中古車輸出・第15話

「なるほど!」

電話を切ると受講者は、再度警察署へ出向い

て、申請途中の手続きを終えてくる。

「はい、どうしました?」

「あのう、古物の申請で警察がうちに駐車ス

「見せてあげてください」

「車を展示できるスペースじゃなく、家の前

の小さなスペースなのですが」

「何の問題もありません。向こうも展示場始

める場所を確認しに来るのではありません」

「そうなんですね」

中古車輸出・第14話

「あのう、警察署で申請はできたんですが」

「はい、どうかしましたか?」

「なんか車を置いておくスペースはあるかと

聞かれてしまったのですが」

「はい」

「無在庫で始めたいと思っているので、駐車

場は準備するつもりなかったのですが」

「それは車を所有する際の車庫証明のような

ものです。自分の車が置いてある駐車スペー

ス、車1台分が置けるスペースを写真に撮る

などして提出してあげれば良いのです」

中古車輸出・第13話

インターネットで誰もが当たり前のように通

販している時代だからか、中古車インターネ

ットオークション会場の入会方法で質問して

くる受講者は少なかった。

その代わりに、古物商許可証の取得方法で質

問してくるかたは多い。まずどこで取得した

ら良いのかがわからないのだ。

「最寄りの警察署で取得できますよ」

「ああ、わかりました」

そして、受講者は電話を切ると自宅近くの警

察署まで出かけていく。

明星学園・第26話

「そうよね」

お母さんは、隣のおばさんとすっかり仲良く

なって、入学式の間じゅう、ゆみのことや祥

恵のことを隣のおばさんとお喋りしていた。

「それじゃ、お姉さんも、ゆみちゃんもずっ

と明星学園なんですね」

「こっちは、まだ1年間だけですけど」

お母さんは、ゆみのことを指差した。

「うちの子も、小等部からなんです」

「そうなんですか、それなら、うちの祥恵と

友達かもしれませんね」

明星学園・第25話

「あらあら、しょうがない子ね」

お母さんは、ゆみの頭を優しく撫でていた。

「お姉さんが入学式なの?」

お母さんの隣に座っていたおばさんに、ゆみ

は質問されて答えられずにいた。

「お姉ちゃんもだけど、あなたも今日が入学

式なのよね」

お母さんの横でモジモジしていたゆみの代わ

りに、お母さんがおばさんに答えていた。

「あら、中学生なの?」

おばさんは、ゆみの小さい体を見ていた。

明星学園・第24話

最前列のステージで校長先生たちが話してい

て、その前方に生徒たち、その後ろ側が父兄

席になっていた。

「あなた達の席は、前の席よ」

お母さんは、父兄席の後ろの方に空いている

席を見つけて、そこへ腰掛けると、横にいる

ゆみに言った。

ゆみは、生徒席には行かずに、お母さんの横

の空いている席に腰掛けた。

「あなたは、前の席だって」

そう言われても、ゆみは席を動かなかった。

明星学園・第23話

「ほら、着いたわよ」

やっぱり、いつもお姉ちゃんと電車で通って

いる時と違い、車だと歩かずに学校までいけ

るため、通学が早くて楽だった。

お母さんの朝は忙しいので、出発が遅くなっ

てしまって、中等部の入学式はもう既に始ま

ってしまっていた。

「もう体育館でやっているみたいよ」

「遅刻だね」

お母さんは、車を停めると、ゆみの手を引い

て体育館の中へ入る。

明星学園・第22話

「仕方ないわね、ゆみはお母さんが一緒に連

れて行くか」

どこか嬉しそうに、お母さんは呟いていた。

「あれ、お姉ちゃんは?」

「ゆみは、お母さんと一緒に行きましょう」

「お母さんと学校に行くの?」

ゆみは嬉しそうに、お母さんの小さな赤いベ

ンツの助手席に腰掛けていた。

「ゆみは、本当に入学式はスカートはいてい

もいいのね?」

ゆみは、お母さんに頷いた。

明星学園・第21話

「あんた、もう出かけるの?ゆみがまだ部屋

にいるじゃないの」

「お母さんが連れてきてよ」

祥恵は、もう中学生なんだし母親が入学式に

いちいちついて来なくてもよいと言ったのだ

が、母親は、ゆみの晴れ姿を見に行くのだと

言い張っていたのだった。

「行ってきまーす!」

祥恵は一人で出かけてしまった。

「行ってらしゃい」

母親は、姉の出かける姿を見送っていた。

明星学園・第20話

武蔵野に在る明星学園は、小学校、中学校そ

して高等学校がぜんぶ揃った小中高一貫教育

の学園である。

中等部、高等部でいちいち1年生へ戻らずに

7年、8年と続いていき10年、11年、1

2年と進級、そして卒業となっていく。

「今日から7年生だね」

祥恵は、リボンの付いた白いブラウスに制服

風のチェックのプリーツスカートを着て、学

校へ出かけるため玄関先で靴を履いていた。

「行ってきまーす」

明星学園・第19話

「彼女は、小学校で習う勉強はほぼぜんぶ理

解してしまっています」

進級会議の時、ゆみの担任の先生は他の教師

たちに説明していた。担任ではないが、ゆみ

に別の教科を教えたことのある先生も、確か

に彼女の勉強の進捗は早く、もう小学校で習

う必要はないのかもしれないと同調した。

「それでは、中等部への進級にしますか」

そして、ゆみは1年から2年ではなく中等部

1年、明星学園では7年生と呼んでいる学年

への進級が決まった。

明星学園・第18話

「もうずっと大人になってもスカートはかな

いつもりなの?」

お母さんは、祥恵のはいているグリーンのデ

ニムスカートを指差しながら言った。

「はかない」

ゆみは、首を大きく横に振った。

「シャロルも、大人になってもスカートはか

ないって言っていたよ」

シャロルは、ニューヨークのゆみの友達だ。

「彼女はずっとアメリカ暮らしだからね」

母親は、ゆみの頑固さに首を振っていた。

明星学園・第17話

「ゆみ、中学生の記念にお母さんと写真撮り

にいかない?」

「写真は良いけど、それは着ないよ」

ゆみは、お母さんが手に持っている赤いチェ

ックのプリーツスカートを指差した。

ニューヨークにいた頃に、お母さんがデパー

トで勝手に買ってきた唯一のゆみが持ってい

るスカートだった。

「中学生でも、スカートはかないの?」

母親は、ゆみに聞いた。

「お姉ちゃんだってスカートはいているよ」

明星学園・第16話

