競技なんかでも1人で
皆乗っています」
片桐先生は言った。
「愛菜くん、由佳くん」
「はい」
2人が返事した。
「君たちはいつも2人で乗っていますね」
「1人で全部操船するの」
生徒が、先生に質問した。
「そうです。本来、OPは1人乗りのヨット
なので、オリンピック競技なんかでも1人で
皆乗っています」
片桐先生は言った。
「愛菜くん、由佳くん」
「はい」
2人が返事した。
「君たちはいつも2人で乗っていますね」
「1人ってどうやって乗るんですか?」
「舵を持つ人とセイルの人が必要ですよね」
「ティラー持ったらセイル引けないじゃん」
生徒達は、一斉に先生へ質問した。
「はい、静かに」
片桐先生は、説明を続けた。
「舵を持ちながら、セイルも引けます!」
片桐先生は、ヨットに横向きで座った。
「こうして片手でティラーを握って、もう片
方の手でセイルのシートを持ちます」
「でも、実は皆さんが乗っているOPという
ヨットは1人乗りのヨットなんです」
片桐先生は、衝撃的な発言をした。
「これまでは、皆さんがヨットに初めて乗る
からということで1人よりも2人1組で乗っ
た方が安全だろうってことで2人で乗っても
らっていました」
片桐先生は、皆に言った。
「もうヨットにも慣れましたよね、今日から
は、皆さんにも1人で乗ってもらいます」
「今が11月」
片桐先生が言った。
「今日でヨット教室を始めて、皆さんも半年
ぐらい経ちました」
「もう半年か」
「ずいぶんヨットに乗っているな」
「はい、お喋りはやめて下さい」
先生達が、皆に注意した。
「今まで2人1組で乗って来ましたよね」
片桐先生は、皆に言った。
「なんとなく見ていればわかるよ」
松田は、佐々木と一緒にヨットの艤装を終え
ると、横浜市民ヨットハーバーのスロープか
ら船を降ろし始めた。
「ちょっと待って!」
片桐先生が皆を呼んだ。
「ちょっと皆さん、一旦手を止めて、こちら
に集まってください」
片桐先生が、ヨットの艤装、出港準備をして
いた生徒達を呼び集めた。
「それがマストで、セイルが開くのですね」
松田は、佐々木が船体にマストを立てている
のを見て、佐々木に聞いた。
「ええ、そうです」
佐々木は、松田に答えた。
「そして、これがセンターボードといって船
の横流れを防ぐもの、こっちがラダーです」
「それを、後ろに付けて、左右に動かして、
船を方向転換させるんですね」
「そう、よくわかるじゃん」
「松田は、今日初めてヨットに乗るのだから
どうしたらヨットが走るのかをちゃんと説明
してあげなくてはダメだぞ」
「俺、後ろ側を持つから、松田は前を持って
船の前方を持ち上げてくれるか」
2人は、自分たちのOPヨットの船体を持ち
上げて、広い場所に出した。
「あ、片桐さん」
片桐先生は、土居先生に呼ばれた。2人は、
しばらく何かを相談していた。
松田は、大きな声で、片桐先生に返事した。
「えーと、洋ちゃんは、健ちゃんと一緒に乗
っているものな。よし、佐々木!おまえにし
よう。松田と一緒に乗ってくれるか」
「はい!」
佐々木は、片桐先生に返事すると、松田と一
緒に艇庫へヨットを取りに行った。
「佐々木!」
片桐先生は、佐々木のことを呼んだ。
「いいか。ただ、松田と一緒に乗るなよ」
「愛菜・・」
「はい!」
「由佳・・」
「はい!」
「小林・・」
「はい!」
全員の点呼を取り終わると、
「それで、あとは松田くん、今日からだった
片桐先生は、最後に松田の名前を呼んだ。
「はい!」
「バレー部の方が走りこみの距離が長いのか
もしれないな」
松田が言った。
「バレー部って、そんなに長い距離を走るの
か、俺、サッカー部で良かった」
洋ちゃんは、松田に言った。
「おはよう、点呼を取ります」
片桐先生は、ヨット教室の生徒たちをクラブ
ハウスに集めると、1人ずつ名前を呼んで、
今週の出席者の数を確認していた。
「それほど、駅から離れているというわけで
もないじゃん」
