ヨット教室物語。第541話

「アラだから?」

「あ、そういうわけじゃなかったんだけど」

麻美子が笑いながら、慌てて否定した。

「さあ、夕食ができましたよ」

麻美子が2つの大皿にそれぞれ盛り付けたお

刺身とアラ汁をメインサロンの皆が飲んでい

るテーブルの前に出した。

もう1つの大皿は、パイロットハウス一段下

のダイニングサロンに出した。

「食べましょう!」

ヨット教室物語・第540話

「皆、お料理上手だし」

麻美子が言った。

「私がお料理しなくても大丈夫かな」

麻美子は、雪とお酒を飲み始めていた。

「麻美ちゃん、できたよ」

香代が、麻美子に声をかけた。

「どれどれ」

麻美子が立ち上がって、皆の作り終わったア

ラ汁を覗きに、ギャレーへやって来た。

「あら、美味しそうじゃないの」

ヨット教室物語・第539話

「雪ちゃん、飲んでる?」

「いただきます」

ラッコのメンバーの中では、雪だけが夕食の

料理はせずに、アクエリアスのメンバーたち

と一緒に、メインサロンに座って、アクエリ

アスのお酒の相手をしていた。

「私も一緒に飲もうかな」

料理の途中で、麻美子も雪の横に座ると、グ

ラスにビールを入れて飲み始めていた。

「雪ちゃん、乾杯!」

ヨット教室物語・第538話

「そっちのお魚も切ろうか」

陽子が、瑠璃子に聞いた。

「うん、お願い」

新島のお魚屋さんで買って来たお刺身を中心

に、アラ汁を作ろうということになり、お料

理大会へと発展したのだった。

アクエリアスのメンバーたちは、ラッコのメ

ンバーのお料理が作り終わるまでの間、ラッ

コのパイロットハウス、メインサロンでお酒

を飲みながら、先に宴会を始めていた。

ヨット教室物語・第537話

「お米って、お鍋で炊くんだね」

「炊飯器じゃないんだ」

「うちのおばあちゃんって、いつも鍋で炊い

ているよ」

瑠璃子が言った。

「ヨットは、積んでいるバッテリーがそんな

に大きくない船多いから、電気が不自由で、

ガスを使ってお鍋で炊く船多いんだ」

「なるほどね」

麻美子が答えた。

ヨット教室物語・第536話

「瑠璃ちゃん、そっちのお野菜を切ってくれ

ないかな」

麻美子は、ギャレーで瑠璃子に夕食用の料理

の指示を出していた。

新島の街からヨットに戻って来たラッコのメ

ンバーたちは、キャビンのギャレーでお料理

大会を始めていた。

隆までもが、お米を洗って、お鍋でお米を焚

いていた。

「初め、ちょろちょろ、中ぱっぱ」

ヨット教室物語・第535話

「お刺身をください」

「アジとかカレイの良いのあるわよ」

お店のおばさんが麻美子に言った。

「じゃ、カレイを3尾ください」

麻美子が返事した。

「アジとか食べる?」

「アジフライ好き!」

「それじゃ、アジも少し」

麻美子が、魚屋とかに立ち寄って、今晩のお

かずだけ購入すると、皆はヨットに戻った。

ヨット教室物語・第534話

「なんか買うものがあるなら、必要な食料品

だけ補充してからヨットに戻ろうか」

隆が、皆に言った。

殆どの店が、若者向けのアパレルショップの

中に埋もれるようにして、魚屋さんや小さな

スーパーがあった。

「すごい活気ある街ですね」

「今だけよ、夏が過ぎたら静かに戻るわ」

麻美子は、お店のおばさんと話していた。

「お刺身が少しほしいわね」

ヨット教室物語・第533話

「これは、もう香代ちゃんの島だね」

雪は、新島の様子をラッコのメンバーで一番

若い香代を例としてあげていた。

当の香代自身は、こういう場所があまり得意

ではないようだった。

「新島でも、もっと静かな場所もあるから、

明日の午前中は次の島への出航前に、ちょっ

とそっちの方も散歩してみようか」

隆が言った。

「ここより静かなところの方が良いわ」

ヨット教室物語・第532話

るから、夏休みの高校生が多いんだ」

隆は、麻美子に説明した。

「香代ちゃん、迷子にならないでね」

麻美子は、横にいる香代の手を握った。

「私も、なんか迷子になってしまいそう」

「陽子ちゃんも、手を繋いであげようか」

麻美子が、笑顔で陽子に言った。