「ゆみだって、飛び級で中学生になるのだか

ら、ゆみに着せれば良いんじゃないの」

祥恵は、母親に言った。

「あの子は、昔からスカートは、絶対にはか

ない子だから無理よ」

お母さんは、残念そうに呟いた。

アメリカで育ったせいか、ゆみは小さい頃か

ら母親がどんなに言っても、絶対にスカート

をはくことはなかった。

「あの子、本当にスカート嫌いなのよね」

母親は、残念そうに呟いた。

明星学園・第15話

明星学園は、日本に在りながらアメリカ的な

自由教育が学校のポリシーなので、飛び級制

度もどんどん取り入れていた。

といっても、実際に飛び級になる生徒は、学

園創立以来、ゆみが初めてではあった。

「祥恵、このスカート可愛くない」

お母さんは、学生服の広告チラシを見ながら

祥恵に声をかけた。

「うちの学校には、制服は無いんだけど」

「制服が無くても良いじゃない、中学生なん

だから入学式ぐらい制服っぽいの着ても」

明星学園・第14話

「ゆみさんは勉強ができるので次の4月の進

級は飛び級になります」

1年が過ぎて、2年生へ進級するとき、母親

は担任の先生からそう伝えられた。

「飛び級?なんだよ、それは?」

実家がニューヨークの母親にとっては、アメ

リカでは飛び級など珍しくもなかったが、祖

父の代からずっと東京の東松原で歯科医院の

父親にとっては、飛び級なんて制度は全く聞

いたこともない制度だった。

「ほお、ゆみはそんなに頭が良いのか」

明星学園・第13話

「今のクラスで大丈夫なの?」

母親は、ゆみに確認した。

「お姉ちゃんと同じ学校がいい」

「いじめられたりしない?」

「それでも、お姉ちゃんと通学したい」

ゆみは、大好きな姉と違う学校には行きたく

ないと母親にお願いした。

「あなたがそう言うのならば」

そして、ゆみは1年間ずっと毎日姉と一緒に

学校へ通って、授業が終わると姉の帰り時間

まで待って、一緒に学校から帰ってきた。

明星学園・第12話

母親は、ゆみのことを気遣い、別のインター

ナショナルスクールにでも転校させようかと

考えていた。

「転向させるのか?」

父親に相談したら、父は近所の公立小学校に

わせる方が良いんじゃないかと言った。

「ゆみ、皆と勉強するの辛いでしょう?」

母親は、ゆみに聞いた。

「学校を変わるの」

「その方が良くない?」

「いや!お姉ちゃんと同じ学校がいい!」

明星学園・第11話

2週間後

こいつ、日本人のくせに、日本語がわからな

いの。なんか日本語の発音も変だしな、クラ

スの子たちは、ゆみの話す日本語を笑うよう

になっていた。

「ゆみさん、大丈夫ですかね?」

クラスの子たちにイジメられているゆみのこ

とを心配した担任の先生は、母親に電話して

事情を説明した。

「あなたはどう思いますか?」

「そうだな、母親のおまえに任せるよ」

明星学園・第10話

それより何よりも、ニューヨークでは、家に

いたおじいちゃんやおばあちゃんとも殆どず

っと英語で会話していて、日本語はたまにし

か話してこなかった。そのおかげで皆の会話

の内容がよくわからなかった。

「もっと、向こうでもちゃんと日本語で話し

ていればよかったな」

今更、後悔しても遅かった。

「ハロー、ユミ。日本語ワカリマスカ」

男の子が笑いながら、ゆみへ外国人風に話し

かけてみせて、クラスの皆が笑っていた。

明星学園・第9話

「きっと、お母さんだったらお姉ちゃんと同

じ教室にしてくれただろうな」

ゆみは考えていた。

教室にいる他の子たちだって、ゆみと同じ今

日から1年生の初めて会った子たちばかりの

はずなのに、もうクラスの子同士仲良くなっ

て、いまテレビで流行っている番組の話など

いろいろとお喋りをしていた。

それまでずっとニューヨークで暮らしてきた

ゆみには、いま流行っている日本のテレビ番

組なんか何も知らなかった。

明星学園・第8話

「私は6年だけど、ゆみはまだ1年生なの」

「私もお姉ちゃんと一緒のクラスでいいわ」

「一緒のクラスでいいわじゃないの、あんた

は1年、私は6年生なの」

祥恵は、再度妹に説明した。

「嫌だ!お姉ちゃんと一緒がいい!」

「わがまま言わないの!教室に早く入って自

分の席に着きなさい!」

ゆみは、姉に言われて教室の一番手前奥にあ

る今井と書かれた席に腰掛けた。

「ゆみ、1人でも頑張るのよ」

明星学園・第7話

ゆみは、姉に手を引かれながら歩いていた。

ゆみたちの歩いていくのと同じ方向には、他

にもたくさんの生徒たちが歩いていたが、祥

恵が自分と仲の良いクラスメートたちと一緒

になることはなかった。

彼女たちは皆、井の頭公園駅でなく吉祥寺駅

方面から通っていたのだ。

「ここが学校よ」

祥恵は、妹の手を引き、学校の門をくぐると

1年生の教室へ連れて行った。

「お姉ちゃんと一緒のクラスがいいな」

明星学園・第6話

「向こうに行ってみたい」

ゆみは、井の頭公園駅で降りると、手を引か

れている姉に言った。

井の頭公園駅の改札口を出ると、すぐ真横に

公園へ入るゲートがあった。ゲートをくぐる

と、大きな池があり、さらに奥には動物園も

あった。

「遊びに来たんじゃないんだから、学校に遅

刻するでしょうが」

祥恵は、妹の手を引き、公園には入らずに学

校方面への道へと歩いていく。

明星学園・第5話

立教女学院の生徒たちは三鷹台の駅で降りた

のだが、それでも吉祥寺駅までの通勤客で車

内はまだ激混みだった。

「次、降りるからね」

祥恵は、鈍くさい妹に伝えた。

「降りるの?」

「まだ大丈夫だから、まだ座ってなさい」

姉は、井の頭公園駅に到着するギリギリまで

座らせておいて、到着と同時に妹の手を引い

て電車から降車した。

「この駅って公園があるの?」

明星学園・第4話

「お嬢さん、ここにお座りなさい」

親切なお姉さんが、ゆみのために座席を譲っ

てくれた。

「ありがとうございます」

祥恵は、座席を譲ってくれたお姉さんにお礼

を言った。永福町の駅で急行電車の待ち合わ

せをしたため、車内はかなり空いたが、高井

戸、富士見ヶ丘から立教女学院の生徒たちが

たくさん乗ってきて、また車内は激混みにな

ってしまった。

「お姉ちゃん、大丈夫?」

明星学園・第3話

「ここから電車に乗るの?」

