「そこのバス停の前の細い道を上がって行っ
たところに、大きなホテルというか郵便局の
かんぽの宿泊施設があるんだ」
隆が説明した。
「そこで日帰り入浴させてもらえるんだよ」
隆が指差したバス停の先には、上に上ってい
く山道が伸びていた。
「今日は、もうあの山道を登っていく気力は
ないかな」
瑠璃子が隆に答えた。
「そこのバス停の前の細い道を上がって行っ
たところに、大きなホテルというか郵便局の
かんぽの宿泊施設があるんだ」
隆が説明した。
「そこで日帰り入浴させてもらえるんだよ」
隆が指差したバス停の先には、上に上ってい
く山道が伸びていた。
「今日は、もうあの山道を登っていく気力は
ないかな」
瑠璃子が隆に答えた。
アクエリアスのメンバーは、自分たちの船か
らタオルや着替えなど入浴のセットを持って
またアクエリアスの中から表に出てきた。
「あ、お風呂に行きますか?」
隆は、中村さんに聞いた。
「おーい、お風呂に行くってよ」
夕食後、ブルーシートの上でのんびりお喋り
していたラッコのメンバーたちに言った。
「お風呂って、どこにあるの?」
麻美子が聞いた。
瑠璃子は、隆に言った。
「はいはい、麻美子お母さん」
隆が、麻美子に返事した。
なんだか、隆お父さんに麻美子お母さん、瑠
璃子お姉ちゃん、一番上の雪お姉ちゃん、陽
子、一番末っ子の香代ちゃんと、良い感じで
ラッコファミリーになって来た皆だった。
「お風呂に行ってくるよ」
夕食後、アクエリアスのメンバーたちは、立
ち上がると、隆たちに言った。
「隆が一緒にキャビンに入った時は、なんか
絡まれているんじゃないかと心配だったわ」
麻美子が、隆に言った。
「本当に絡まられているんだとしたら、危な
いから中に入ってくるなよ」
「そんなこと言ったって、隆のことが気にな
るじゃないのよ」
麻美子は、隆に言った。
「隆さん、ダメだよ。麻美ちゃんが心配にな
るようなことしたら」
「あんな車で大島を我が物顔で走り回ってい
るのだから、全く不良坊主だよな」
中村さんも、麻美子に言った。
大島の坊主は、もともと隆たちがヨットを保
管している横浜マリーナのすぐ隣にある横浜
市のヨットハーバーに、ヨットを置いている
鈴木さんの知人だった。
隆たちも鈴木さんと一緒に、大島に立ち寄る
度に、坊主と会っていて知り合いになってし
まったのだった。
隆は、麻美子のことを、坊主に紹介した。
「大島村で一番の有名なお坊さん」
坊主のことも、麻美子に紹介した。
坊主は、ただのスキンヘッドにしているとい
うわけではなく、本当にお坊さんだった。
船内を見てから、しばらく一緒に話した後、
また坊主は、派手なスポーツカーに乗って爆
音をたてながら帰ってしまった。
「本当に、お坊さんだったんだ」
麻美子は隆に言った。
「これか、隆くんの新しく買ったヨットは」
坊主が、隆に言った。
「船内に入ってみますか?」
隆は、その坊主をラッコの船内に招き入れる
と、キャビンの中を案内していた。
なんか派手なスポーツカーで突然やって来て
隆に声をかけてくるし、誰かガラの悪い人だ
ったらどうしようと心配になった麻美子は、
思い切って一緒にキャビンに入った。
「うちのクルーで、俺の大学の同級生です」
皆が、岸壁で夕食を食べていると、真っ赤で
派手なスポーツカーが大島の山を下って、波
浮港の港に入って来た。
明らかに大島の漁港には似合っていないスポ
ーツカーだった。
「おーい、隆くーん」
そのスポーツカーの中から坊主が降りて来て
隆に大声で声をかけて来た。
「ああ、お久しぶりです」
隆も、坊主に大きな声で返事していた。
「これ、お酒が進んじゃうよ」
麻美子が言った。
「でしょう、麻美ちゃんも飲める方なんだ」
中村さんが、麻美子に言った。
「麻美子は、昔から酒は強いですよ」
隆が、中村さんに答えた。
「良いんじゃないの、明日も仕事無いし、お
休みなんだから飲んでしまっても」
瑠璃子が、麻美子に言った。
「そうね」
「そうなのね」
麻美子は、納得した。
「なんか今夜は、麻美子ずいぶんと博学にな
ってないか。さっきは川端康成で、今度はく
さやの研究」
