明星学園・第100話

「かおりちゃんは、きっとクラスでの雰囲気

が悪くなるのを嫌って、言わなかったんでし

ょうね」

お母さんは、今日学校であったことを娘2人

から聞いて、述べていた。

「ゆみちゃんは、かおりちゃんに黙っている

ように言われたから言わなかったのよね」

お母さんに言われて、ゆみは頷いた。

「で、誰にいじめられたの?」

「川上君と2組の人」

ゆみは、お母さんには全て話していた。

明星学園・第99話

かおりが、そっと手振りでシーっと、ゆみに

囁かれたので、続きを言うのを辞めた。

「誰なの?」

「私も、まだ1組の皆のことを覚えられて

いないからわからない」

ゆみも、かおりの真似をして黙っていた。

「なんで、2人して黙っているのよ」

祥恵は、ゆみに言った。

「ともかく、今日は遅くなるから帰ろう」

佐伯先生は、かおりを連れて、祥恵は、ゆみ

を連れて家へ帰宅した。

明星学園・第98話

「誰にやられたんだ?」

佐伯先生が、かおりに聞いた。

「私、目が見えないから、誰にやられたかは

わからないよ」

「目が見えなくても、誰だかわかるだろう」

佐伯先生は、再度かおりに聞いた。でも、か

おりは誰にやられたかを口にしなかった。

「ゆみ、誰にやられたの?」

祥恵が、ゆみに聞いた。

「あの、お姉ちゃん。川」

ゆみは、途中まで言いかけたが、

明星学園・第97話

「本当に大丈夫なの」

祥恵は、ゆみのことを立たせると、かおりが

立つのにも、手を貸して車椅子へ腰掛けさせ

ていた。

「お待たせ!」

佐伯先生も、職員会議を終えて戻ってきた。

「どうした!?」

祥恵が手を貸して、かおりのことを車椅子に

座らせているのを発見して、慌てて走って2

人のいる所へやって来た。

「大丈夫なのか?」

明星学園・第96話

「お姉ちゃん、ここだよ」

ゆみは、黒板の前の床に、かおりと一緒に転

がっていた。

「あんた、何をやっているの?」

「私と一緒に、ちょっと男の子たちにいじめ

られちゃっていたんだよね」

かおりが代わりに、祥恵に答えた。

「え、大丈夫なの?」

「大丈夫よね」

かおりに聞かれて、ゆみは頷いた。

「ゆみちゃんが、私を守ってくれたの」

明星学園・第95話

「もちろん知ってるわよ」

かおりは、ゆみに答えた。

「祥ちゃんの妹でしょう。すごく頭が良くて

優秀だから、飛び級で中等部に進級できたの

よね。チビじゃないよね」

かおりは、ゆみに言ってくれた。

「ゆみ、お待たせ!」

バスケ部の練習で汗を流してきた祥恵が、練

習を終えて、教室に戻ってきた。

「ゆみ、どこにいるの?」

ゆみは、自分の席にはいなかった。

明星学園・第94話

「ゆみちゃん、大丈夫?」

かおりは、ゆみの側まで来ると、ゆみのこと

を抱きしめてくれた。ゆみは、かおりの胸の

中で思い切り泣いてしまっていた。

「私のことを助けてくれたんだよね」

かおりは、ゆみに言った。

「でも、私がいじめられちゃって、かおりさ

んのことを助けられなかった」

「ううん、助けてもらえたよ」

かおりは、優しくゆみの頭を撫でてくれた。

「私のことを知っているの?」

明星学園・第93話

2人は、1組の教室を出たところにある中等

部校舎裏の非常階段から表に出ると、家へ帰

ってしまった。

「うああああ〜ん」

1組の教室に残されたゆみは、今までずっと

我慢していた涙が溢れてきて、泣き出してし

まった。

「ゆみちゃん、大丈夫?」

かおりは、動かない足を引きずりながら、車

椅子から降りると、ゆみの泣き声がする方に

近寄ってきてくれた。

明星学園・第92話

「おまえは小学生だろうが」

川上は、ゆみに言った。

「ここは中等部なんだよ。小学校に帰れよ」

2人は、ゆみのことを笑い出した。

「小学校に戻れよ、小学生」

「チビ!」

2人が、ゆみをいじめて楽しんでいた。

「お、なんか誰か来るぞ」

教室の外、廊下の向こうから足音がした。

「行こうぜ」

「お、そろそろ帰るか」

明星学園・第91話

「やめなさいよ!」

「うっせえな!目くら」

川上は、かおりに言い返した。かおりは、泣

き出してしまっていた。

「なんか泣いているぜ」

「目が見えないくせに、どうやって涙が出る

のだろうな」

川上たち2人は、かおりを笑っていた。

「かおりさんのこといじめないで!」

ゆみは、2人に言った。

「チビは黙っていろ!」

明星学園・第90話

「そうだよ。こいつ、ゆみっていうんだ。チ

ビで年下のくせに、俺らのクラスに入って来

た生意気なやつなんだよ」

川上は、自分と同じぐらいの背丈のゆみにチ

ビと言っていた。

「俺たちより年下のくせに、何を偉そうに説

教しているんだよ!」

2人は、今度は、かおりでなく、ゆみのこと

をいじめ始めた。

「おまえ、生意気なんだよな」

川上は、ゆみのことを怒鳴りつけた。

明星学園・第89話

「なんか言ったか?」

川上たちは、かおりの側から離れて、ゆみの

方にやって来た。

「逃げなきゃ、いじめられる」

そう直感したゆみは、慌てて1組の教室から

逃げ出そうと、扉の方に走り出した。

「待てよ」

川上が、走っているゆみの前に、自分の足を

出した。ゆみは、出した川上の足につまずい

て、ひっくり返った。

「こいつさ、俺らよりも年下だろう」

明星学園・第88話

「おい!おまえ、本当は読めてないよな」

「先生や親の前だけ、読んでる振りしている

だけなんだろう。勉強してる振りかよ」

川上たちは、かおりの事をからかっていた。

「目くら!目くら!」

川上たちは、かおりの事をからかい続けてい

て、かおりは黙って、それに耐えていた。

「ね、やめなさいよ!」

教室の前、窓際の方の席に座っていたゆみは

思わず川上たちに叫んでしまった。

「え、なになに」

明星学園・第87話

「ね、何をしているの?」

川上は、かおりに声をかけた。

「勉強か?」

2組の彼も、かおりに聞いた。

「これって、なんて書いてあるのかな」

かおりが、机の上に広げていた点字の本を眺

めながら呟いた。