ゆみは、姉に手を引かれながら質問した。

「そうよ、東松原駅から学校の近くの井の頭

公園駅まで井の頭線で通うの」

祥恵は、妹に説明した。吉祥寺行きの各駅停

車がやって来て、祥恵は妹の手を引いて乗り

こむ。各駅停車だというのに車内は、ちょう

ど通勤時間で満員だった。

「つぶれちゃうよ」

「大丈夫だから、お姉ちゃんにちゃんと捕ま

ってなさい」

明星学園・第2話

「ゆみ、フラフラ歩いてんじゃないのよ」

祥恵は、妹の手を掴むと一緒に歩きながら、

妹に注意した。一緒に歩いていて、姉として

心配になるぐらい鈍くさい妹だった。

「この子、大丈夫かな」

ゆみは、短い足で道路をフラフラ歩いている

し、自分よりも大きなバッグ抱えて揺れてる

し、何よりも何をするにも動作が鈍くさい。

「通学路を覚えるまでどころか、ずっと1人

でなんか通学できそうもないんだけど」

祥恵は、妹の手を引きながら考えていた。

中古車輸出・第12話

いう方だった。

既に中古車屋さんをされている方ならば、当

たり前のように持っている古物商許可証と中

古車オークション会場の会員権だが、全く初

めて中古車輸出業を目指す方の場合、まずそ

れら2点を取得するところからのスタートと

なってしまう。

中古車オークション会場は、リモートで入札

落札ができるインターネット中古車オークシ

ョン会場への入会を推奨していて、入会手続

きもインターネット上からすぐ入会できる。

中古車輸出・第11話

「まずは、中古車オークション会場への入会

手続きと古物商許可証の取得ですかね」

育成部門の担当者が、最近受講された受講者

の方と電話で話していた。

中古車輸出業者になるためには、まず何から

始めたら良いのかを聞かれているようだ。

育成部門でやっているオンライン通信教育講

座を受講される方で一番多いのは、国内で既

に中古車屋さんをやっていて、更なる業務拡

大で海外展開も考えているという方だが、次

は全くの初心者で中古車輸出業を始めたいと

中古車輸出・第10話

ゆみの配属された輸出部門は、国際色豊かで

スリランカ人、アフリカ人、ベトナム人など

バラエティに富んだ男性や女性スタッフ達で

構成されていた。

一方、育成部門のスタッフ達は、日本人スタ

ッフ3名のみで、若い男性ばかりだった。

彼らの仕事は、これからの、未来の中古車輸

出業者を育てるためのオンライン通信教育講

座への受講者を募ること、そして集まってき

た受講者達を、立派な中古車輸出業者として

独り立ちさせることだった。

明星学園・第1話

「お姉ちゃん、ちょっと待ってよ」

ゆみは、玄関先で急いで靴を履きながら、前

を行く姉に声をかけた。

「ゆみ、道がわからない間だけだからね」

祥恵は妹に返事をした。

今日は、ニューヨークから日本に帰国してき

て、初めて姉と同じ武蔵野の学校に通う日だ

った。姉は、最初の間のまだ通学路がよくわ

からない間だけ妹と一緒に通って、その後は

ゆみとは別々に学校へ通うものだとばかり思

っていたのだった。

ヨット教室物語・第100話

今日は、初めてのヨット乗船日だった。

先週からクルージングヨット教室は始まって

いたが、先週はクラブハウスの2階で座学の

講習を受けただけだったので、実質今週が初

めてヨットに乗る日だった。

今日は、永田瑠璃子も皆と同じようにスカー

トではなくパンツを着ていた。

「さあ、メインセイルを上げようか」

隆の号令で、皆はラッコのメインセイルを上

げるのに必死になっていた。

「そのロープを引っ張ってくれる」

ヨット教室物語・第99話

「いいかな?」

「全然いいんじゃないの、別に」

隆は、運転しながら麻美子に答えた。

「正直、さっきもう乗りに来ないとか言われ

た時、麻美子が本当に乗りに来ない気かと思

ってドキドキしたよ」

「そうなの?」

隆は、麻美子に頷いた。

「後さ、乗せてもらうとか言ってたけど、あ

のヨットは、麻美子も、自分のヨットって思

ってもらって良いんだからね」

ヨット教室物語・第98話

「私さ、ヨット教室の生徒さんたちが、うち

のラッコにクルーとして大勢来るようになっ

たら、隆が1人ぼっちでヨットに乗ることも

なくなるだろうから、今週でヨットに乗るの

は辞めようかなと思ってたのよ」

「マジで、なんで?」

帰りの車の中で、麻美子は隆に話した。

「でもさ、あの子たちとヨットに乗るのだ

ったら、なんかおしゃべりしてて楽しいし

もうしばらく隆のヨットに乗せてもらおう

かなと思い直しているんだけど」

ヨット教室物語・第97話

「それじゃ、来週の日曜日ね」

皆が駅から電車に乗って帰ってしまうと、隆

は麻美子を乗せて東京の自宅まで車を走らせ

た。隆は、渋谷のマンションで一人暮らしし

ていて、麻美子は、中目黒の実家で両親と暮

らしていた。

麻美子には、弟がいるのだが、弟は、いまサ

ンフランシスコに単身赴任していた。

「ね、私なんだけど」

麻美子は、ずっと隆に話し出せずにいたこと

をようやく車の中で話せた。

ヨット教室物語・第96話

「でも、それじゃ、真下にいる麻美子にスカ

ートの中まる見えだろう」

「え、ぜんぜん見えていないよ」

キャタツを下で抑えていた麻美子は、降りて

くる瑠璃子に向かって話しかけた。

「皆、ここから電車で帰るのかな」

隆は、自分の狭いセダン車に全員ぎゅうぎゅ

う詰めで乗せると、横浜マリーナの最寄り駅

、京浜東北線の根岸駅まで送り届けた。

「それじゃ、来週ね!バイバイ」

皆は、駅で別れた。

ヨット教室物語・第95話

隆の声で、皆は飲み終わったお茶のカップと

お茶菓子を片付けて、船台の上のヨットから

帰るために降りた。

「大丈夫か、スカートで下りられるか」

さっき上がるとき、麻美子が心配したのと同

じことを、今度は隆が瑠璃子に言っていた。

「大丈夫、スカートでどこでも普通に動き回

れるから」

瑠璃子は、隆の前で普通にスカートでヨット

のライフラインを飛び越えると、颯爽とキャ

タツを降りてみせた。

ヨット教室物語・第94話

隆が麻美子に言った親子という言葉を、香代

が言い直してくれていた。

「そうよね。お姉ちゃんと妹よね」

麻美子は、訂正してくれた香代の言葉に嬉し

そうだった。

