「これが、オリンピックでのヨットレー
スのオリンピックルールになります」
片桐先生が言った。
「でも、こんな複雑なコースをいきなり午後
から周ってきてと言っても、皆さんだって戸
惑ってしまいますよね。なので、今日の午後
は、スタートラインを越えたら、風上側のブ
イを周って、戻ったらゴールにしましょう」
片桐先生は、本日午後に開催するヨットレー
スだけの特別ルールを作った。
「これが、オリンピックでのヨットレー
スのオリンピックルールになります」
片桐先生が言った。
「でも、こんな複雑なコースをいきなり午後
から周ってきてと言っても、皆さんだって戸
惑ってしまいますよね。なので、今日の午後
は、スタートラインを越えたら、風上側のブ
イを周って、戻ったらゴールにしましょう」
片桐先生は、本日午後に開催するヨットレー
スだけの特別ルールを作った。
「本当のレースは、スタートして風上のブイ
へ行き周ったら、次はサイドにも、もう1個
ブイがあって、そのサイドのブイを周って、
スタートラインに戻ってきたら、スタートラ
インだったブイを周って、もう一度風上のブ
イまで行来ます、そこを周ったら、今度はス
タートラインまで戻って、ゴール」
片桐先生は、最初に簡潔に説明した内容を少
し複雑に付け加えて説明し直した。
「???」
「つまり、他の皆とレースをする事で、自分
がヨットをうまく操船できるように上達する
事ができるのです」
片桐先生は、生徒達に言った。
「だから、相手を負かせてやろうという気持
ちでなく、自分がうまくヨットを操船できる
ようになろうって、軽い気持ちでレースに望
んでみて下さい」
「はーい」
生徒達は、先生に返事した。
「一番最初にゴールできたヨットが1位です
逆に最後にゴールしたヨットはビリです」
片桐先生は、皆に簡潔に説明した。
「つまり、どれだけ風をうまくセイルに受け
て、速く走れたかで1位になれるのがレース
です」
片桐先生は言った。
「速く走れた人が偉いわけではありませんが
皆とレースをする事で、風や波を利用してヨ
ットを速く走らせられるようになれます」
「ヨットレースは、ブイと先生達の乗るボー
トの間をスタートラインに見立てて、スター
トの号砲と同時に、スタートします」
片桐先生の説明が始まった。
「風上側にあるもう1個のブイまで行って、
そのブイを周ってまた戻ってきます」
「午前中、周っていた感じで」
「そうですね。それで戻ってきたら、今度は
スタートラインがゴールラインになりますの
で、ゴールラインを越えるとゴールです」
「レースってことは競争するのか?」
生徒たちは、片桐先生の提案を聞いて、口々
に喋り始めた。
「はい、先生!ヨットレースって、どうやっ
て、どうレースするのですか?」
生徒の遠藤が、片桐先生に質問した。
「良い質問ですね」
片桐先生は、遠藤に答えた。
「ヨットレースは、ブイとブイの間を周って
誰が一番早くゴールできるかを競います」
片桐先生は、子供たちの飲み込みの早さに心
底驚き、褒めていた。
「これから午後も、午前中乗っていた場所に
行き、またヨットに乗るのですが・・」
片桐先生は、皆の顔をぐるっと眺めた。
「また同じように、ブイの周りをぐるぐる回
っているだけでは進歩がないので、午後はヨ
ットレースをしてみたいと思います」
片桐先生は、子供たちに提案した。
「ヨットレースだってよ」
「はい、皆さん!1時半です、集まって!」
片桐先生は、お昼で横浜市民ヨットハーバー
の敷地内をあっちこっち飛び回り、走り回っ
ていた子供たちをクラブハウスに集めた。
「午前中、皆がヨットに乗っているところを
ボートの上から見させてもらいました」
片桐先生は、子供たちに話し始めた。
「初めのうちは、よくわからずに操船してい
た皆さんも、かなり後半は操船方法がわかっ
てきたようですね」
「そうなんだ」
洋ちゃんは、美樹ちゃんが乗りに来ないのは
少し残念に思っていた。
「それで、健ちゃんが誘われたんだ」
「そういうこと」
健ちゃんは答えた。
「どうしても、お母さんは叔父の手前、どち
らかを通わせたかったみたいよ」
「ふーん、兄弟がいて良いよね」