「目が見えないくせに、どうやって、こんな

本を読んでいるのだろうな」

「読んでる振りしてんじゃないの」

川上たち2人は、笑いあっていた。

明星学園・第86話

「あーあ、なんかつまらないね」

川上は、呟いた。

「なんか飽きてきたね」

2人は、ソファの上にバタンと寝転がりなが

ら、話していた。

「あれ?」

川上は、教室の前の席に腰掛けているかおり

の姿に気づいた。

「ちょっと来いよ」

川上は、彼と一緒に、かおりのいる教室の前

へと移動した。

明星学園・第85話

1組の教室には、もう皆帰ってしまっていて

誰もいないものと思っていた。

しかし、教室の前の方には、佐伯先生が職員

会議から戻ってくるのを待っているかおりと

バスケ部の練習から戻ってくるゆみの2人が

残っていた。

「1組って、教室の後ろにソファがあるの」

「ああ、うちの佐伯先生が、どこかの処分場

から拾ってきたらしい」

「拾ってきたソファなの!」

2人は、ソファにダイブして、遊んでいた。

明星学園・第84話

川上君は、1組で一番背の低い男の子だ。そ

の身長は、年下のゆみと同じぐらい程度しか

なかった。

背が小さいだけでなく臆病者で、そのためク

ラスでもいつも目立たないように、静かにひ

っそりと過ごしていた。

そんな彼にも、2組に仲が良い男の子がいて

よく彼と2人で遊んでいた。

「誰もいないから、1組の教室に来いよ」

放課後、川上は、彼のことを誘って、2組

から1組の教室に戻ってきた。

明星学園・第83話

「だから、ゆみちゃんも、かおりちゃんと仲

良くしてあげなきゃだめよ」

「うん」

ゆみは、お母さんに返事した。

「かおりちゃんって、私よりも年上だよね」

「お姉ちゃんと同い年だから、年上かもね」

「仲良くしてくれるかな」

ゆみが、お母さんに聞いた。

「ゆみが、お友達になって仲良くしてあげた

ら、きっと向こうも仲良くしてくれるわよ」

「かおりちゃんとお友達になりたい」

明星学園・第82話

「そういう事なんだって」

お母さんは、ゆみに話していた。

「かおりちゃんのために一生懸命になってあ

げて、小等部から中等部になってまで担任も

続けて。佐伯先生は立派な先生ね」

お母さんは、ゆみに説明した。

「良い先生なんだ」

ゆみは、お母さんに答えた。

「頭がモシャモシャで、変わった先生だけど

うちのクラスの担任が良い先生で良かった」

「そうね」

明星学園・第81話

「お母さん、今日初めて、ゆみからその話を

聞いて、びっくりしたわよ」

お母さんは、祥恵に言った。

「あなたも、もう少し学校であった事を、ゆ

みみたいに話してもらえると嬉しいわ」

「はいはい」

祥恵は、お母さんに返事した。

「っていうか、私が別にお母さんへ話さなく

ても、どうせ同じクラスのゆみが話すんだか

ら、私は話さなくても良くない」

祥恵が、お母さんを論破した。

明星学園・第80話

「かおりちゃんとは、あなたも小等部からず

っと一緒だったの?」

「そうよ」

「だったら、あなたも車椅子で見えない子が

いるって、お母さんにも教えておいてよ」

「別に、話す必要ないじゃん」

祥恵は、お母さんに言った。

「お母さんには関係ないし」

「関係ない事ないでしょう。あなたは、お母

さんの娘なのだから」

お母さんは、祥恵に言った。

明星学園・第79話

「でも、小等部の時に、病気で足が動かなく

なって、目も見えなくなってしまったの」

祥恵は、お母さんに説明した。

「本当は、障害者の学校へ転校するんだろう

けど、皆と別れたくないって佐伯先生に相談

して、今もうちの学校に通っているの」

「あら、そうなの」

「佐伯先生って本来は、小等部の先生なんだ

けど、彼女の事があるからって、今回は中等

部の担任に、そのままなったのよ」

祥恵が言った。

明星学園・第78話

「祥恵、あなたのクラスに、目が見えない子

がいるの?」

お母さんは、祥恵に聞いた。

「かおりちゃんのこと?」

「そうかな。さっき、ゆみから聞いたけど」

お母さんは、祥恵に言った。

「今日のホームルームで、佐伯先生が皆に、

かおりちゃんの事を話したからじゃない」

祥恵は答えた。

「かおりちゃんは、小等部までは普通に目が

見えていたのよ」

明星学園・第77話

「1人で帰れないじゃなくて、もう中学生な

んだし、頑張って1人で帰れるようになりな

さいよ」

祥恵は、ゆみに言ったが、結局ゆみは、1人

では帰れず、それから高校卒業するまで、ず

っと、ゆみは姉の祥恵と帰ることになった。

「お姉ちゃんを待ってる」

その日の放課後も、ゆみは、姉の祥恵がバス

ケ部から戻って来るまで、教室で1人自習し

て待っていた。

「お勉強してるから大丈夫」

明星学園・第76話

「ゆみは、今日どうする?」

放課後、祥恵が、ゆみに聞いた。

「私は、これからバスケ部の練習があるんだ

けど、ゆみだけ先に帰る?」

「待っている」

ゆみは、祥恵に答えた。

「待っているって、バスケ部終わるまで、ず

っと待っているつもり?」

ゆみは、祥恵に頷いた。

「1人で帰れないもん」

「1人で帰れないって、あんたは」

中古車輸出・第44話

「でも、シャランちゃんとかケニアからベン

ツの注文をもらっていた気するけど」

「そうだよな」

つい最近、スリランカ人の営業担当が、うち

に届いたオファーメールをきっかけにケニア

の石油会社から受注して、ベンツを何台かケ

ニアに輸出していた。

「シャランは、おまえの取ったオファーメー

ルでしか営業していないものな」

社長は、ゆみに頷いた。

「どうしたものかな」

中古車輸出・第42話

「うちの会社に来るオファーメールは良くな

いものが多いのか?」

今井ゆみは、社長室に呼ばれて質問された。

「そうなんですか?」

「そういう風に言っている人が営業にいるん

だけど・・」

社長にそう聞かれたが、毎日届くオファーメ

ールをプリントアウトすると、そのまま営業

担当の人たちに手渡してしまっているだけの

今井ゆみには質が悪いのかどうか判断できな