「そういうわけじゃないけど」
麻美子は、お酒を一口呑みながら答えた。
「え、やばい」
麻美子は、お酒を呑んだ後に、焼いたくさや
を一口食べて叫んだ。
隆は、波浮港の丘の上にある小屋を指差した
「あそこが、このくさやを作っている加工小
屋なんだよ」
中村さんも、麻美子に説明した。
「へえ、昼間とか行ったら、作っているとこ
ろを見せてもらえるのかな」
「さあ、どうかな」
隆が答えた。
「見せてもらえたとしても、中に入ったら、
匂いが染みついて、大変だよ」
「もう焼いてあるから」
「焼く前のくさやを嗅いでみなよ」
麻美子は、隆に言われて鼻を近づけた。
焼いた後だとそれほどでもないが、まだ焼く
前のくさやを嗅いでみると、なかなか独特な
匂いが魚から出ていた。
「匂うけど、なかなか美味しいわね」
麻美子は、一口食べて言った。
「あそこで、このくさやは作っているんだ」
隆が、麻美子に言った。
「やっぱ、美味いよな」
もう何度も、大島には来ている中村さんやア
クエリアスのクルーたちは、隆たちが焼いた
くさやを食べながら、口々に話していた。
「日本酒を飲みながら食べる大島のくさやは
最高だよ」
中村さんは、麻美子に言った。
麻美子は、隆が匂いがすごいと言っていたの
で、くさやに鼻を近づけて、嗅いでみた。
「それほど匂いが強くはないわね」
「ちょうど良いじゃん、食べてすぐトイレに
行きたくなったら、すぐに行けるよ」
隆は、笑っていた。
ラッコの皆が、そこの岸壁に大きなブルーシ
ートを敷いて夕食を食べ始めると、アクエリ
アスのメンバーたちもやって来た。
「美味しそうな魚だね」
「一緒に食べますか?」
アクエリアスのメンバーたちも、同じブルー
シートの上で一緒に食事することとなった。
「本当に、こんなところで食べるの」
麻美子たちが、捌き終わった魚を盛り付けた
お皿を持って、キャビンから出ると、目の前
の岸壁にいる隆たちのところへ移動した。
ラッコの正面の岩壁は、ちょうどバス停の目
の前で1時間に1、2本のバスが停まる度に
お客さんが数人降りてくる。
おまけにすぐ側には公衆トイレまであった。
「トイレの真ん前だよ」
瑠璃子が言った。
「魚たちがピチピチだよね」
「新鮮だし、料理も簡単だから、魚はお刺身
で良いんじゃないかな」
麻美子の提案で、買ってきた魚はみな、お刺
身で食べることになった。
「新鮮だし、お刺身が一番美味しく食べれそ
うだしね」
あとは、お米を炊いて、ちょっとした付け合
わせのサラダを用意して、今晩の夕食は完成
だった。
麻美子は、どこかに、くさやを持って行こう
としている隆と陽子に聞いた。
「キャビンの中で、くさやなんか焼いたら、
キャビンの中が、くさやの匂いで大変なこと
になってしまうから、岸壁で焼くよ」
隆と陽子は、くさや担当で岸壁に行って、く
さやを焼き始めていた。
残った麻美子、雪に香代、瑠璃子は、キャビ
ンの中で買ってきたタコや魚を捌いていた。
「この魚って、採れたてじゃないの」
「暖かいし、夕食はキャビンの中ではなく、
岸壁で食べようよ」
隆の提案で、夕食はラッコが停泊している正
面の岸壁にブルーシートを敷いて、そこで食
べることになった。
「くさやってどこにある?」
隆は、麻美子に聞いた。
陽子は、カセットコンロと網を手に持ってい
「くさや、どこに持っていくの?」
麻美子が、隆に聞いた。
「あ、隆さんって、そう言う事言うんだ」
陽子が、隆に言った。
「え。あ、いや別に、麻美子の出産祝いに大
島までラッコで連れて来るのは良いけどさ」
隆が慌てて、陽子に返事した。
「麻美ちゃん、連れて来てくれるって」
「本当に?」
麻美子が、陽子に言った。
「それは楽しみだな」
麻美子が嬉しそうに頷いた。
「麻美ちゃんが、自分の子供と一緒にまた来
たいってよ」
瑠璃子は、隆に言った。
「ああ、大島は東京の浜松町から大型客船も
出航しているから、いつでも来れるさ」
隆が、瑠璃子に答えた。
「いや、ラッコで子供と来るから良いのよ」
「なんで、俺が麻美子と子供のことをここに
もう一回連れてこなきゃいけないんだよ」
隆が答えた。
