ヨット教室物語・第1090話

「卒業したって、ラッコには乗りに来たって

良いんだよ」

隆は、麻美子と香代に答えた。

「うん、大丈夫よ。例え、隆がだめって言っ

ても、私が香代ちゃんのことヨットに誘うか

ら大丈夫よ」

麻美子は、香代のことを背後から抱きかかえ

ながら、香代に答えた。

「俺、一言も香代に乗ったらだめなんて言っ

てないけどね」

ヨット教室物語・第1089話

「私、卒業したくないな」

皆が、来月の卒業式の話をずっとしていたの

で、香代が心配になって麻美子に言った。

「あら、どうして?香代ちゃん、ラッコの艇

長できるし優秀じゃないの」

「だって、卒業したら、もうラッコに乗れな

くなちゃうんでしょう」

「あら、そうなの?」

麻美子は、隆に質問した。

「え?いや、そんなことないよ」

ヨット教室物語・第1088話

「そうか、香織ちゃんもアクエリアスに乗っ

ていくのよね」

陽子が、香織に聞いた。

「そうね」

香織は、隆の顔を見た。

「どうした?」

「卒業式はアクエリアスで行って、卒業した

らラッコなのよね」

「まあ、そうなのかな」

隆は、香織に答えた。

ヨット教室物語・第1087話

「本船航路の」

「ああ、この間行ったとき、本船航路を渡っ

たところ?」

「そう、だから館山よりはぜんぜん近いよ」

隆は、陽子に答えた。

「私たちは、ラッコで行くから良いけど、電

車で卒業式に行く人って大変だよね」

「電車で卒業式に参加する人いないだろう」

「皆、どこか自分の配属になったヨットに乗

って、千葉まで行くさ」

ヨット教室物語・第1086話

「え、卒業式って千葉まで行って、そこで

やるの?」

香織は、隆から話を聞いて驚いた。

「クルージングヨット教室って、もう来月が

卒業式なんだね」

麻美子は、ちょっと寂しそうに答えた。

「卒業式って、千葉のどこでやるの?」

「千葉の保田って漁港。観音崎の向かい側ぐ

らいのところにある港」

「観音崎の向かい側?」

ヨット教室物語・第1085話

「そうなんだ、まだ結果がわからないのね」

麻美子が、2人の会話を聞いて言った。

「いや、わかっていることはあるよ」

隆が、麻美子に言った。

「そうなの、なに?」

「初戦も下位だったし、コミッティーだった

り、不参加だったりしてるし、ラッコは絶対

優勝していないってことは、明らかだよ」

「ああ、そうなのね」

麻美子は、ちょっと残念そうに苦笑した。

ヨット教室物語・第1084話

「2位なんだ。じゃ、残念だったね」

「2位は今日のレース結果だから、シリーズ

通した時の総合順位はまだわからないけど」

「あ、でも初戦は、アクエリアスって終わり

の方じゃなかったかな?」

「それは、ラッコの成績でしょう。アクエリ

アスはそうでも無かったような」

「そうだったかな、初戦もアクエリアスって

速かったのか」

隆は、瑠璃子に答えた。

ヨット教室物語・第1083話

「あの船は、モーターセーラーでも、それな

りにセーリング性能が高い船だからね」

隆は、麻美子に言った。

「今日って、最終戦だけどパーティーって、

あるの?」

「今日は無いんだって。年末にやるクリスマ

スパーティーで表彰式するんだって」

「アクエリアスは2位でした」

瑠璃子がやって来て、隆に報告した。

「マジか、2位か」

ヨット教室物語・第1082話

「アクエリアスを片付けてきたの?」

麻美子は、陽子、香織と一緒に、テンダーに

乗って戻ってきた隆に聞いた。

「うん。ラッコは無事に片付け終わった?」

「終わっているわよ。何の問題もなしで、香

代ちゃんが操船して戻って来れたわよ」

「そうなんだ、香代は成長したな」

隆は、満足そうに答えた。

「中村さん、マリーナに戻ってきてからも、

ずっと順位を気にしているんだけど」

ヨット教室物語・第1081話

これるよな」

「うん、大丈夫じゃない、アンカーの操作の

仕方が少し不安だけど」

「アンカーの操作は、瑠璃子が全部わかって

いるよ」

隆は、麻美子に答えた。

「うん。大丈夫だよ」

瑠璃子が麻美子に答えた。

そして、隆たちは、先にアクエリアスでマリ

ーナへ戻っていった。

ヨット教室物語・第1080話

ブレースのレーティングは高くされますよ」

「そうなんだよな。だからこそ、今年は優勝

しておきたいんだ」

中村さんが答えた。