それから隆1人が混じってはいたが、日が暮

て周りが暗くなるまで、ラッコのキャビンの

では、女の子たちの黄色い声で女子会トーク

盛り上がっていた。

「そろそろ、お開きにしようか」

隆が皆に言った。

ヨット教室物語・第93話

麻美子は、隣の席に座っている香代の頭を撫

でながら、隆に答えた。

クラブハウスでの講義中に、ロープワークを

香代に教えてあげて以来、麻美子と香代はす

っかり仲良くなっていた。

「すっかりお友達だよね」

麻美子が、香代に話しかけると、香代は麻美

子の方を嬉しそうに見ながら、頷いた。

「お友達というよりも、見た目は親子だな」

隆は、麻美子のことを笑った。

「お姉ちゃんと妹」

ヨット教室物語・第92話

「麻美子より年上なのはさっき聞いたよ。俺

より上かなって聞いたんだけど」

「何を言っているの?」

麻美子は、隆のことを見た。

「私と隆って同級生だよね、私より4つ上だ

って言っているでしょう」

「あ、そうか。じゃ、俺とも4つ上なのか」

隆がやっと気づいたように言ったので、皆

はキャビンの中で大笑いになった。

「それじゃ、この中で1番の年下は?」

「香代ちゃん」

ヨット教室物語・第91話

「だって、私より4歳も年上だもの」

「そんなこと気にしなくてもいいよ、雪って

呼んでくれていいよ」

雪は、麻美子に言った。

「へえ、麻美子よりも年上なんだ」

「そう、私がこの中で1番の年長者かな」

雪は、隆に答えた。

「そうなんだ。俺よりも年長なのか」

「だから、私よりも4歳年上だって言ってい

るじゃないの」

麻美子は、隆に言った。

ヨット教室物語・第90話

「そうよね、お茶淹れるから寛いでてね」

「ルリちゃんは、会社で経理のお仕事してい

るんだよね」

麻美子は、今日会ったばかりの永田瑠璃子と

もすっかり仲良くなってしまっていて、ルリ

ちゃんと呼ぶようになっていた。

永田瑠璃子だけでなかった。鈴木香代は香代

ちゃん、中村陽子は陽子ちゃん、柏木雪のこ

とだけは、雪さんと呼んでいた。

「なんで、柏木さんだけは雪さんなの?」

隆は、麻美子に聞いた。

ヨット教室物語・第89話

麻美子は、その手前にあるキッチンでお湯を

沸かして、紅茶とちょっとしたお菓子の準備

を始めた。

「お手伝いします」

永田瑠璃子と中村陽子が率先して、お茶の準

備をしている麻美子の側にいくと、麻美子の

手伝いをしてくれようとしていた。

「ね、今日はずっと1日お勉強してたから疲

れたでしょう?」

麻美子は、皆に聞いた。

「うん、知恵熱が出たかも」

ヨット教室物語・第88話

横浜マリーナでのクルージングヨット教室は

いつも毎年春から秋にかけて開催されていて

いつも生徒の比率は男性より女性の方が多い

から、男性生徒はレース艇に振り分けられて

しまい、隆たちのようなクルージング専門の

クルージング艇には女性生徒しか振り分けれ

なくなってしまうのも定番になっていた。

「ソファに座って寛いでいてね。いま温かい

お茶を淹れるわね」

皆は、パイロットハウス前方の一段下がった

ところにあるダイニングソファに腰掛けた。

ヨット教室物語・第87話

「いっらしゃい」

メインサロンの床板を開けて、中に入ってい

るエンジンの整備をしていた隆が顔をあげて

中村陽子に返事した。

「生徒さんたちは皆、若くてかわいい女の子

達ばかりよ」

麻美子は、隆が喜ぶかなと思いながら、そう

伝えたが、隆は別にそうでもなさそうだ。

隆自身は、ラッコに振り分けられる生徒さん

なんて皆、おそらく女の子ばかりだろうなと

は想定済みだ

ヨット教室物語・第86話

麻美子も、初めてこのキャタツを登ったとき

には、上手くよじ登れなかったものだ。

横浜マリーナの船台上への上り下りするシス

テムは、もう少し登りやすいシステムがある

と良いのにと麻美子は思っていた。

「そのドアを開けて、中へどうぞ」

麻美子は、一番ドアの近いところに立ってい

た中村陽子に声をかけると、中村陽子はドア

を開けて、ヨットのキャビンの中へ入った。

「おじゃまします」

他の皆も、キャビンの中へ入った。

ヨット教室物語・第85話

むしろ、キャタツの上り下りで苦労していた

のは、自分と同年代ぐらいの柏木雪だった。

柏木雪は、スカートではなくパンツを着てい

たが、うまくキャタツを登れずに、麻美子が

下でずっとしっかりキャタツを抑えてあげて

ようやく上まで登れたのだった。

「中に作業中の汚いおっさんがいるけど、オ

ーナーだから驚かなくて大丈夫よ」

麻美子は、一番最後にキャタツをよじ登って

デッキへ上がると、デッキ上にいた皆に声を

かけた。

ヨット教室物語・第84話

永田瑠璃子は、何の問題もなく手でスカート

をくるっと捲利上げると、上手にキャタツを

よじ登ってデッキ上に上がってしまった。

「うわ、さすが若い子は身体が柔らかくて機

敏だわね」

麻美子は、スルスルとロングスカートでキャ

タツをよじ登ってしまった永田瑠璃子の姿を

見て呟やいていた。

「私より上がるの上手ね」

むしろ、パンツしか着ない麻美子よりも、よ

り上手にキャタツを上がっていた。

ヨット教室物語・第83話

そのため、ヨットが陸上で保管されていると

きは、ヨットの船体に長いキャタツを立てか

けて、キャタツを登って船体のデッキ上に乗

り降りしなければならなかった。

「スカートじゃ上がれないものね。私と一緒

に下でお話しながら待っていようか」

生徒のうち永田瑠璃子は、その日はパンツで

なく、オーバーオールタイプのジャンパース

カートを着ていた。それを見て、麻美子は、

永田瑠璃子にそう伝えた。

「え、ぜんぜん大丈夫です」

ヨット教室物語・第82話

そのため、必然的にラッコへの振り分けは女

性ばかりになってしまうのだった。

「それじゃ、うちのヨットを案内しますね」

麻美子は、生徒たちに言うと、ラッコの船体

にキャタツをしっかり掛け直した。

隆のヨットは、横浜マリーナの海上に係留さ

れて保管されているわけではなかった。

横浜マリーナ内の敷地に船台というヨットの

船体を上に載せて保管しておける台車があっ

て、その台車の上にラッコのヨットを載せて

陸上で保管されているのだった。

ヨット教室物語・第81話

麻美子は、自分が生徒を迎えにきたせいかと