かった。

中古車輸出・第41話

もし彼が、今井ゆみが集めていたオファーの

海外バイヤーの質が悪いと言ってくれなかっ

たとしたら、今井ゆみが実際の中古車輸出業

の実務に関わることも無かったであろう。

そしたら、中古車輸出業の実務のことは何も

わからず、お姉ちゃんがプリンセストレーデ

ィングを起業してくれた時も、お姉ちゃんに

自動車を日本の市場から探し出す方法も、船

積み方法や車の輸出手続きを聞かれても、ど

うやったら良いのかを全く答えられなかった

ことだろう。

中古車輸出・第40話

「え、なんでよ!私が悪いの?」

今井ゆみは、ラオス人の彼の言葉にはじめは

ちょっと悔しくもあったけど、この事がきっ

かけでホームページのデザインだけしている

のではなく、実際に海外バイヤーと交わり、

中古車輸出業の根幹である中古車輸出業の実

務にまでこだわれるようになれたのは、彼に

感謝でした。

「そんなに質が悪いのかな」

「そう言う人がいるんだけどな」

社長は、今井ゆみに告げた。

中古車輸出・第39話

「ゆみちゃん、おまえの取って来るオファー

メールは質が悪いのか?」

社長は、今井ゆみに聞きました。

そして、今井ゆみは、オファーを出してくれ

た海外バイヤーとも深く関わるようになって

彼らの自動車を日本の市場から探し出し、実

際の船積み、ブッキングなどをして、車の輸

出手続きを行い、彼ら海外バイヤーの国の港

へと自動車を届ける中古車輸出業の実務にま

で関わるようになったのでした。

「そんなことないと思うけど」

中古車輸出・第38話

「うちの会社に来るオファーメールの質が悪

いのかもしれないです」

ラオス人の彼は、当社宛てにオファーを出し

てくる海外バイヤーは、そんな真剣に日本か

ら自動車を買う気もなく、なんとなく冗談半

分でオファーを出していたり、いたずらやス

パム的にオファーを出してきているのが多い

のではないかと社長に伝えました。

彼のこの言葉がきっかけになって、本来はウ

ェブデザイナーだった今井ゆみが、実際の営

業にも携わっていくようになりました。

中古車輸出・第37話

他にも、日本の中古車を輸出している人はた

くさんいるのだから、その中でおまえから買

うと気持ち良く商談が進められると思っても

らえたら、その海外バイヤーは、おまえから

車を買ってもらえるんだぞ。

社長は、ラオス人の営業スタッフに熱を入れ

て指導しています。

「車の注文を取るのも大変よね」

今井ゆみは、マグコップのお茶を飲み、キー

ボードの操作しながら、社長室から聞こえて

くる2人の会話を聞いていました。

中古車輸出・第36話

「先週、ゆみちゃんから配られたケニアとの

商談の話はどうなったんだ?」

彼は、日本の大手中古車販売店で販売員をし

ていたのだが、どうしても国内でなく世界へ

中古車輸出をしてみたいと横浜の貿易会社へ

転職してきたのだ。

「そんな返事の書き方では相手から返ってこ

ないに決まってるだろう」

社長は、ラオス人の彼に言った。

「もっと相手のことを考えて、思いを込めて

メールを書いてあげないと返事も来ない」

中古車輸出・第35話

「どうして商談が進まないんだ?」

社長室内から社長がラオス人の営業スタッフ

に激を飛ばしている声が聞こえてきます。

彼は、日本の中古車店で販売スタッフとして

働いていたのだが、中古車オークション会場

で社長と知り合い、中古車の輸出販売がやっ

てみたいと直訴して、ゆみたちの働く横浜の

貿易会社に転職したのだった。

転職をして、もう3ヶ月になるというのに、

未だに自国のラオスはもちろん、その他の国

々からも注文を1件も取れていなかった。

中古車輸出・第34話

今井ゆみは、ウェブデザイナーなので、実際

の海外バイヤーとの商談には、直接関与して

いません。

その日のオファーを振り分け終わると、後は

翌日以降のオファーを取るためにサイトの構

築、SNS運用などの作業に従事します。

「どうして商談が進まないんだ?」

今井ゆみは、明日以降の海外バイヤーからの

オファーも、今日来た海外バイヤーからのオ

ファーのようにたくさん来るようにとホーム

ページの更新作業をしていた。

中古車輸出・第33話

今井ゆみは、各営業担当者たちに本日の海外

バイヤーからのオファーを配り終えて、マイ

カップのミルクティーを飲みながら、自分の

デスクで少しホッとしていました。

「このオファーからメールしていくか」

毎日、横浜の貿易会社宛てに届くたくさんの

海外バイヤーからのオファーは、それぞれ割

り振られた各営業担当者たちと海外バイヤー

の間で車の商談が進められて、見積もり、入

金、車の仕入れ、船積みと取引が進められて

いきます。

中古車輸出・第32話

この各国のバライエティ豊かな外国人スタッ

フたちが、後に中途採用されてくる小倉まな

みと社長との間で経営方針の相違が表面化し

てくるきっかけになってくるのですが。

今は、その事は置いておきましょう。

今井ゆみは、国際色豊かなスタッフたちにオ

ファーを振り分けていました。

「はい、今日の届いたオファーです」

「ありがとう」

今井ゆみから配られた海外バイヤーからのオ

ファーを基に、商談を進めていきます。

中古車輸出・第31話

今井ゆみは、毎朝出社すると、まずはその日

に、自動車の海外バイヤーから届いた車のオ

ファーをチェックします。

チェックした車のオファーは全て、会社のプ

リンターでプリントアウトして、営業担当者

向けのバインダーに挟んで各輸出担当者たち

に配ります。

横浜の貿易会社には、十数名前後の営業担当

者がいます。日本人スタッフだけではなく、

アフリカやスリランカ、中東アジアなど各国

のスタッフが働いています。

ヨット教室物語・第194話

「隆は、明日横浜マリーナへ行くんだし、そ

ろそろ寝る?」

「そうだね」

「じゃ、私は、弟の部屋のベッドメイクして

くるね」

「いいよ。そのぐらい自分で出来るから」

隆は弟の部屋に1人で行った。

「あんたも、一緒に行ってみてあげなさいよ