「私は、子供できるかわからないけど、って
いうか結婚するかもわからないけど」
雪が、麻美子に言った。
「麻美ちゃんは、子供が出来たら、また子供
とここに来たら良いよ」
「それを言ったら、私だって結婚できるかど
うかわからないし、そしたら子供は香代ちゃ
んでいいか」
背の低い香代の頭を撫でながら、麻美子が香
代に言った。
「ここの記念館って、無料なのにいろいろ勉
強にもなるし面白いね」
麻美子は、施設の中を見てまわりながら、
呟いていた。
「ね、もし私たちが結婚して子供ができたら
お互い自分の子供を連れて、またここに来た
くない」
麻美子は、自分と年齢の近い雪に言った。
「隆、私と雪ちゃんに子供が出来たら、子供
と一緒にヨットでまた連れて来てね」
記念館は、波浮港より少し上に上がったとこ
ろに位置していて、ちょうど、蝋人形の川端
康成の腰掛けている前方の窓から伊豆七島の
海が見えるオーションビューだった。
「こういう景色を見ながら、川端康成は雪国
とかの小説を書いていたんだな」
食卓には、川端康成がいつも食べていた料理
なども並び、蝋人形の調理人が調理場で料理
している姿まで再現されていた。
「川端康成って結構グルメ通だね」
「川端康成の記念館だってさ」
「川端康成って雪国の作家でしょう。静岡と
伊豆半島の方の人じゃないんだ」
「静岡から海を渡ったらすぐだし、大島にも
いたことがあったんじゃないの」
入場もかからず、無料で入館できる記念館だ
ったし、皆は記念館の中へと入ってみた。
和室の部屋がいくつもあって、それぞれの部
屋には蝋人形が置かれていて、当時の川端康
成の過ごしていた場面が再現されていた。
「お魚ずいぶんたくさん買ってしまったけど
捌くの時間かかりそう」
「皆で捌けば、すぐ終わるよ」
いつも料理を担当している麻美子に、隆が答
えた。
「階段だ!上まで上がれるよ」
道の突き当たりまで行くと、石の階段が上へ
と伸びていた。皆は、せっかくだからと、石
の階段を上がって行く。
なんかの記念館みたいなところに出た。
「俺が焼くよ」
隆が言うので、他の魚と一緒に、くさやも何
匹か買っていくこととなった。
「やっぱり、海だし、お魚料理が中心になっ
てしまうわよね」
麻美子は、買い物を終えて言った。
「突き当たりまで行ってみようか」
隆の提案で、皆は漁港の外れを抜けて、さら
に先、突き当たりまで歩いて行ってみた。
「のどかで良い街ね」
「美味しそうなタコじゃない」
魚屋さんには、今朝捕れたばかりのタコが何
匹も店頭に並んでいた。
「今夜は、くさやを食べようよ」
隆は、魚屋に置いてあったくさやを見つけて
麻美子に提案した。
くさやは、魚を独特のタレに漬けて干したも
ので、伊豆諸島の名産だった。
「くさやなんて料理したことないわ」
麻美子が、隆に言った。
「夕食の買い物に行こうか」
麻美子の言葉で、ラッコの皆全員はラッコを
降りると、波浮港の街を歩いていた。
波浮港は、大島では一番大きな漁港で、漁師
さんたちの住んでいる住宅地でもあった。
漁港のすぐ側に小さなお店が何軒か並んでい
て、住民は、そこで日常のお買い物をしてい
るようだった。
麻美子たちは、その漁港のお店を1軒ずつ見
て周っていた。
ラッコのアンカーは、船の最先端に付いてい
るため、アンカーは前から落とすので、船は
バックで大島の岸壁に着岸していた。
アクエリアスのアンカーは、後部のロッカー
から出しているので、そのまま船の後端から
アンカーを打っていた。
なので、アクエリアスは、船の先端から大島
の岸壁に突っ込み、槍付けで着岸していた。
「アンカー、レッコー!」
船長の合図で、アンカーを落としていた。
ラッコのアンカーは、船の最先端にぶら下が
っていて、隆がコクピットからスイッチ一つ
押すだけでアンカーが海に落ち、打てるよう
になっていた。
「アンカー、レッコー」
アクエリアスのアンカーは、普段、コクピッ
ト内のロッカーに仕舞ってあって、使う時に
人間が長いアンカーロープとアンカーを持っ
てデッキ上を移動して、海に向かって手動で
アンカーを投げ入れるようになっていた。