松田は、洋ちゃんに言った。
「このぐらいの距離ならば、いつもバレーボ
ール部でグランドを走っているから、その距
離に比べたら、どうってことない距離」
松田は、洋ちゃんに言った。
「俺も、サッカー部でグランドはよく走って
いるけど、ここは、割と駅から離れているな
とは思ったけどな」
「ここにもマリーナあるじゃん」
松田が、横浜市民ヨットハーバーの手前にも
マリーナの看板を見つけて言った。
「こっちは横浜マリーナ」
洋ちゃんが説明した。
「マリーナの入り口が2つあるから間違えな
いようにね」
健ちゃんが、松田に言った。
3人は、突き当りの横浜市民ヨットハーバー
のゲートをくぐると、マリーナへ入った。
ムステーションの方が目についていた。
「この高速道路の下をくぐって、道を突き当
たりまで行くと」
洋ちゃんは、松田に説明しながら道を直進、
進んで行く。
「もしかして、あれ!」
松田は、道の突き当たりに、ヨットの絵柄が
入った横浜市民ヨットハーバーのゲートを見
つけて叫んだ。
「ここか!」
店の前を通り過ぎていく。
「タイトーのゲーセンがあるじゃん」
松田は、ヤマダ電機の上階にあるゲームセン
ターに気づいた。
クルージングヨット教室物語だと、ラッコの
皆がクルージングで食べる食料品をよく買い
出ししている相鉄ローゼンのあるところだ。
大人は、どちらかとういうとローゼンやニト
リ、ヤマダ電機メインのショッピングモール
だったが、子供達にとってはタイトーのゲー
と思ったら、洋ちゃんは途中の脇道へ入って
そのままマイバスケットやローソンの前をす
り抜けて、大通りへ出た。
「後は、もうただひたすら真っ直ぐ、橋に辿
り着くまで歩く」
大通りを真っ直ぐ川が出てくるまで歩いてい
き、川にかかっている八幡橋の橋を渡る。
「橋を渡ったら左折な」
大通りを左折すると、川沿いの道を歩く。
ニトリがあり、相鉄ローゼン、ヤマダ電機と
「NEWDAYSが目の前にあるじゃん」
根岸駅の改札を出たところにあるコンビニを
見つけた松田が言った。
「ここから割と、横浜市民ヨットハーバーま
でが距離あるんだよ」
洋ちゃんと健ちゃんが前を歩き、松田が2人
の後について行った。
根岸駅の改札を出て、NEWDAYSの前を
通り過ぎると、マックや京樽も通り過ぎ、オ
リジン弁当を越えてなお直進して行く。
松田は、洋ちゃんたちに話した。
「良いんじゃないの。今から駅を出たら、横
浜市民ヨットハーバーまで歩いて行くから、
行き方の道をしっかり覚えておけば、来週か
ら自分1人でも家から通えるよ」
「ああ、そうする」
松田は、洋ちゃんに答えた。
「寝坊もできるし」
松田が言った。
「寝坊できるかな」
横浜の人にとっては、この青い電車は、京浜
東北線ではなく根岸線と呼んでいる人の方が
遥かに多かった。
電車は、横浜といえば、よく聞く名前の関内
駅や石川町駅を通り過ぎて、山手駅、根岸駅
へと到着した。
「松田、着いたから降りるよ」
「なんだ、ここの駅なんだ。だったら、別に
来週からは、洋ちゃんの家に前日から泊まら
なくても、大宮から電車で1本で来れるよ」
「これって、京浜東北線じゃん」
「ですよね、京浜東北線は松田くんの埼玉、
大宮から来ている電車ですものね」
健ちゃんが、松田に言った。
「そうか、根岸線って埼玉の大宮から来てい
る電車なのか」
洋ちゃんは、青い電車に乗りながら、根岸線
が埼玉から来ていることを初めて知った。
「根岸線って、これ京浜東北線じゃん」
松田は、洋ちゃんに答えた。
「行って来まーす」
「はい、行ってらっしゃい」
勉強では、厳しいお母さんだったが、それ以
外では洋ちゃんに優しいお母さんだった。
「どうやって行くの?」
あまり横浜に馴染みのない松田は、洋ちゃん
に質問した。
「根岸線って青い電車に横浜駅から乗れば、
数駅で最寄りの根岸駅に着いちゃうよ」
横浜駅で待っていると、青い電車が来た。
「今日から松田くんもヨット教室へ一緒に通
