「え、結べていたよね。もう初めてラッコの
キャビンで出会った頃から誰よりも早く」
麻美子は、ヨット教室の初週の時のことを思
い出しながら言った。
「あの時は結べていたんだけど、あれ以来
全然結んでいなかったから」
「そうなの」
「なんか、私が結ばなくても、陽子ちゃんと
か皆が代わりに結んでくれちゃっていたし」
「あ、そうなのね」
「え、結べていたよね。もう初めてラッコの
キャビンで出会った頃から誰よりも早く」
麻美子は、ヨット教室の初週の時のことを思
い出しながら言った。
「あの時は結べていたんだけど、あれ以来
全然結んでいなかったから」
「そうなの」
「なんか、私が結ばなくても、陽子ちゃんと
か皆が代わりに結んでくれちゃっていたし」
「あ、そうなのね」
子が雪の側に行くと、雪に結び方を教えた。
「どうしたの?なんかあったの?」
麻美子が、隆に聞いた。
「え、なんかさっき怒られちゃったんだよね
雪ってまだ舫い結びも結べないのかって」
「え、そんなことないでしょう。ちゃんと結
べるよね」
麻美子は、雪に聞いた。
「ううん、結べなかったの」
雪が、申し訳なさそうに答えた。
結ぶ練習しようか」
隆にそう言われて、雪は必死で舫い結びで結
び直そうとしていた。
「私、結ぶよ」
瑠璃子が、もたもたしていた雪を見て、代わ
りに舫いロープを受け取ろうとした。
「瑠璃ちゃん、いいから手を出さないで。そ
のロープは雪に結ばせて」
隆は、代わろうとしていた瑠璃子に伝えた。
でも、1人では結べそうもなかったので、陽
雪は、ラッコの舫いを結ぶために、一旦ポン
ツーンからうららのデッキ上に乗った。
ラッコの舫いを香織から受け取り、うららの
船首のクリートに結んだ。
船尾のクリートは、陽子が結んでいた。
「雪、そこのクリートはクリート結びでなく
て、舫い結びで結ぼうか」
隆が、クリート結びで結んだ雪に言った。
「え、ここって舫い結びで結ぶの?」
「いや、別にそうじゃないけど、舫い結びで
「ほら、ラッコも来たよ。ラッコの舫いも取
って結んできて」
隆は、雪に言った。
ポンツーンには、アンドサンクや他の船もい
っぱい泊まっていて、ラッコが泊められる場
所の空きが無かったので、ヘルムを取ってい
た香代は、ポンツーンに泊まっていたうらら
の横に泊めていた。
「わかった!」
雪は、走っていった。
雪は、くるくると舫いロープをクリートに結
んでみせた。
「まあ、今回はクリートがあったから、クリ
ートに結ぶのでも良いけど、舫い結びぐらい
は基本なのだから、ちゃんと結べるようにな
っておけよ」
上野さんは、雪に言った。
「すみません、しっかり結べるように教えて
おきます」
雪と一緒に、隆も上野さんに謝った。
「後は、わかるだろう?」
隆に言われて、隆からロープを受け取ると雪
は、それを全然違う方向に結ぼうとして、結
ばれずにするりと抜けてしまった。
「じゃ、いいよ。クリート結びはできるね」
隆は、雪が結ぼうとしていたビットの手前に
あるクリートを指差した。
「そっちのクリートに八の字でクリート結び
すれば良いだろう」
「それならばできる」
「どうしたの?」
隆が、ポンツーンにやって来て雪に聞いた。
「上野さん、うちの雪がどうかしました?」
「いや、もう半年ぐらい経つのに、まだ舫い
結びもぜんぜん結べないから」
「あ、すみません。私の指導不足です」
隆は、上野さんに謝っていた。
「そっちじゃないよ、下から通さないと」
隆は、雪の結ぼうとしているロープの一方を
取ると、雪の持っている側の下側に通した。
「まだ舫い結びもできないのか」
上野さんは、雪に呆れていた。
「とりあえず自分で思うように結んでみな」
上野さんは、自分のヨットのデッキ上から雪
に結び方を指示していた。
「そっちじゃない、下をくぐらすんだ。右か
ら下に向かって通す」
雪は、上野さんの指示を聞きながら、必死に
舫い結びをしようとしていた。
「右に通すんですよね」