反省していたが、実はそうではなかった。

ヨット教室の生徒さんの振り分けは、麻美子

が迎えにくる以前から既にマリーナのスタッ

フ間で決めていて、クルージングヨット教室

の生徒さんたちは、もともと7:3で女性の

数の方が多いのだった。

ウララのようなレース艇たちに若い男性生徒

さんたちを先行して振り分けしてしまうと、

もうあと残りは、ほぼ女性の生徒さんしか残

っていないのだった。

ヨット教室物語・第80話

隆は、毎週自分と一緒にヨットへ乗ってくれ

るクルーを求めて、クルージングヨット教室

の生徒さんたちを自分のヨットに受け入れる

ことにしたはずだった。

一緒に乗ってくれるということは、セイルを

上げたり下げたりする際、一緒にヨットを操

船してくれる人を求めているはずだ。

セイルを上げたり下げたりするのに、女の子

ばかりだったら困るんじゃないかな。

「私が、隆に変わって生徒さんのお迎えに来

てしまったからかな」

ヨット教室物語・第79話

「彼女、うちのヨットに振り分けられたんだ

麻美子は、彼女の名前が呼ばれたとき、なん

かちょっと嬉しかった。

「永田瑠璃子さん、柏木雪さん、中村陽子さ

ん、鈴木香代さん」

麻美子は、クラブハウスで先生から受け取っ

た資料を確認しながら、ラッコのヨットに振

り分けられた生徒さんたちの顔を確認した。

みな女性ばかりだった。

「これじゃ、隆が困らないかな」

と麻美子は思った。

ヨット教室物語・第78話

「永田さん、柏木さん、中村さん、鈴木さん

は、前へ出てきてください」

麻美子が教室の前方に移動すると、マリーナ

職員は、今度はラッコに振り分けられる予定

の生徒さんたちの名前を順番に呼んでいた。

先生に名前を呼ばれる度に、呼ばれた生徒さ

んが返事をして教室前方に出てくる。

最後に、鈴木さんと呼ばれた生徒が教室の一

番後ろから返事して、教室の前方に歩いて来

た。麻美子がさっきロープワークを教えてあ

げていたあの可愛い女の子だった。

中古車輸出・第9話

ゆみには、輸出部門のホームページを作るこ

ととは別に、もう1つ育成部門の受講生たち

のホームページを作るという仕事もあった。

育成部門のオンライン通信教育で受講してい

る受講生さん達にだって、これから中古車輸

出業者として独り立ちしていかなければなら

ないから、海外バイヤー向けの英語ホームペ

ージは必要になってくる。

そんな彼らの英語ホームページも、ある程度

の英語は帰国子女でわかるゆみが担当し、制

作してあげていた。

中古車輸出・第8話

営業担当者たちは、それらの海外バイヤーへ

の返信、商談も進めつつも、既に受注済みの

海外バイヤーの自動車を仕入れたり、船積み

の手配もしなければならない。

海外バイヤーたちは、会社の英語向けホーム

ページから車のオファーを出してくるため、

横浜の貿易会社が売上げを順調にあげていく

ためには、ゆみの作っている、運営している

ホームページが重要になってくる。

「少しハイエースの掲載増やそうかな」

ゆみは、ホームページの構成を考えていた。

中古車輸出・第7話

「今日のオファーは27件だから5件ずつ」

ゆみは、その日届いた海外バイヤーからのオ

ファーを輸出部門の営業担当者たちに振り分

けていた。

営業担当者たちは、その日振り分けられたオ

ファーに対して、メールで返信する。

5件ぐらいのメール返信なら、すぐに終わっ

てしまうと思うかもしれないが、処理しなけ

レバならない海外バイヤーは、当日届いた分

だけではない。前日に出した分やその以前に

返信した分からも届いていたりする。

ヨット教室物語・第77話

「うちのヨットには、どんな生徒さんたちが

振り分けられるのかな」

麻美子は、自分が呼ばれるのを待ちながら、

考えていた。さっき、ロープの結び方がよく

わからずに私が教えてあげた女の子って素直

で可愛かったし、あの子がうちのヨットに振

り分けられるといいな。

「ラッコさーん」

教壇のマリーナ職員に呼ばれた。

「はーい」

麻美子は、慌てて教室前方へ移動した。

ヨット教室物語・第76話

マリーナ職員は、ウララに振り分けられる生

徒さんたちの名前を呼び、呼ばれた生徒さん

たちも教室の前方に移動して、これからお世

話になるヨットのオーナーさんと対面した。

「皆さん、若い男性ばかり」

レース艇のウララに振り分けられる生徒さん

たちは流石に皆、若くて力のありそうな男性

たちばかりであった。

「それはそうよね、あのヨットだし」

麻美子は、ウララの船内に置いてあったバケ

ツのトイレのことを思い出していた。

ヨット教室物語・第75話

「それでは、生徒さんたちを振り分けます」

マリーナ職員が皆に伝えた。

「自分の船の名前が呼ばれたら、オーナーさ

んは教室の前方に出てきて下さい」

教壇の先生に代わってマリーナ職員が、教室

の後ろの方に集まっていたヨットのオーナー

さんたちに声をかけた。

「ウララさーん!」

「はーい」

先生に呼ばれて、オーナーの松浦さんは、教

室の前方に移動した。

ヨット教室物語・第74話

「そのバケツはあまり触れない方が良いよ」

「そうなんですか?」

「うちの皆のトイレだから」

松浦オーナーは、麻美子に苦笑していた。

トイレの用だって、扉も何もない、ちょっと

した仕切りの影へバケツを持って行って、そ

こで済ませてくるのだと説明してくれた。

「私、ウララには乗れないわ」

「まあ、そうだろうね」

松浦オーナーは苦笑していた。

麻美子は、その時のことを思い出していた。

ヨット教室物語・第73話

麻美子は、以前、ウララの船内を覗かせても

らった時、速く走れるようにと船体を軽くす

るため、ほぼ何もない空っぽの船内に驚いた

ものだった。

パイプベッドが両サイドに4個備え付けられ

ており、カセットガスコンロ1個とバケツが

置いてあるだけの船内を見せてもらったこと

があった。

「え、これがトイレなんですか」

ただの青いバケツがウララのトイレで、そこ

へ用を足して海に流すのだそうだ。

ヨット教室物語・第72話

「松浦さんのところも、生徒さん取られるの

ですか?」

麻美子は、この冬の間ずっとヨットへ乗りに

来ていて、すっかり顔見知りになってしまっ