「うん、わかっている」

麻美子は、隆の後を追っかけた。

「あの2人、何かきっかけがあればね」

ヨット教室物語・第193話

「だいたい、俺には、渋谷に自分の会社があ

るのに、サンフランシスコに赴任できるわけ

ないじゃん」

隆が、麻美子に返事した。

「それは、まあ、そうね」

「サンフランシスコはともかく、中目黒から

渋谷へ通うことは出来るわよ」

麻美子の母親が、棚の中の食器をチラつかせ

ながら、隆に言った。

「お母さん!」

麻美子は、自分の母に苦笑していた。

ヨット教室物語・第192話

「だから、隆ってそうなの?」

麻美子が、再度隆に聞いた。

「え、何が」

「だって、サンフランシスコに赴任させても

らえたり、高級食器もらえたりって話すから

お礼を言っただけなんだけど」

「あ、それだけね」

麻美子は、ホッとしたように呟いた。

「お礼なんか言うから、その、隆が私と結婚

したいのかと思ったわよ」

「そういうのじゃないよ」

ヨット教室物語・第191話

「ここの棚に入っているものは、ヨーロッパ

から取り寄せたとっても良い食器なのよ」

「お母さんも、変なこと言い出さないでよ」

麻美子は、自分の両親たちに苦笑していた。

「ね、見て」

麻美子の母は、食器を1個手にとると、隆に

見せた。

「良い食器ですね」

「でしょう、隆さんにあげてもいいわよ」

「ありがとうございます」

隆は、麻美子の母親にもお礼を言った。

ヨット教室物語・第190話

麻美子の父は、しきりに隆のことを自分の貿

易会社に誘いたがっていた。

「お母さんも、隆くんが、うちの麻美子と

一緒になってくれたら、中目黒の実家にあ

るもの全部、隆くんに譲ってしまうわ」

麻美子の母は、キッチンにある高級な食器が

飾ってある棚の中を眺めながら、隆に話しか

けていた。

「ありがとうございます」

隆は、麻美子の母親にお礼を言った。

「え、隆ってそうなの?」

ヨット教室物語・第189話

「そうなんだ。サンフランシスコっていうの

は、ヨットマンには羨ましい環境だよな」

隆が、麻美子の話に答えた。

「隆くんが、うちの会社で貿易商になってく

れると言ってもらえるなら、こいつの弟なん

て、すぐに辞めさせて、サンフランシスコ店

の支店長に昇格させるけどな」

麻美子の父が、隆に言った。

「お父さん、隆が返事に困るようなこと言わ

なくていいのよ」

麻美子は、父の言葉に咳き込んでいた。

ヨット教室物語・第188話

「だってよ」

「別に良いんじゃない」

麻美子は隆に答えつつ、父にも答えた。

「そうなんだ。少し前に、LINEで弟と話

した時に、私が隆の買ったヨットに毎週末乗

っているって話をしたんだ」

麻美子は言った。

「そしたら、ヨットなんてサンフランシスコ

じゃ、周りじゅう海に囲まれていて、あっち

こっち走っているから全然珍しくないんだっ

てさ」

ヨット教室物語・第187話

「次の海の日の三連休も、あなたたちは、ヨ

ットでお出かけするの?」

「そのつもりだよ」

麻美子は、自分の母親に返事した。

「まあ、次の三連休はヨットで出かけてもい

いけど、その後の週末は、仕事で弟が日本へ

帰ってくるぞ」

麻美子の父は、姉である麻美子に伝えた。

「それじゃ、再来週は泊まれませんね」

「隆さんは、麻美子の部屋に予備ベッド持

っていって、そこで寝たら良いわよ」

ヨット教室物語・第186話

隆は、普段、会社がある平日は、ここではな

く渋谷の自分の家で過ごしていた。

麻美子の母にとっては、隆とは、週末の休日

しか会えないので、今夜は中目黒の家で過ご

してほしかったようだ。

「これから、夜道を走って横浜まで向かうの

も面倒だし、明日の朝でいいか」

「隆が、それで良いなら、私は別にどっちで

も良いけどね」

麻美子は、取ってきた鍵を元あった場所に戻

しながら、隆に返事した。

ヨット教室物語・第185話

隆は、麻美子の母親が作ってくれた夕食を食

べた後で、麻美子家の皆とリビングでゆっく

りしているときに、麻美子へ話しかけた。

「別に良いけど」

麻美子は、クローゼットに置いていたエステ

ィマの鍵を取ってきつつ、隆に返事した。

「夜のドライブにでも出掛けちゃおうか」

「何も、こんな真っ暗になってから横浜まで

車を出さなくても良いんじゃないの」

麻美子の母親は、夜中に横浜まで出かけよう

としている2人に声をかけた。

ヨット教室物語・第184話

「確かにそうでした」

隆は、麻美子の母親に答えた。

「そういえば、車屋さんで、麻美子って俺の

奥さんとかって呼ばれてなかった?」

「うん。隆と出かけると、いつも言われるこ

とだから一々訂正しなかった」

麻美子は、隆に言った。

「夕食にしましょうか」

麻美子のお母さんが、皆を呼んだ。

「どうせなら、今夜のうちにマリーナに行っ

て、ラッコの船に泊まらないか」

ヨット教室物語・第183話

「それじゃ、早速、明日の日曜日は、隆社長

を横浜マリーナまでお送りするために、買い

換えたばかりの自動車で、お家までお迎えに

行きましょうか」

「頼む」

隆は、腕組みをしながら麻美子に答えた。

「社長さん、明日は別に渋谷までお迎えに行

かなくたって、隆さんが空いている弟の部屋

のベッドで泊まっていけば良いじゃないの」

麻美子の母親が、2人の会話に割って入って

言った。

ヨット教室物語・第182話

「なんなら、ここから会社に行く時も、この

車で渋谷に立ち寄って、秘書だけじゃなく、

俺の運転手もしてくれないかな」

麻美子は、隆の話を聞いて、思わず吹き出し

てしまっていた。

「隆って、前にも会社で運転手が欲しいって

言っていたものね。うちから渋谷まで東横線

で帰るって話よりも、私に運転手をやってく

れっていう方が話のメインでしょう」

隆の考えていることをズバリと当ててしまっ

ていた麻美子だった。

ヨット教室物語・第181話

「お母さんも、お父さんも、もう車の運転し

ないし、ここに置いておくのは別に良いと思

うんだけど、ここから自分の家の渋谷に帰る