「それじゃ、船を離して!うちらは、先にマ

リーナに戻っているから」

隆は、ラッコの横付けでライフラインを持っ

ていた雪や麻美子、瑠璃子に言った。

「麻美子、全艇がゴールし終わったら、香代

と一緒にラッコをマリーナまで持って帰って

ヨット教室物語・第1079話

「そんなに上位に行くのか?」

「うん、だって、ここの数値が低いもの」

「なるほどな、アクエリアスのレーティング

が低過ぎるんだな」

隆は、瑠璃子に返事した。

「今回が最終戦だろう。これで優勝すれば、

年末のクリスマスパーティーでの表彰式で総

合優勝をもらえるかもしれないだろう」

中村さんが、隆に言った。

「でも、そこで優勝しちゃうと、来年のクラ

ヨット教室物語・第1078話

「え、どれぐらいだろう?」

瑠璃子は、中村さんからの質問へすぐには返

答できずに困っていた。

「レーティングの計算って複雑だものな。そ

んなすぐには計算できないよな」

隆が、瑠璃子に助け舟を出した。

「もしかしたら、1位じゃないかもしれない

けど、2位か3位位にはなっているかも」

瑠璃子は、ザクっと計算してみた結果を隆に

伝えた。

ヨット教室物語・第1077話

「さあ、私も、わかりません」

隆としては、このままアクエリアスを横浜マ

リーナまで帰港させたかった。

だが、中村さんが順位が気になるというので

スピンを下ろして、セイルを片付け、エンジ

ンを掛けて、機帆走でUターンするとラッコ

の横に横付けした。

「瑠璃ちゃん、何位かな」

ラッコに横付けすると、すぐに中村さんが瑠

璃子に質問した。

ヨット教室物語・第1076話

折り返しのブイを周ってからは、アクエリア

スにとって特に良いことも悪いこともなく、

レース艇たちには全艇追い抜かれてしまった

が、クルージング艇の中では一番先頭でゴー

ルラインを追加、ゴールできた。

ポオオオオオオー

「今回は、修正で何位だったかな、優勝でき

ているかな」

ゴールラインを過ぎると同時に、中村さんは

隆に質問してきた。

ヨット教室物語・第1075話

「それは仕方ないですよ。船の種類がぜんぜ

ん違いますからね」

隆は、申し訳なさそうに、オーナーの中村さ

んに答えていた。

「まあ、仕方ないのか」

中村さんも、諦めたように言った。

「うちが、あれに勝ったら、松浦さんがショ

ックを受けてしまいますって」

金村が、中村さんに言った。

「そうだよな。向こうはレース艇だものな」

ヨット教室物語・第1074話

陽子は、香織にスピンシートのトリムのやり

方を教えていた。

「追いつかれるね」

後ろから迫ってきたうららやプロントたちレ

ース艇が、あっという間にアクエリアスと並

び、そのまま追い抜いていった。

ビッグショットも追いついてきていた。

J24という24フィートのレース艇にまで

追い抜かれてしまったアクエリアスだった。

「追い抜かれてしまうね」

ヨット教室物語・第1073話

「大内さん、もっとスピンシートをしっかり

引いて!」

中村さんに言われて、香織が慌ててスピンシ

ートを引こうとすると、

「引いたらだめだよ。せっかく風を孕んでい

るのだから。むしろ、少し出した方が」

ヘルムを取っている隆からの指示で、香織は

慌ててスピンシートを引くのをやめた。

「なるだけ出せるのなら、スピンシートは出

した方が良いんだから」

ヨット教室物語・第1072話

アクエリアスだけが先行してスピンを上げた

ことで、他に並んで走っていたクルージング

艇たちよりは先へ進み始めていた。

アクエリアスは、同艇種のクルージング艇と

の差を、どんどん開いて先へと進んでいたの

だが、その後ろから走ってきた遅れを取り戻

しつつあったレース艇たちとの差は、逆に縮

まってきていた。

「このままじゃ、追いつかれるよ」

中村さんが叫んだ。

ヨット教室物語・第1071話

「アクエリアスのスピンは、ジェネカータイ

プに近いクルージングスピンだし、オーナー

がスピンを上げたいみたいだし、スピンを上

げますか」

隆の決断で、金村はアクエリアスのスピンハ

リヤードを上げた。

陽子もスピンシートを持って、金村のスピン

の操作を手伝っていた。香織も、よくわから

ないなりに、陽子をサポートしていた。

「香織ちゃん、ウインチにかけて回して」

ヨット教室物語・第1070話

「よし、先頭でブイを周ったぞ!」