たウララの松浦オーナーに話しかけた。

「うちのヨットは、若い男性クルーがいない

と走らせられないヨットだから」

ウララは、隆の乗っているラッコのヨットと

は、まるっきり違うタイプのヨットで、ヨッ

トレースで速く走ることだけに特化して造ら

れているヨットだった。

ヨット教室物語・第71話

隆は、午前中、セーリングをして来たヨット

の後片付けで忙しそうだった。お昼ごはんの

後片付けを終えた麻美子は、隆に提案した。

「よろしく頼むよ」

ヨットのセイルを折りたたんでいた隆は、黙

って麻美子に頷いた。

麻美子がクラブハウスに行くと、他にも多く

のヨットオーナーさんたちが生徒たちのこと

を迎えに来ていたのだった。

その中に、麻美子が最近知り合ったウララの

松浦オーナーの姿もあった。

ヨット教室物語・第70話

お昼、ヨットで海に出航して昼過ぎにマリー

ナへ戻って来て、キャビンでお昼を作って、

デッキで昼食を食べているときも、麻美子は

隆にそのことを伝える機会を逃していた。

「そろそろ各艇に生徒さんたちを振り分けま

すので、オーナーさんはクラブハウスの方へ

お集まり下さい」

マリーナの職員さんが、各艇のオーナーさん

に伝えていた。

「生徒達を迎えに行くの私が行こうか」

麻美子は、忙しそうにしている隆に言った。

ヨット教室物語・第69話

あんなに大勢の生徒さんたちがヨットに乗り

に来てくれるのだったら、来週からは別に私

が隆と一緒にヨットへ来なくても、隆もさみ

しくないわねと麻美子は思っていた。

「来週からは、私がヨットに来なくても、い

っぱい人いるし大丈夫だよね」

麻美子は、隆にそう伝えようと思いつつも、

ずっと言い出せずにいた。

午前中、ヨットで海に出航して、いつもの貯

木場には立ち寄らずに、昼過ぎにはマリーナ

へ戻って来て、お昼を食べていた。

ヨット教室物語・第68話

今朝の横浜マリーナは、随分と人が多く騒が

しかった。

今日から今年のクルージングヨット教室が始

まるので、マリーナにはヨット教室に参加す

る生徒さんたちがいっぱい集まって来ていて

いつもは静かなマリーナの敷地内が若い人た

ちのお喋りする声で騒々しかった。

生徒たちの間をかき分けて、麻美子は隆と一

緒に自分たちのヨットへ向かった。

「夕方から生徒たちの引き渡しだから、午前

中少しだけ海に出て帆走してこよう」

ヨット教室物語・第67話

「俺らも、来週からあそこに停まっているど

れかのヨットに乗れるんだよな」

前の席の男性が、ロープワークの練習しなが

ら、横にいる仲良くなった彼と話していた。

香代は、彼の話を聞きながら、このお姉さん

もヨットのオーナーさんで、生徒のことを迎

えに来ているんだろうなと思った。

「私は、このお姉さんのヨットに振り分けら

れると良いのにな」

香代は、お姉さんにロープの結び方を教わり

ながら考えていた。

ヨット教室物語・第66話

教室に集まって来たおじさん、おばさんたち

は、ここのマリーナにヨットを停泊している

オーナーさんたちで、ロープワークの実習が

終わったら、生徒たちは、彼らのヨットに振

り分けられる予定になっていた。

「隆!私が生徒さんたちを迎えに行って、後

で、そっちに連れて行くね」

「わかった!頼む」

ストレートの長い髪のお姉さんは、教室の窓

から見えるヨットのデッキで作業している男

性に声をかけていた。

ヨット教室物語・第65話

初めて教わるヨットのロープワークに、生徒

たちは皆、ロープ結びに苦労していた。

教室の先頭にいた先生だけでは、生徒たち皆

のロープワークを見てあげられず、集まって

来たおじさん、おばさんたちも生徒たちのや

っているロープワークをそれぞれ手伝ってい

たのだった。

「上手に結べるようになれたじゃないの」

香代は、ストレートの長い黒髪のお姉さんが

すっかり気に入ってしまって、彼女に全て教

わってしまっていた。

ヨット教室物語・第64話

「そっちは、こうやって下から通すと、うま

く結べるわよ」

ストレートの長い黒髪のお姉さんは、香代に

優しく結び方を教えてくれた。

香代が気づくと、午前、午後の座学の間は、

教壇の先生とヨット教室の生徒たちしかいな

かった教室に、他にもたくさんのおじさん、

おばさんたちが集まって来ていた。

香代が、髪の長いお姉さんにロープワークを

教わったように、教室の周りに集まって来た

人たちも、生徒達に結び方を教えていた。

ヨット教室物語・第63話

座学の講習は、教本を片手に先生の話を聞い

ていて、だいたい内容を理解できていた香代

だったが、いざロープワークの実習になると

なかなかうまくロープを結べずにいた。

「うまく結べる?ヨットのロープの結び方っ

て本当に難しいよね」

香代がロープの結び方で苦労していると、そ

れを後ろで眺めていた長いストレートの黒髪

を胸の辺りまで垂らしたお姉さんが香代に話

しかけてきてくれた。

「そうそう、そこは上から通すのよ」

ヨット教室物語・第62話

香代は、あまりお腹も空いていなかったし、

バッグの中に持ってきたグミの袋を開けて、

それをつまみながら、午前中に教えてもらっ

た座学の内容を1人机で復習していた。

「午後の授業を始めましょうか」

教壇に先生が戻ってくると、午後の座学が始

まった。

午後は、1時間ぐらい教壇の先生の話す座学

を聞くと、その後は、生徒たちそれぞれに短

い長さのロープを3本ずつ配られて、そのロ

ープを使って、ロープ結びの実習になった。

ヨット教室物語・第61話

いつも学校の授業の成績もわりと優等生だっ

た香代は、初めて聞くヨットの知識でも教本

の内容を読みながら、座学の先生の話を聞い

ていると殆どの内容を理解できた。

「それでは、お昼休憩にしましょう。午後は

1時から始めます」

午前の座学の授業が終わって、教壇の先生も

お昼を食べに教室を出ていった。

生徒たちも、それぞれ教室を出て、近くのス

ーパーに行って、お昼の弁当などを買ってく

ると、マリーナの敷地内で食べていた。

ヨット教室物語・第60話

周りの人たちが隣の席の人たちとおしゃべり

をしている姿を眺めながらも、香代は眺めて

いるだけで話しかけられずにいた。

「それでは、座学を始めます」