「そこに舫い結びしてもらえれば、こっちで
ロープの長さを調整するから」
「はい、わかりました」
雪は、上野さんに元気よく返事はしたものの
舫い結びがうまく結べずにいた。
「何、うまく舫い結びができないのか?」
上野さんは、アンドサンクのデッキ上から、
雪に聞いた。
「あ、はい」
「君はラッコさんのとこの生徒さんだよね」
雪は、舫いロープを片手に持ったまま、アン
ドサンクの船体を抑えていた。
「どうした、結んでくれる?」
アンドサンクの上野さんが、自分のヨットの
船首にやって来て、ポンツーン側で舫いロー
プを手に持っている雪にお願いした。
「はーい」
雪は、持っていた舫いロープをクリートに引
っ掛けて、立ち往生していた。
「どうしたの?」
海上に下りたアンドサンクは、ポンツーンへ
着岸するために近づいて来た。
ポンツーンには、雪以外にもう1人いて、彼
がポンツーンに近づいて来たアンドサンクか
ら後ろ側の舫いロープを受け取り、ポンツー
ンのクリートに結んだ。
ポンツーンには、彼以外には雪しかいなかっ
たため、必然的に雪がアンドサンクの前側の
舫いロープを受け取ることになった。
「抑えておきます」
「アクエリアスだと、女性は香織ちゃん1人
だから、動きづらいんじゃない」
陽子が、隆に言った。
もうあと少しでラッコのクレーンの順番とい
っても、まだもう少し下ろしてもらえるまで
には時間がかかりそうだった。
ラッコが下りてくる前に、上野さんのアンド
サンクというヨットがクレーンで下された。
海上に下りたアンドサンクに、オーナーの上
野さんやクルーたちが乗り込んでいた。
雪は、一足先にポンツーンに向かった。
「香織って、ラッコだとよく動くな」
「え」
「アクエリアスだと、ただ乗っているだけな
のに、麻美子にくっついて、舫い出したりし
ているよ」
隆は、香織がラッコのデッキで作業している
のを眺めながら、陽子に言った。
「確かに。動きやすいじゃないの」
「そうなのか」
雪が言った。
「迷惑なわけないじゃん」
隆は、雪にも言った。
「ね、そろそろ順番来そうだから、私、先に
ポンツーンに行っているよ」
雪が、隆に言った。
「わかった、お願いします」
「ラッコがポンツーンまで来たら、向こうか
ら手を振るから、来てね」
「了解!」
隆は言った。
「卒業すると、ヨット自体に来れなくなるっ
て、思ってしまう人多いよな」
「卒業って言葉が悪いんじゃない」
陽子が、隆に言った。
「ちなみに、私も乗りに来るよ」
「わかってるって」
隆が、陽子に苦笑した。
「私も、隆さんと麻美ちゃんの迷惑でなかっ
たら乗りに来たい」
置かれているベンチに腰掛けて、お喋りして
船が下りてくるのを待つことにした。
「まだ当分かかるよ。あれだけの船が皆、下
りるのだからね」
「でも、来月で本当に卒業なんだね」
「私も、卒業したとしても、ラッコには、乗
りに来るからね」
さっきの香代の話を聞いていた瑠璃子が、隆
に念を押していた。
「だから卒業しても、普通に乗れるけどね」
「まだクレーンの順番が来るまで、時間が掛
かりそうだね」
「あんなに下ろす船があるんだものね」
土日の横浜マリーナの朝は、ヨットやボート
を出航する人が多いから、クレーンで海に下
ろすボートやヨットの数も多く、下ろすため
のクレーンが順番待ちになっていた。
「ベンチにでも腰掛けて、のんびり待ってい
ようか」
隆と陽子、瑠璃子、雪は、マリーナ敷地内に
かないだろう」
「だよね!」
香織は、嬉しそうに隆へ返事した。
「それじゃ、俺らは、ポンツーンでラッコが
降りてくるのを待っているから、香織は麻美
子や香代と出航の準備をして、クレーンで下
ろしてもらって、ポンツーンまで回してもら
えるか」
「わかった」
「ポンツーンで、舫いロープは受け取るよ」
「例えよ、例えって言っているでしょう」
「例えで、俺は悪人にされてしまうのか」
「悪人じゃないわよ。ね、香代ちゃん」
麻美子は、香代のことを背後から抱きかかえ