中村さんは、興奮していた。

ブイを周った後の風向きは、アビームという

か、少し上りぎみの風向きだった。

追っ手よりも少し風上っぽい角度だった。

「スピンどうしますか?」

アクエリアスのクルーの金村くんが聞いた。

「そうね、どうするかね」

隆は、考えていた。

「普通のスピンならば上げないけどな」

ヨット教室物語・第1069話

中村さんが、ヘルムを握っている隆より興奮

していた。

「金村くん、ブイを周ったら、すぐにスピン

を上げられるように準備しておいて」

「え、ブイを周ったらスピン上げますか?」

金村は、風向きを確認してから、中村さんに

聞き返した。

「上げるよ!準備だけしておこう!」

中村さんは、ブイを周ったらスピンを上げる

気満々だった。隆は、黙ったままだった。

ヨット教室物語・第1068話

タックしたことで、ちょうど良い角度で、上

のブイまで一直線に進めていた。

「追い抜いちゃったね」

風が左にふれたことによって、レース艇はか

なり角度を落とされてしまい、その間に、ク

ルージング艇の先頭を走っていたアクエリア

スが、上のブイを最初に周っていた。

「先頭じゃないか!今のうちにもっと先に進

んでしまおう!」

キャビン入り口中央に腰掛けている司令塔の

ヨット教室物語・第1067話

陸側からスタートしたアクエリアスは、逆の

タックで真上りでスタートしていたが、だん

だん風が左にふれてきて、上のブイに向かっ

て、良い感じで近づけていた。

風が左にふれたことで、沖スタートのレース

艇たちは、上のブイ方向からだいぶ落とされ

てしまっていた。

「ここら辺で、タックをするか」

クルージング艇の中で、先頭を走っていたア

クエリアスは、最初にタックした。

ヨット教室物語・第1066話

プオオオオオオオー!

レースのスタートを知らせるホーンが、海上

に鳴り響いていた。

レース艇は、沖側のスタートラインから、ア

クエリアスを含むクルージング艇は、コミッ

ティーボート側のスタートラインからそれぞ

れスタートした。

「うちも、良いスタートできたな」

沖側からスタートしたレース艇たちは、クロ

ーズホールド、真上りでスタートした。

ヨット教室物語・第1065話

「あ、うちの生徒だって、まだ全然分かって

いないことありますよ」

プオープオオー

「いや、しっかり審判しているものな」

また、瑠璃子の鳴らしたマリンホーンの音を

聞いて、中村さんが言った。

「あれは、ヨットレースのルールのことしか

わかってないかもしれないですよ」

隆が、自分のところのクルーを謙遜した。

「そろそろスタートじゃないかな」

ヨット教室物語・第1064話

「本当に優秀だよな。うちの生徒なんて、未

だに全然分かっていないし、もう全然ヨット

にさえ来ない生徒もいるっていうのに」

中村さんが言った。

「すみません」

中村さんの言葉に、つい頭を下げてしまった

香織だった。

「香織は、確かに全然わかっていないな」

「なんでよ!」

香織は、隆のことを小突いていた。

ヨット教室物語・第1063話

「本当、ラッコの生徒さんたちは皆、優秀だ

よな。ラッコの生徒さんも皆、今年の4月か

らヨットを始めたばかりなんでしょう」

「そうですね」

「それで皆、あれだけ出来るようになってし

まっているものな。あの背の小さな子なんか

隆くんよりも、長い時間殆ど全てラッコのヘ

ルムを取っているでしょう」

アクエリアスのクルーが言った。

「香代ちゃん」

ヨット教室物語・第1062話

「だから、うららは、ラッコにコミッティー

ボートをやらせているんじゃないのか」

中村さんが、アクエリアスの、自分のところ

のクルーに答えた。

「隆くんが、レースのルールとかも詳しく教

えたんでしょう?」

「まあ、前回のレースの時に、ほんの少しだ

けですけどね」

中村さんに聞かれて、隆は答えた。

「しかし、ラッコの生徒さんは優秀だな」

ヨット教室物語・第1061話

隆は、中村さんに説明した。

「あ、そんなのも審判しているんだ」

「まあ、レース艇のグループだけですけどね

クルージング艇の方は、多少スタートライン

をはみ出していても、見逃してしまっていま

すけどね」

「瑠璃ちゃん、細かく判断しているよね」

陽子が言った。

「ヨットレースのルールがしっかり分かって

いないと判断できないですよね」