50代ぐらいの先生が教室の先頭で挨拶をし

て、ヨット教室の座学が始まった。

「座学で使う教科書を配りますね」

まず最初に、コピー機でプリントされた教本

が生徒たちに配られた。香代のところにも教

本が配られて、香代は教本を読みながら、教

壇の先生の話に耳を傾けた。

ヨット教室物語・第59話

後ろの席から他の受講生たちの姿を観察して

いると、授業が始まるのを待ちながら、周り

にいる同世代の生徒たち同士で仲良くおしゃ

べりをしていた。

お友達同士でヨット教室に応募して来たのか

と思うぐらい仲良くおしゃべりしていたが、

話を聞いていると、みな特にお友達同士って

わけではなく、たまたまヨット教室で一緒に

なった人たちが多いようだった。

「私も、あんな風に話しかけられたらな」

香代は、周りの皆を眺めていた。

ヨット教室物語・第58話

香代は、男性スタッフに案内されて、クラブ

ハウスのハウスの表に付いている階段を上が

って、2階の部屋に入った。

クラブハウスの中には、既にこれからクルー

ジングヨット教室を受講しようという人たち

でいっぱいだった。

「すごい人の数」

自分と同じ20代ぐらいの人もいたが、30

、40、50代ぐらいの人もいて、年代は様

々だった。女子と男子では、7:3ぐらいで

女性の参加者の方が多かった。

ヨット教室物語・第57話

「大丈夫かな、私」

横浜マリーナの正面には、大勢の人たちが集

まっていた。自分と同じクルージングヨット

教室に参加するために来ていた人たちのよう

だった。こんなに大勢の人たちの姿を見て、

既に、香代の心臓はドキドキしていた。

入り口に立っていた男性スタッフに、クルー

ジングヨット教室の案内ハガキを見せた。

「クルージングヨット教室は、クラブハウス

2階で開催されます」

男性スタッフは、香代に伝えた。

ヨット教室物語・第56話

鈴木香代は、短大を卒業後、会社に就職して

OLをしていた。会社では仕事が終わるとす

ぐに家へ直行して、お休みの日もずっと家の

中で過ごしていることが多かった。

そんな性格の香代だったが、なんとなく自分

を変えてみたい、何か新しい挑戦をしてみた

いと考えていた。そんな香代が広報誌で目に

したのが、横浜マリーナで開催されるクルー

ジングヨット教室の生徒募集の告知だった。

ヨットなんて一度も乗ったことがなかったが

教室に応募してみたら当選したのだった。

ヨット教室物語・第55話

日曜日の朝、鈴木香代は横浜マリーナにやっ

て来ていた。

中学、高校とも女子バスケット部だったし、

運動は苦手というわけではないのだが、人見

知りで賑やかな場所で過ごすことが苦手だっ

たため、あまり外に出かけることもなく過ご

してきた彼女だった。

「私って、人と話すのがどうしても苦手だな

ヨットでも始めたら得意になれるかな」

そう思って、横浜市の広報誌に載っていたヨ

ット教室に応募してみたのだった。

ヨット教室物語・第54話

冬の間ずっと隆と一緒に乗っていたおかげで

いちおう中央の一番背の高いメインセイルと

先頭についているジブセイル、最後部の操縦

席の近くにあるミズンセイルを上げてヨット

を動かすっていうことぐらいは、麻美子でも

理解できるようにはなっていた。

でも、基本的にヨットのことなんて全然わか

らなかった。

「こんな私が、ヨットに乗り続けていても仕

方ないじゃないの」

麻美子は、そう考えていたのだった。

ヨット教室物語・第53話

「そうだね。いよいよ、麻美子も先輩クルー

になる日が来たんだね」

「先輩クルーって・・」

隆は、新しくヨット教室の生徒さんが来た後

も、麻美子が一緒にヨットへ乗り続けると未

だに思い続けているみたいだった。

「麻美子が生徒達に教えてやってくれよ」

だが、麻美子自身は、新しいクルーが来て、

隆と一緒に毎週ヨットに乗ってくれるように

なったら、自分はもうヨットに乗るのはやめ

ようと考えていた。

ヨット教室物語・第52話

「大学の時、夏休みで一緒に行ったサンフラ

ンシスコ、モントレーの海で見たラッコから

つけたの?」

麻美子は、隆に聞いた。

「まあ、それもあるけど」

ラッコのように海の上でのんびりプカプカ浮

かんでいたいという隆の思いから船名を「ラ

ッコ」にしたのだと説明した。

「先週、隆が言っていた新しいクルーが来る

っていうのは、来週のヨット教室の生徒さん

のことだったの?」

ヨット教室物語・第51話

「隆くんのところは、ヨット教室の生徒さん

を取るの初めてじゃないの」

「はい、まだラッコ自体が1月に進水したば

かりのヨットですしね」

隆と市毛さんは、ラッコのキャビンの中でお

酒を飲みながら話していた。

隆のヨット、フィンランド製のナウティキャ

ット33という33フィートのモーターセー

ラー、セーリングクルーザーは、船名をラッ

コといった。

「初の生徒さんか」

中古車輸出・第6話

あとは、社長と経理を担当している社長の奥

さんというのが、今井ゆみが就職した横浜の

貿易会社スタッフ全てだった。

「シャラン、オファー届いているよ」

今井ゆみは、輸出部門に配属して、会社の海

外バイヤー向けホームページを制作し運用し

ていた。会社のホームページへのアクセスを

増やして、海外バイヤーからのオファーを増

やし、営業スタッフ達が車の注文をより多く

取れるようにしてあげるのが、彼女の仕事、

ミッションであった。

中古車輸出・第6話

あとは、社長と経理を担当している社長の奥

さんというのが、今井ゆみが就職した横浜の

貿易会社の総メンツだった。

今井ゆみは、輸出部門に配属して、会社に海

外バイヤー向けのホームページを制作し運用

していた。会社のホームページへのアクセス

中古車輸出・第5話

輸出部門には、日本人の部長1名に海外バイ

ヤー達と商談して車の注文を受ける営業とし

て外国人スタッフが5名、そこへ今井ゆみが

専任のウェブデザイナーとして1名加わった

形だった。

育成部門には、特に部長は在籍しておらず、

3名の日本人スタッフがウェブデザイナーと

して在籍していた。3名全てがウェブデザイ

ナーなのは、中古車輸出業者の育成方法がオ

ンラインによる通信教育を採用しているから

だった。

中古車輸出・第4話