とき、隆はどうするのよ」

「俺は、ここからなら中目黒駅から東横線で

帰れるし。麻美子に家まで送ってもらっても

良いし」

隆は、麻美子に提案した。

「麻美子って、うちの会社で俺の秘書をして

くれているじゃない」

「そうね」

ヨット教室物語・第180話

「運転しやすい?」

「うん。オートマだし、周りの見晴らしも良

いし、ぜんぜん楽に運転できたよ」

麻美子は、隆に聞かれて返事した。

「あのさ、渋谷の俺のうちのマンションの駐

車場ってけっこう駐車料金高いじゃない」

「そうね」

「この車って、今までの車より屋根高めだし

立体駐車場に入るかどうかもわからないし、

麻美子の家のここのガレージに置いておいた

らダメかな」

ヨット教室物語・第179話

「これが座席数もサイズ的にも良いかもよ」

「麻美子が良いなら、俺はなんでもいいよ」

結局、今の隆の車を、その古いエスティマに

買い換えることになった。

隆の乗っていた車は、まだ購入したばかりの

新しい車だったので、その車を売却すると、

古いエスティマが余裕で買えてしまった上に

お釣りまでもらえてしまっていた。

買い換えたばかりのエスティマには、中古車

屋から麻美子の家まで、運転下手の隆でなく

麻美子が運転して帰ってきた。

ヨット教室物語・第178話

「この大きさなら、いま乗っている隆の車と

そんな大きさ変わらないよ」

麻美子は、ハンドルを握ってクルクル回しな

がら、窓の外の周りを眺めていた。

「奥様、試乗されてみますか?」

中古車屋の営業マンが、麻美子にエスティマ

の鍵を手渡してくれた。

麻美子は、営業マンから鍵を受け取ると、助

手席に隆を乗せたまま、店の周りの道を一周

してきた。

「見晴らし良くて運転しやすいよ」

ヨット教室物語・第177話

「これに乗るの?運転するのに、サイズが大

きすぎないかな」

隆は、一瞬だけ運転席に腰掛けてみてから、

その車のデカい運転席に、運転するのを諦め

たように運転席から降りながら、麻美子に答

えた。

「え、そんなにサイズ大きくないよ」

隆に代わって、麻美子が運転席に腰掛けてハ

ンドルを握りながら言った。

「俺、あんまり自動車の運転って、上手じゃ

ないからな」

ヨット教室物語・第176話

たまご型の丸っこい形をした車で、車内には

前、後ろ、中央と3列シートで、ラッコのメ

ンバー全員が乗っても窮屈ではなかった。

麻美子は、そのおとぎ話に出て来るみたいな

丸いかぼちゃの車に、香代ちゃんと瑠璃ちゃ

んが乗っているところを想像して、思わず笑

顔になった。

「これ、どうかな!?」

麻美子は、ハイエースの車内のベンチシート

に寝転がっていた隆のことを大声で呼んだ。

「なんかデカい車だな」

ヨット教室物語・第175話

麻美子の家の近所にある中目黒の中古車屋に

着くと、展示場の車を見て、周っていた。

「隆は、どんな車が好きなの?」

「俺は、なんでもいいよ。ヨット以外の乗り

物には、全く興味ないから」

隆は、本当に車には興味がないらしく、麻美

子と一緒に、展示場内の車を物色するのに疲

れてきて、ハイエースの車内に設置されてい

たシートで横になって寝転がっていた。

「ね、この車かわいくない!」

麻美子が、古いエスティマを見つけた。

ヨット教室物語・第174話

「それは、隆が来るからって、張り切って料

理を作りすぎるお母さんに文句言ってよね」

麻美子は、駐車場に置いてある隆の車の運転

席に座りながら、隆と話していた。

麻美子が運転席に座っているので、隆は助手

席に座った。

「どんな車に買い換えるの?」

隆は、運転している麻美子に質問した。

「ラッコの皆が乗れるぐらい広い車にしまし

ょうね。6シーターの車とかよくない」

麻美子は運転しながら、隆に言った。

ヨット教室物語・第173話

「そろそろ出かけようか」

土曜日、会社が休みの隆は、いつものように

麻美子の母親に誘われて、中目黒の麻美子の

家でお昼ごはんを食べた後、リビングでのん

びり寛いでいた。

「本当に買い換えるのか」

「だって、あの車じゃ、皆が乗れないでしょ

う。買い換えたくないの?」

麻美子は、隆から車の鍵を取ると、ソファか

ら立ち上がった。

「なんかお腹がいっぱいで歩くのつらいよ」

ヨット教室物語・第172話

「これじゃ、皆で乗れないでしょう」

麻美子は、隆に言った。

「隆さんの車をどれにするかって、麻美ちゃ

んが決めているんだ」

「そうね、隆ってけっこう買い物下手なとこ

ろがあるからね」

麻美子が答えた。

「だから、こんな薄くて、平べったい車を買

ってしまうのよ」

「なるほどね」

皆は、麻美子の返事に笑っていた。

ヨット教室物語・第171話

体が小さく、小柄の香代は、場所がないため

助手席の真ん中、隆の横に腰掛けていた。

普段、隆が運転しているときは、助手席の麻

美子の膝の上にちょっこんと腰掛けていたの

だったが、さすがに隆の膝の上に腰掛けるわ

けにもいかず、助手席の内側に座っていた。

「今度、もう少し皆で乗れるような車に買い

換えようね」

麻美子が運転しながら、言った。

「え、俺はけっこう、この車のこと気に入っ

ているんだけどな」

ヨット教室物語・第170話

「今日はレースお疲れ様。来週は普通にクル

ージングしような」

隆は、パーティーが終わった後、車の助手席

に座りながら皆に言った。

麻美子は、運転席に座って、鍵を回して車を

運転していた。

「この車って、外観の見た目は良いんだけど

皆で乗るには、ちょっと狭いよね」

隆の車は、スポーツタイプのクーペ車だ。

2シーターではなく、いちおう後部座席はあ

るが、後部には3人までしか乗れなかった。

ヨット教室物語・第169話

「え、俺は、帰りに車の運転があるから」

「大丈夫、大丈夫」

麻美子は、隆がいつも車の鍵を入れている方

のポケットに手を突っ込むと、車の鍵を受け

取っていた。

「え、そうなの。それじゃ、運転はお願いし

ちゃおうかな」

隆は、缶ビールを開けると、陽子の持ってい