一人っ子の洋ちゃんは、健ちゃんに言った。
小さい頃から、もともと健ちゃんはインドア
だったけど、美樹ちゃんの方は元気で活発な
性格だった。
洋ちゃんもどちらかというと、健ちゃんより
美樹ちゃんと遊んでいる方が多かった。
「そういえばさ、美樹ちゃんはヨット教室に
通わなかったんだ」
「最初、お母さんも、姉きのことを誘ってい
たんだけど、姉きは、学校のバレーボール部
があるから、ヨットに乗る暇ないらしい」
「バレー部でしょう、知ってる」
洋ちゃんは、健ちゃんに返事した。
「え、俺、いまバレエ部って発音してた?」
「え、いや、なんかバレエって思っているの
かなと思ったもので」
「いやいや、バレー部だと思っていたよ」
洋ちゃんは、健ちゃんに言った。
「だいたい、美樹ちゃんはバレエ部って柄じ
ゃないじゃん」
洋ちゃんと健ちゃんは笑いあっていた。
「美樹ちゃんだ」
洋ちゃんは、健ちゃんに聞いた。
「ええ」
「美樹ちゃんって、何の部活しているの?」
美樹ちゃんは、健ちゃんの2歳上のお姉さん
だった。洋ちゃんも、小さい頃は美樹ちゃん
ともよく近所の公園で遊んでいた。
「バレー部」
「バレー部なんだ」
「バレエじゃなくバレーボール部」
「いただきまーす!」
朝、お母さんが作ってくれたお弁当だった。
「やっぱ、健ちゃんのお母さんってすごいよ
な、日曜の朝でも、ちゃんとお米を炊いてお
弁当を作ってくれるんだ」
「うちなんか、楽だからって、サンドウィッ
チしか作ってくれないですよ」
洋ちゃんは、健ちゃんのお弁当を覗いていた
「うちは、日曜日でも姉きが部活でお弁当が
必要だからですよ」
も、さらに大きな声で伝えていた。
「どこで、お昼を食べる?」
「あそこのテーブル席が空いていますよ」
健ちゃんは、クラブハウス奥のテーブルに空
きを見つけて、洋ちゃんに言った。
「それじゃ、あそこにしようか」
アウトドア派の洋ちゃんとしては、本当はプ
ール脇に置かれているテーブルにでも座って
外でお弁当を食べたかったのだが、健ちゃん
と一緒に、中で食べることにした。
「これから、お昼ごはんにします!」
片桐先生は、クラブハウスに戻ってきた生徒
たちに話した。
「お昼は、ここのクラブハウスのテーブルで
食べても良いですし、建物の外の、表のベン
チやテーブルで食べても良いですよ」
生徒たちは、お弁当を持って来ていた。
「午後は、1時半からになります!1時半に
なったら、ここに集まってください」
片桐先生は、お喋りをしている生徒たちより
ポンツーンは、子供たちが乗っていたOPヨ
ットでいっぱいになっていた。
「陸に着いたら、ライジャケは脱いでも良い
ですよ」
先生に言われて、生徒たちは、着ていたライ
ジャケを脱いだ。
「脱いだライジャケは、お昼を食べている間
無くさないように、自分の乗っていたヨット
にに置いておきましょう」
「はーい、わかりました」
「だから、お昼を食べ終わるまで、ここに繋
いでおけば、午後になったら、すぐ舫いロー
プを外して出航できるだろう」
「なるほど」
洋ちゃんと健ちゃんの乗るヨットが、1番最
初に陸へ戻ってきていた。
「お願いします!」
2人に遅れて、他の生徒たちのヨットも、次
々と陸に戻ってきて、2人が停泊したポンツ
ーンの横に、同じようにヨットを停めた。
先生は、2人のヨットをポンツーンに付いて
いるクリートに結びつけた。
「あ、ここで良いんですか」
「また、あっちから陸上に船を上げるのかと
思っていました」
健ちゃんが、先生に言った。
「どうせ、お昼ごはんを食べ終わったら、ま
た午後からヨットに乗るんだろう」
先生が答えた。
「そうですね」
「こっちにおいで!」
先生は、洋ちゃんたちのことを呼んだ。
「そっちですか?」
よくわからないまま、洋ちゃんは、ポンツー
ンにいる先生の指示通りに、ポンツーンの方
へとヨットを向けた。
洋ちゃんの操船するヨットが、ポンツーンに
近づくと、ポンツーンの先生が手を伸ばして
2人の乗るヨットを捕まえて、付いていた舫
いロープを手に取った。
健ちゃんは、ヨットがスロープに近寄ったら
船から海に飛び降りて、そのまま船を陸地に
上げるつもりでいた。
「そこのヨット、そっちじゃないよ!」