今井ゆみが就職した横浜の貿易会社には、輸

出部門と育成部門の2部門があった。

今井ゆみが配属となったのは、輸出部門で日

本の自動車を海外のバイヤーへ実際に輸出し

ている部署だった。

一方、育成部門の方は、今井ゆみが配属とな

った輸出部門で実際に行なっている「中古車

輸出業」という職業を応募してきた受講生た

ちに教えている部署だった。

会社が成長していくための輸出部門と将来の

中古車輸出業者を育てる育成部門だ。

ヨット教室物語・第50話

横浜マリーナのクルージングヨット教室の生

徒募集は毎年、神奈川県や横浜市の広報誌に

て公募されている。

応募してきた生徒たちは、スクール初日だけ

マリーナのクラブハウスで座学、基本的なヨ

ットの乗り方について職員から学んだあと、

隆たちマリーナにヨットを停泊しているヨッ

トで生徒の受け入れを希望しているヨットに

それぞれ振り分けられて次の週からは各艇の

オーナーさんたちの元でヨットに乗艇し、半

年間ヨットの乗り方を学ぶのであった。

ヨット教室物語・第49話

「隆くんのところは、ヨット教室の生徒さん

何人か取るつもりなの?」

「一応、そのつもりです」

隆は、市毛さんに答えた。

隆がヨットを停泊している横浜の公営マリー

ナでは、毎年春に「クルージングヨット教室

」と称して、横浜市民の中からヨットを習い

たいという大人たちを募って、春から秋まで

半年間のヨット教室を開催していた。

生徒たちは、マリーナに保管しているヨット

に乗船して、ヨットを学ぶのだった。

ヨット教室物語・第48話

隆たち、横浜マリーナに停泊しているヨット

たちは、お昼の時間になると、そこへやって

来て、もう使われていないプール脇にヨット

を舫うと、そこの台座でお昼ごはんを料理し

皆で食事を楽しんでいた。

このプールが意外に頑丈でしっかりしている

ため、皆でヨットを止めて上陸して楽しむの

には、ぴったりの施設だった。

現在、横浜の貯木場は横浜ベイサイドマリー

ナとして生まれ変わって、イルカのプールは

その沖にオブジェとして舫われていた。

ヨット教室物語・第47話

横浜の金沢港沖の貯木場には、木材は浮かん

でいないが、その代わりに昔、横浜で開催さ

れた万博、横浜博覧会の時に使用されていた

六角形のステージ型プールが舫われていた。

博覧会では、プールの中でイルカが飛び跳ね

ていて、博覧会の入場者たちに芸を見せて楽

しませていた場所だった。

「そうですね、来週はヨット教室ですね」

「もう春だものね」

博覧会で使い終わったプールは、役目を終え

て貯木場跡地で静かに舫われていた。

ヨット教室物語・第46話

「来週から今年のヨット教室が始まるね」

お昼、隆が自分のヨットを貯木場に入れると

先に泊まっていたフェリックスのヨットのオ

ーナー、市毛さんが隆に話しかけてきた。

貯木場というのは、港内の海外から輸入した

木材などを海上に保管しておく場所のことで

そこの海上には、たくさんの木材が浮かべら

れていた。というのが、本来の貯木場の姿な

のであろうが、ここ横浜の貯木場は、貯木場

跡地みたいなところで海上には流木がちょっ

ことしか浮かんでいなかった。

ヨット教室物語・第45話

「麻美子も先輩になるのか」

「先輩クルーって、私、ヨットのことは全然

わからないんだけど」

麻美子は、隆に答えた。

「でも、メインセイルもジブセイルも上げら

れるようになっただろう」

「他に乗ってくれる仲間が増えたら、私はも

うヨットに乗りに来なくても平気よね」

「なんで?」

「なんでって、私が一緒に乗らなくても、隆

は彼らと一緒に乗れば良いでしょう」

ヨット教室物語・第44話

横浜マリーナの中を、ヨット専門の暖かいオ

イルスキンを着て歩き回っていると、格好だ

けは一人前のヨットウーマンに見えている麻

美子ではあった。

そして、半年があっという間に過ぎて、季節

は春を迎えて、せっかく初めて隆に買っても

らったヨット用のオイルスキンも着ていると

暑すぎる季節になってきた。

「そろそろ、うちのヨットにも麻美子以外の

クルーも来るようになるから、そしたら、麻

美子も先輩クルーだね」

ヨット教室物語・第43話

「こんなに高くないの?」

「いいよいいよ、俺といつも一緒に乗ってく

れているし。麻美子が毎週寒そうに乗ってい

るから暖かく乗ってほしいし」

「隆は、社長さんでお金持ちだものね」

麻美子は、隆の頭を小突きながら、笑顔で笑

った。たまには、隆に甘えて、このぐらいの

もの買ってもらっても良いか。

その7万円もする暖かいオイルスキンを着て

ヨットに乗っていると、寒い冬の海の上でも

暖かく過ごせて快適になった。

ヨット教室物語・第42話

麻美子が、街中で皆がよく着ている一般的な

コートで、冬の海のヨットに乗っていると、

それでは寒いだろうと隆が、自分のお金でヨ

ット専門の風を通さない暖かいオイルスキン

を購入してくれることになった。

「これって7万円もするよ!」

中目黒のマリンショップへ買いに行った時、

隆が購入してくれようとしていた暖かいオイ

ルスキンに付いていた値札を確認して、麻美

子は驚いていた。

「どうせならしっかりしたものが良いよ」

ヨット教室物語・第41話

「おはよー、麻美ちゃん」

冬の間ずっと毎週のように、横浜のマリーナ

に通っていると、フェリックスの市毛さん以

外にも、横浜のマリーナにヨットを停泊して

いる他のオーナーさんたちともすっかり顔見

知りになってしまっていた。

麻美子は、街中で皆がよく着ている一般的な

コートを着て、冬の海のヨットに乗っていた

「そのコートじゃ寒いだろう。今度、俺が暖

かいコートを買ってやるよ」

「これって7万円もするよ!」

ヨット教室物語・第40話

「私、別にクルーではないんだけど」

「もうクルーみたいなものじゃん。俺と一緒

にうちのヨットに乗っているんだから」

それから、寒い冬の間ずっと毎週のように麻

美子は、隆のヨットに乗っていた。

「あんたも一緒に乗ってあげなさいよ」

麻美子は、母から隆が1人で海にヨットを出

していて何かあったらいけないから一緒に乗

りなさいとも言われていたのだった。

そんなわけで、この冬は寒い中、毎週のよう

に横浜のマリーナに通うこととなった。