る缶ビールに乾杯してから飲み始めていた。

隆は、さっきまで麻美子と雪、瑠璃子がして

いた会話には何も気づいていなかった。

ヨット教室物語・第168話

「私は、陽子ちゃんから良い人が見つかるよ

うにって、ブーケ投げてもらおうかな」

麻美子たちがおしゃべりをしているところに

当の隆と陽子が戻ってきた。

「やっと、セイルを片付け終わった。2人だ

けだったから畳むの大変だったよ」

「そう、お疲れ様」

麻美子は、ドラム缶から冷えた缶ビールを出

してくると、隆に手渡した。

陽子は、既に自分の分の缶ビールをしっかり

手にしていた。

ヨット教室物語・第167話

「ただ、家が渋谷と中目黒で近いってだけで

うちのお母さんがさ、隆のこと気に入ってて

いつもうちへ食事に呼んでしまうのよね」

麻美子は、2人に話していた。

「そうだよね。それじゃ、もし隆さんと陽子

ちゃんが結婚するってなったらどうする」

「別に良いんじゃないの。2人がお互いに結

婚したいって決めたんだったら」

麻美子は、雪に返答した。

「私も喜んで、2人の結婚式に参加させても

らうわよ。そしたら私」

ヨット教室物語・第166話

「確かに。隆って、もしかして陽子ちゃんと

話の波長が合うのかもね」

「心配だね」

「何が?」

麻美子が、雪に聞いた。

「え、別に私たちって付き合っているわけじ

ゃないし、ただの大学の同級生だからね」

「はいはい」

雪と瑠璃子は、ニヤニヤと苦笑していた。

「え、本当だよ。私たちって別に付き合って

いるわけじゃないからね」

ヨット教室物語・第165話

瑠璃子は、楽しそうに談笑している2人の姿

を見ながら、口にしていた。

「あの2人って話が合うんだろうね」

「そうなのかな」

瑠璃子は、麻美子に返事した。

「だって、ヨット教室初日でうちのヨットに

来た時から、陽子ちゃんは、何となく隆と話

が合いそうだなって思っていたもの」

「本当だね。もしかして、あの2人って、お

付き合いし始めちゃったりして」

雪は、麻美子に答えた。

ヨット教室物語・第164話

2人は、ラッコから下りてくると、パーティ

ー会場に向かってくる途中、会場の隅に置か

れていた飲み物のドラム缶から缶ビールを取

って、バーベキューで焼きそばをもらって食

べながら、楽しそうに談笑していた。

「なんかさ。陽子ちゃんって、ヨットの上で

いつも隆さんと仲良くしてない」

そういう事には、人一倍敏感な瑠璃子が気づ

いて、言った。

「麻美ちゃんいるんだし、言わないの」

「あ、そうだった。ごめん」

ヨット教室物語・第163話

まだ21歳の香代のことを、麻美子は、まる

で自分のかわいい妹のように思えていた。

「そういえば、隆さんと陽子ちゃんってどう

したんだろう?まだセイルを片付けているの

かな?」

瑠璃子が呟いた。

「ほらほら、あそこに来ているじゃん」

ラッコの船体から下りてきて、こちらのパー

ティー会場にやって来る2人の姿を見つけて

雪が叫んだ。

「やっと片付け終わったのね」

ヨット教室物語・第162話

「私も少しは飲めるんだけど、今日は帰りに

車の運転があるからね」

麻美子は、たぶん隆がパーティーで飲むだろ

うと思ったから、自分はアルコールを控えて

いたのだった。

「香代ちゃんは飲まないの?」

「私、お酒って一度も飲んだことない」

まだ21歳の加代は、2本目のビールを飲ん

でいる瑠璃子に聞かれて答えた。

「お酒なんて飲まない方がいいわよ」

麻美子は、香代に言った。

ヨット教室物語・第161話

麻美子は、既に2本目の缶ビールを飲んでい

る瑠璃子に言った。

「麻美ちゃんは、お酒はぜんぜん飲まないん

ですか?」

少し頬を赤くしている瑠璃子が、オレンジジ

ュースを飲んでいる麻美子に聞いた。

「私も、ビールを頂いちゃおう」

麻美子の横に腰掛けていた雪も、1本目の缶

ビールを手にして、飲んでいた。

アルコールを飲んでいないのは、麻美子と香

代の2人だけだった。

ヨット教室物語・第160話

「うん、美味しいね。この焼きそば」

雪は、バーベキューで焼かれていた焼きそば

を食べながら、隣の麻美子に話しかけた。

隆と陽子が、乗り終わった後のセイルとか片

付けておくからと言うので、他の皆は、先に

パーティー会場に来て、バーベキューの準備

を手伝っていたのだった。

準備を終えた後、会場で焼かれた焼きそばと

飲み物を先に頂いていた。

「いただきます」

「瑠璃子ちゃんって、けっこう飲めるね」

ヨット教室物語・第159話

「隆さん、ビールがあるよ」

陽子は、ドラム缶の中で冷えている缶ビール

を手に取った。

「残念だけど、俺は、帰りに車の運転がある

から飲めないんだ」

「そうだよね、帰りは東京まで運転だよね」

「陽子、飲めるんでしょう。飲みなよ」

隆は、烏龍茶を手にしていた。陽子は、隆に

言われて、缶ビールを頂いた。

「今日はお疲れ様!」

隆と陽子は、2人で乾杯していた。

ヨット教室物語・第158話

薪をくべたドラム缶以外に、空きドラム缶に

は氷水が入れられて、缶ジュースや缶ビール

などが冷やされていた。

パーティー参加者たちは、そこから冷たい飲

み物を取って味わっていた。

「もうパーティー始まっているな。俺たちも

飲みに行こう」

隆は、陽子と一緒にラッコのデッキ上でセイ

ルを片付けていたが、ようやくセイルも片付

け終わったし、陽子のことを誘って、ラッコ

から降りると、パーティー会場へ移動した。

ヨット教室物語・第157話

本日は、春の第1戦なので、レースが終わっ

た後に、マリーナ敷地内でバーベキューを準

備して、ヨットレース参加者たちが集まりパ

ーティーを開催することになっていた。

ヨットレースに参加した男性クルーたちは、

マリーナ敷地の中央にドラム缶を転がして持

っていき、その中に薪をくべて火を起こす。

女性クルーたちは、クラブハウスから紙皿や

紙コップ、飲み物や食べ物を準備して、薪の

上に鉄板を配置して、その上で焼きそばを焼

くのが定番となっていた。