陸で待っていた先生が呼んだ。
「こっちこっち」
洋ちゃんが、スロープの方に向かって、ヨッ
トを進めていると、ポンツーンにいた先生に
手招きされた。
「え、そっちに行くの?」
「さっき、ヨットを下ろしたスロープから、
今度は逆に上がれば良いんですよね」
洋ちゃんが、健ちゃんに確認した。
「たぶん、そうじゃないかな」
2人の乗るヨットが、沖合いから横浜市民ヨ
ットハーバーまで戻ってきた。
「それじゃ、俺が、このままスロープに突っ
込むから、適当なところで船から降りて、ス
ロープから上げてもらえるかな」
「わかりました」
「お昼だってさ」
「陸地に戻るんですよね?」
「戻りましょう」
洋ちゃんは、よほど健ちゃんがお腹を空かせ
ていて、早く陸に戻りたがっているのだと勘
違いしていた。
「Uターンしますか」
洋ちゃんは、健ちゃんに言われて、ヨットを
方向転換して、マリーナに向かった。
「早く陸に戻りましょう!」
お母さんには、1年間ヨット教室に頑張って
通ったら、来年から医大受験用の予備校に通
わせてくれると約束してもらえたのに、まだ
半日だというのに、健ちゃんはもうヨットに
乗るのが嫌になってきていた。
ピピピピー
先生の乗っているボートから笛の音が響いて
そろそろお昼の時間だから1回陸に戻って、
お昼ごはんにしましょうと先生から指示が
あった。
「でも、僕に操船しろって言われても、ちょ
っと無理なのでお願いします」
健ちゃんは、洋ちゃんにお願いした。
まだ、ヨットに乗り始めて、午前中も過ぎて
いないのに、早くも陸に戻りたくて仕方がな
い健ちゃんだった。
「もう少し、メインシートを引いてくれる」
「わかりました」
健ちゃんは、洋ちゃんの指示でメインシート
を少し引いた。
洋ちゃんは、答えた。
「でも、操船は、洋ちゃんお願いしますよ」
「まあ、良いけど」
洋ちゃんが、それ以上は健ちゃんに操船を勧
めることはなかった。
「本当は、俺も、ちょっと、そのシートの操
作もやってみたかったんだけど」
元来、インドア派の健ちゃんは、船の前方で
メインシートを持っているだけで、もういっ
ぱいいっぱいになっていた。
「今度は、俺が船の前で、そのシートを握っ
ているから、健ちゃんが、こっちに来て、こ
のラダーを操船してほしいんだけど」
洋ちゃんは、健ちゃんに言った。
「いや、操船は洋ちゃんがして下さいよ」
「え、なんで?」
洋ちゃんは、健ちゃんに聞いた。
「ええ、僕は、ヨットのそれって一度も持っ
たことありませんし」
「俺だって、今日初めて持ったんだけど」
「いや、もう少し引きかな」
健ちゃんと同じく、今日初めてヨットに乗る
洋ちゃんにも、どのぐらい引いたら良いのか
はよくわからなかった。
「ね、そろそろ代わらないか」
洋ちゃんは、健ちゃんに聞いた。
「代わるって?」
「だって、ヨットで出航してから、ずっと俺
がラダーを持っているじゃん」
「そうですね」
洋ちゃんは、同じヨットに乗っている健ちゃ
んに指示を出していた。
船の前方でメインシートを握っていた健ちゃ
んは、洋ちゃんに指示されるままに、シート
を引いたり出したりしていた。
「このぐらいですかね」
健ちゃんは、メインシートを引きながら、洋
ちゃんに質問した。
「たぶん、そのぐらいじゃないかな」
洋ちゃんは答えた。
「もう少し、セイルを引くように!」
「それじゃ、風に立ってしまっているから、
少し方向を変えないと・・」
少年少女たちは、先生が沖合いに打ってくれ
た2つのブイの間をグルグル回っていた。
子供たちがヨットで回っているのを、先生た
ちは、小型ボートに乗って追いかけ回して、
セイルを引けとか、もっと出せとかって乗り
方を指導していた。
「もっと、セイルを引くんだってさ」
ボート上から先生たちは、一生懸命に子供た
ちへ乗り方を指導していたのだが、今日初め
てヨットに乗る生徒さんの中には、ぜんぜん
上手く操船できない子も何人かいた。
「はい、沖までボートで引っ張って、連れて
行ってあげるから、このロープの先をヨット
の先端に結びなさい」
最後尾の2艇は、ボートに引っ張ってもらい
ながら、沖合いまで運んでもらっていた。
「ありがとうございます」