ながら、隆に言った。
「今日って、私もラッコに乗って出航しても
良いんだよね?」
「ああ、もちろん。だって、中村さんは用事
があって、マリーナには来れないし、アクエ
リアスは出さないんだから、ラッコに乗るし
「卒業したって、ラッコには乗りに来たって
良いんだよ」
隆は、麻美子と香代に答えた。
「うん、大丈夫よ。例え、隆がだめって言っ
ても、私が香代ちゃんのことヨットに誘うか
ら大丈夫よ」
麻美子は、香代のことを背後から抱きかかえ
ながら、香代に答えた。
「俺、一言も香代に乗ったらだめなんて言っ
てないけどね」
「私、卒業したくないな」
皆が、来月の卒業式の話をずっとしていたの
で、香代が心配になって麻美子に言った。
「あら、どうして?香代ちゃん、ラッコの艇
長できるし優秀じゃないの」
「だって、卒業したら、もうラッコに乗れな
くなちゃうんでしょう」
「あら、そうなの?」
麻美子は、隆に質問した。
「え?いや、そんなことないよ」
「そうか、香織ちゃんもアクエリアスに乗っ
ていくのよね」
陽子が、香織に聞いた。
「そうね」
香織は、隆の顔を見た。
「どうした?」
「卒業式はアクエリアスで行って、卒業した
らラッコなのよね」
「まあ、そうなのかな」
隆は、香織に答えた。
「本船航路の」
「ああ、この間行ったとき、本船航路を渡っ
たところ?」
「そう、だから館山よりはぜんぜん近いよ」
隆は、陽子に答えた。
「私たちは、ラッコで行くから良いけど、電
車で卒業式に行く人って大変だよね」
「電車で卒業式に参加する人いないだろう」
「皆、どこか自分の配属になったヨットに乗
って、千葉まで行くさ」
「え、卒業式って千葉まで行って、そこで
やるの?」
香織は、隆から話を聞いて驚いた。
「クルージングヨット教室って、もう来月が
卒業式なんだね」
麻美子は、ちょっと寂しそうに答えた。
「卒業式って、千葉のどこでやるの?」
「千葉の保田って漁港。観音崎の向かい側ぐ
らいのところにある港」
「観音崎の向かい側?」
「そうなんだ、まだ結果がわからないのね」
麻美子が、2人の会話を聞いて言った。
「いや、わかっていることはあるよ」
隆が、麻美子に言った。
「そうなの、なに?」
「初戦も下位だったし、コミッティーだった
り、不参加だったりしてるし、ラッコは絶対
優勝していないってことは、明らかだよ」
「ああ、そうなのね」
麻美子は、ちょっと残念そうに苦笑した。
「2位なんだ。じゃ、残念だったね」
「2位は今日のレース結果だから、シリーズ
通した時の総合順位はまだわからないけど」
「あ、でも初戦は、アクエリアスって終わり
の方じゃなかったかな?」
「それは、ラッコの成績でしょう。アクエリ
アスはそうでも無かったような」
「そうだったかな、初戦もアクエリアスって
速かったのか」
隆は、瑠璃子に答えた。
「あの船は、モーターセーラーでも、それな
りにセーリング性能が高い船だからね」
隆は、麻美子に言った。
「今日って、最終戦だけどパーティーって、
あるの?」
「今日は無いんだって。年末にやるクリスマ
スパーティーで表彰式するんだって」
「アクエリアスは2位でした」
瑠璃子がやって来て、隆に報告した。
「マジか、2位か」
「アクエリアスを片付けてきたの?」
麻美子は、陽子、香織と一緒に、テンダーに
乗って戻ってきた隆に聞いた。
「うん。ラッコは無事に片付け終わった?」
「終わっているわよ。何の問題もなしで、香
代ちゃんが操船して戻って来れたわよ」
「そうなんだ、香代は成長したな」
隆は、満足そうに答えた。
「中村さん、マリーナに戻ってきてからも、
ずっと順位を気にしているんだけど」
これるよな」
「うん、大丈夫じゃない、アンカーの操作の
仕方が少し不安だけど」
「アンカーの操作は、瑠璃子が全部わかって
いるよ」
隆は、麻美子に答えた。
「うん。大丈夫だよ」
瑠璃子が麻美子に答えた。
そして、隆たちは、先にアクエリアスでマリ
ーナへ戻っていった。