ヨット教室物語・第156話

横浜マリーナでは、春から秋にかけて艇を保

管している会員同士の交流を兼ねて、毎月、

月一でマリーナに保管しているヨット同士で

のクラブレースを開催していた。

毎年、春からシリーズレースとして第1戦か

ら第6戦まで開催されていて、年末に開催さ

れる横浜マリーナのクリスマスパーティーで

総合優勝艇を表彰していた。

クラブレースの開催された日には、春の第1

戦と夏のレース、秋の最終戦だけは、レース

後に、パーティーを開催していた。

ヨット教室物語・第155話

「レースって、もっと大変なのかと思ったけ

ど、意外と楽しかったね」

「ウララじゃなくラッコに乗ってたから、楽

だったのかもしれないね」

「あと、陽子ちゃんが何でも全部やってくれ

ちゃってたから」

「陽子ちゃんは優秀よね」

麻美子も頷いた。

隆が保管している横浜マリーナでは、春から

秋にかけて、ほぼ毎月、月一の間隔でクラブ

レースを開催していた。

ヨット教室物語・第154話

「お昼にサンドウィッチしか食べていないか

ら、少しお腹が空いてきた」

陽子が言った。

「後で、クラブレース後のパーティーがある

から、そこで何か食べよう」

隆と陽子は、ラッコのセイルを片付けながら

話していた。

「私たち、食器を洗ってくるね」

他のメンバーたちは、サンドウィッチを食べ

終わった食器類を持って、マリーナにあるキ

ッチンへ行って、そこで洗い物をしていた。

ヨット教室物語・第153話

ラッコの船体は、いつも載せられているラッ

コの船台上にちょっこんと載せられた。

横浜マリーナでは、ラッコのようにクレーン

で陸上に上げられて、船台に載ってマリーナ

の敷地内で保管されているヨットやボートと

アクエリアスのように、すぐ近くの海面上に

設置されているブイに船を舫って、海上で保

管されているヨットやボートがあった。

「そうなんだ。さっきのアクエリアスは、海

上で係留されているのね」

陽子は、隆から聞いて頷いていた。

ヨット教室物語・第152話

「さあ、マリーナに戻ろうか」

ラッコは、横浜の自分たちが停めているマリ

ーナへと戻っていった。

マリーナに戻ると、横浜マリーナのスタッフ

が上下架用の真っ白なクレーンで待っていて

くれて、クラブレースを終えてマリーナに戻

ってきたヨットたちを順番にクレーンで陸上

に引き上げてくれていた。

ラッコの順番がきて、ラッコの船体も横浜マ

リーナスタッフたちの手により操作されてク

レーンで陸上へ引き上げられた。

ヨット教室物語・第151話

「うちのヨットは失格なんだってさ」

「でも、あのままアクエリアスのことを見捨

てずに、ちゃんと助けてあげられたのだから

良かったじゃないの」

麻美子は、隆に言った。

「アクエリアスは、隆がラッコに乗る前まで

ずっとお世話になっていたヨットでしょう」

麻美子は、クラブレースで最後までゴールで

きなかったことよりも、失格してしまっても

アクエリアスのことを手助けできたことの方

が満足そうだった。

ヨット教室物語・第150話

アクエリアスは、そのままスピンネーカーを

下ろすと、ジブセイルとメインセイルで黄色

のブイまでセーリングしてから、ゴールライ

ンを越えてクラブレースをゴールした。

ゴールしたアクエリアスの後ろを追走してい

たラッコもゴールラインを越えた。

「結局、ラッコはアクエリアスよりも後だか

ら最下位になってしまったね」

雪は、隆に言った。

「いや、ラッコは最下位でもないよ。途中か

らエンジンを掛けているから失格だよ」

ヨット教室物語・第149話

アクエリアスのクルーが4、5人でシートを

引いたり出したりしていても、全然解けなか

ったセイルの絡みを、隆は、陽子と2人だけ

でわずか数分で解いてしまっていた。

「これで大丈夫かな」

隆は、陽子と一緒にアクエリアスから自分た

ちのラッコに戻ると、ラッコはアクエリアス

から離れた。

「ありがとう、助かったよ」

中村さんは、アクエリアスの艇上から、ラッ

コの隆へ声をかけた。

ヨット教室物語・第148話

「麻美子、ラットを握っていて」

隆は、握っていたラッコのステアリングを麻

美子に託した。

「陽子、俺と一緒に、アクエリアスへ乗り移

って手伝ってくれるか」

隆は、陽子と一緒に、アクエリアス側に乗り

移ると、アクエリアスのクルーからジブとス

ピンのシートを受け取って、陽子と一緒にシ

ートを上手いこと操作しながら、セイルの絡

みを解いてしまった。

「これで絡みは外れたよな」

ヨット教室物語・第147話

「エンジンをかけよう」

隆は、陽子に指示すると、陽子はパイロット

ハウスの中に入り、ラッコのエンジンを始動

してきた。

「舫いロープを準備して」

エンジンが掛かると、隆は、ラッコのクルー

たちに指示して、舫いロープを準備させた。

海上でアクエリアスに横付けした。

舫いロープは、船同士を軽く舫うだけにして

クルーたちに船体同士が当たらないように、

手で支えてもらっていた。

ヨット教室物語・第146話

「大丈夫ですか?」

ラッコが、ゴールを諦めてアクエリアスの近

くまで戻ってくると、隆は呼びかけた。

ラッコで、アクエリアスのすぐ真横を走りな

がら、ジブシートを緩めろとかスピンのシー

トを緩めろと隆は、アクエリアスの船のクル

ーに向かって指示を飛ばしていた。

隆が指示を飛ばして、その通りにアクエリア

スのクルーたちは、シートを操作しようとし

ているのだが、上手く絡まったセイルを解け

ずにいた。

ヨット教室物語・第145話

「陽子はすごいな、もう完全にタックのやり

方を覚えてしまっているじゃん」

隆は、麻美子の方を振り向かないようにしな

がら、陽子に言った。

「どうせUターンするなら、最初から言うこ

と聞きなさいよ」

陽子は、麻美子が隆の頭をコツンと小突いて

いるところを見てしまって、思わず苦笑して

しまっていた。

ラッコは、ゴールとは反対方向のアクエリア

スに向けて走り始めた。

ヨット教室物語・第144話