うことになったのよ」
洋ちゃんのお母さんが出て来て、健ちゃんに
話していた。
「はい、聞いています。昨日は、誘って頂い
たのに泊まりに来れなくてすみません」
いつもながら健ちゃんは、礼儀正しくお母さ
んへ挨拶していた。
「良いのよ、それは無理よね。夜とかは、普
通ならお勉強している時間ですものね」
「洋ちゃーん!」
日曜日の朝、健ちゃんが、ヨット教室へ一緒
に行こうと迎えに来た。
「おはよう!」
いつも、何度か呼ばないと起きてこない洋ち
ゃんが、1回で起きて来た。
「あれ、珍しい。1回で出て来た」
健ちゃんは、思わず呟いてしまっていた。
「ハハハ、洋ちゃん、いつも起きないんだ」
松田は、それを聞いて笑ってしまった。
松田は、教科書の内側にマンガを隠して、読
んでいる洋ちゃんの姿を発見した。
「何もさ、部屋には俺とおまえの2人だけな
んだから、別に教科書で隠して勉強している
振りをしなくても良いんじゃないの」
松田が、洋ちゃんに聞いた。
「いや、違うよ。たまに黙って、うちのお母
さんが部屋に入ってくることあるからさ」
洋ちゃんが松田に答えると、松田は思わず吹
き出してしまっていた。
お母さんに勉強するようにと部屋へ行った洋
ちゃんは、部屋で松田とお喋りすれば良いや
と思っていた。
しかし、松田は自分のバッグから教科書を開
くと、ちゃんと復習を始めていた。
「マジかよ」
復習している松田の姿を見て、洋ちゃんも渋
々教科書を広げるのだった。
「おまえって本当に勉強しないよな」
松田は、洋ちゃんの背後から覗き込んだ。
「松田は、健ちゃんと違って、そんな優等生
でも何でもないよ」
洋ちゃんは、お母さんに答えた。
「確かに、俺は優等生ではないかもしれない
松田は、洋ちゃんに頷いた。
「別に優等生でなくても、勉強はちゃんとし
ても良いのよ」
お母さんにそう言われて、見ていたテレビを
消して、洋ちゃんの部屋に行くと、そこで勉
強をすることになった2人だった。
「だから、いつも通り、明日の朝、迎えに来
てくれるってさ」
「あら、偉いじゃないの。ちゃんと勉強して
いるなんて」
お母さんは、健ちゃんを褒めていた。
「ついでだから、あなたも松田くんと一緒に
勉強してきなさいよ」
お母さんは、洋ちゃんに言った。
「わからない勉強を、松田くんに聞きながら
勉強すれば良いんじゃないの」
洋ちゃんは、健ちゃんに聞いた。
「そうなんですね。でも、僕は明日の朝、迎
えに行きますわ」
健ちゃんは、洋ちゃんに答えた。
「今は勉強中だから・・」
「そうか、それじゃ、明日待っているね」
洋ちゃんは、電話を切った。
「健ちゃんは今、勉強しているんだってさ」
洋ちゃんは、電話を切ると、松田とお母さん
に伝えた。
「今から洋ちゃんの家に?」
健ちゃんは、洋ちゃんに聞き返した。
「そう。今さ、俺の学校の友達の松田ってい
うのが家に来ていてさ」
「そうなんですね」
「彼も、明日からヨット教室に通うんだ」
洋ちゃんは、健ちゃんに伝えた。
「だからさ、3人で一緒に俺の家に泊まって
明日はここから皆で一緒に行かないかなって
思ってさ」
松田も、確かに横浜駅から歩いたときよりも
反町駅から歩いた方が近いと思った。
「もしもし、健ちゃん」
洋ちゃんは、健ちゃんに電話をかけていた。
「あのさ、今って何をしていた?」
「え、勉強していたよ」
学校の勉強を復習していた健ちゃんは、洋ち
ゃんに答えた。
「そうなんだ、あのさ、今から家に来ないか
なって思ったんだけど」
洋ちゃんは、松田と一緒に急行から降りると
向かいに停まっている各駅停車に乗った。
「いつも、各駅に乗り換えているの」
「うん、横浜駅まで行ってしまって、そこか
ら家まで歩いても良いんだけどさ」
洋ちゃんは、松田に言った。
「なんとなく反町駅で降りて、そこから歩い
た方が若干だけど家まで近いんだよね」
その後、各駅停車が反町駅に着いて、反町駅
から洋ちゃん達は歩いて家へ帰った。