しかし、チラッと麻美子の方へ目を向けると

麻美子の目が、後ろで困っている艇がいると

いうのに、あんたは、ほったらかしにしてゴ

ールを目指すのかというきつい目をして睨ん

でいるように見えた。

「ちょっとUターン、タックして、様子を確

認してくるか」

隆は、すぐ側にいた陽子に言うと、陽子は左

側のウインチにジブシートをセットして、隆

の方向転換に合わせて、ジブセイルの位置を

右から左に入れ替えた。

ヨット教室物語・第143話

「いや、アクエリアスは大丈夫だと思うぞ」

隆は、麻美子に言われて、後ろをチラッと振

り向きながら返事した。

「隆。いい加減にしなさいよ!」

中村さんのアクエリアスは、隆が、いま乗っ

ているラッコのヨットを買う前まで、ずっと

クルーとして乗っていたヨットだった。

あともう少しで目の前の黄色ブイを回れるし

そこを回ったら、もうゴールも目前だし、こ

のままアクエリアスの事は、ほっておいてゴ

ールしてしまおうかと考えていた。

ヨット教室物語・第142話

絡まり合ってしまっていたアクエリアスのセ

イルは、一向に外れず絡まったままの状態で

ずっと走り続けていた。

隆は、後ろのアクエリアスのことは、ぜんぜ

ん気にせず、ラッコを前へと走らせていた。

「隆、助けに行って上げようよ!」

まったく後ろのアクエリアスのことなど気に

もせずに、自分のラッコがレースでゴールす

る事だけ考えて、前方へ走らせている隆の姿

を見た麻美子は、なんか隆が冷たい奴に見え

てしまい、声が大きくなってしまっていた。

ヨット教室物語・第141話

アクエリアスの中村さんは、東京で歯医者さ

んを営んでいる先生で、ヨットでも、麻美子

が舫いロープを結べずにいた頃に、いつも手

助けしてくれていた、とても親切で優しいお

じさんだった。

「ね、助けに行って上げようよ」

後ろを気にして、ずっとアクエリアスの様子

を眺めていた麻美子が、隆に言った。

「大丈夫だよ、気にしなくても」

隆は、後ろは気にすることなく、前を向いて

ラッコを走らせていた。

ヨット教室物語・第140話

中村さんのアクエリアスでは、スピンネーカ

ーとジブのせいるが絡み合っていた。

「助けに行ってあげないの?」

「自分たちでなんとかするだろうよ」

隆は麻美子に答えた。

麻美子は、ずっと絡まったままのアクエリア

スのセイルを心配そうに眺めていた。

「助けに行ったほうが良くない?」

アクエリアスの中村さんとも、冬の間、隆と

2人だけで乗っていた時に、何回か沖合いで

会ったことがあった。

ヨット教室物語・第139話

ヨットのセイルは、メインセイルもジブセイ

ルも基本的に白色のものが多いのだが、スピ

ンネーカーのセイルだけは、赤やら青やら何

色もの色でカラフルに彩っているセイルが多

かった。

レース後半、帰りのコースは、風向き的に追

っ手、船の後ろから吹いてくる風だったため

中村さんのアクエリアスでは、スピンネーカ

ーを上げたのだろう。

そして、スピンネーカーがジブセイルのシー

トと絡みあってしまっていた。

ヨット教室物語・第138話

「もうゴールしちゃったんだ」

「速いよね」

隆や陽子たちが、ゴールしたウララの艇を眺

めて、話していた時に、

「あらら、なんかスピンが絡まっているよ」

ゴールとは、反対方向の後ろを眺めていた麻

美子が指差しながら叫んだ。

スピンとは、追い風の際に上げてヨットを走

らせるセイルのことで、正確にはスピンネー

カーと呼ばれるふっくらと丸い形をしたセイ

ルのことだった。

ヨット教室物語・第137話

ようやく赤ブイに到達して、ブイを回ってU

ターンして復路に入ったラッコが、ゴールへ

向けて走っていると、ゴールラインで待って

いた地井さんのモーターボートからラッコの

ところにも、

フォーーーン!

と微かにホーンの鳴る音が聞こえてきた。

「お、レース艇のウララがゴールしたな」

「さっき、すれ違った船でしょう、速いね」

隆は、ラッコのステアリングを握りながら、

聞こえてきたホーンの音に反応していた。

ヨット教室物語・第136話

ラッコのクルーたちは、すれ違うウララの艇

上で、必死にウインチを回している男性クル

ーたちを眺めて、呟いていた。

「な、レース艇は大変だろう」

隆が、陽子に言った。

「だから、男性の生徒は、ウララとかに振り

分けられて、私たち女性がラッコに振り分け

られたのね」

「わかるだろう、うちのヨットに女性しか振

り分けられなかった理由が」

陽子は、隆に頷いていた。

ヨット教室物語・第135話

「まだレースは、終わっていないぞ」

ウララの松浦オーナーは、ラッコの方を見て

笑っていた。

ウララのクルーたちは、まだクラブレースの

真っ最中で、お昼ごはんのサンドウィッチど

ころではなかった。

ウインチにジブシートを巻きつけて、ウイン

チハンドルを回して、引っ張ったり出したり

とセイルトリムに大忙しだった。

「なんか大変そうなヨット」

「力が無いと乗れないヨットなのね」

ヨット教室物語・第134話

「サンドウィッチあるわよ」

もうとっくの昔に、クラブレースの順位など

諦めているラッコのデッキ上では、ピクニッ

クテーブルを広げて、麻美子の作ってきたサ

ンドウィッチをお皿にだし、ランチパーティ

ーの真っ最中だった。

「お帰りなさい!」

隆たちラッコのクルーたちは、復路のコース

を戻って来て、すれ違ったウララのクルーた

ちに、サンドウィッチ片手に笑顔で手を大き

く手を振って挨拶していた。

ヨット教室物語・第133話

結局、クラブレースでのラッコの順位は、後

ろに中村さんのアクエリアス、ラッコと同じ

パイロットハウスの付いた重たいクルージン

グ艇を1艇従えての堂々と最後尾、ブービー

でゴールすることになりそうだった。

「麻美子、お昼ごはんにしようか」

まだ、ラッコは一番先にある赤ブイまでも到

達していないというのに、一番先頭を走って

いたウララは、既に赤ブイを回ってUターン

して、復路のコースをゴールへ向かって走っ

て戻ってきていた。