「まあ、迷子になっても、漁港まで戻れば良

いだけだよ」

隆は、陽子に答えた。

ヨット教室物語・第531話

商店街のお店の中には、お土産屋さんみたい

な店もあるにはあるのだが、おしゃれなアク

セサリーやらアパレルを販売しているお店の

方が遥かに多かった。

まるで、東京の原宿のお店が新島へ一斉に移

動してきたみたいだった。

「これは、なんかわざわざ伊豆の島までやっ

て来た感がないわね」

麻美子は、新島の商店街に呆れていた。

「新島と式根島は、熱海からも高速船で来れ

ヨット教室物語・第530話

「ここで、おばさんが水着を着て、うろうろ

していたら完全に場違いよね」

麻美子と雪も話していた。

「それじゃ、ビーチは諦めて、商店街の方へ

行ってみるか」

隆の提案で、ラッコの皆は、中心街の坂道を

上って行った。

坂道の両端には、商店が無数に並んでいた。

「お店で売っているものが島らしくない」

瑠璃子が、店の中を覗いて、感想を言った。

ヨット教室物語・第529話

「水着、今回のクルージングに持って来てい

る人はいる?」

「一応、私も持っては来ているけど」

陽子が隆に答えた。

「私も持って来ているけど、このビーチで水

着を着る自信はないかな」

瑠璃子も答えた。

「私が持って来た水着ってワンピースだし」

「だよね、私もワンピース。ここで着ている

子たちってビキニばかりだものね」

ヨット教室物語・第528話

隆は、麻美子に答えた。

「歩いている子たちが皆、香代ちゃんよりも

さらに若い子達ばかりよね」

ラッコの皆は、街の中心街の目の前のビーチ

までやって来ていた。

「隆が言っていた新島は、わちゃわちゃして

いるって、こういう事だったのね」

「意味がわかった?」

麻美子は、隆に頷いた。

「まるで、原宿みたい」

ヨット教室物語・第527話

新島の中心街の通りは、海岸沿いから島の上

の方に向かって、上がっていくように伸びて

いた。中心街の目の前には、海岸、ビーチが

あって、ビーチは、ものすごい人の数で溢れ

ていた。

青やら赤やらの派手な水着を着た男女で、ビ

ーチは満杯だった。

「なんか皆、すごく若い人ばかりじゃない」

「ああ、夏の新島や式根島は、高校生や10

代の子たちでいつも溢れているよ」

ヨット教室物語・第526話

アクエリアス船内には誰も残ってなかった。

「ちょっとだけ出かけてきます。すぐに戻っ

てきます」

隆は、岸壁で宴会をしていた隣のヨットの人

たちに声をかけてから出かけた。

「行ってらしゃい」

漁港を出ると、島の海岸沿いの道路を街の方

へ向けて、ぶらぶらと歩いていた。

「なんだか、すごい人の数ね」

「大混雑していない」

ヨット教室物語・第525話

「陽が落ちて暗くなる前に、ちょっと新島の

街を見てこようか」

キャビンの中で寛いで、お喋りをしていた皆

に、隆が声をかけた。

「うん。遊びに行ってこよう」

皆は、小さいバッグを肩から下げて、出かけ

る準備をした。

「アクエリアスも一緒に行くかな」

麻美子が、背後に停泊しているアクエリアス

の中を覗くと、もう出かけてしまっていた。

ヨット教室物語・第524話

「そこへ、そのまま入港して、俺らの後ろに

ちゃっかり停まっていないか」

「確かに」

陽子が、隆に頷いた。

「それなのに、お礼も言われてない」

「そうだよね」

陽子が頷いた。

「そう言うことを言わないの!」

横で2人の話を聞いていた麻美子が、隆のこ

とを叱っていた。

ヨット教室物語・第523話

「一応、男性も1人いますけどね」

皆の中で、年長の麻美子や雪は、周りに停泊

しているヨットの男性たちに声をかけられて

その応対をしていた。

「なんか、随分とアクエリアスは、楽をして

いないか」

隆が、キャビン内で陽子に言った。

「そうなの?」

「だって、俺らがやっと空きスペース見つけ

て、ここに停泊したんだぞ」

ヨット教室物語・第522話

アクエリアスのクルーが船首からラッコの船

尾にいた陽子たちに、舫いロープを投げて渡

した。

「はーい!」

陽子と瑠璃子が、アクエリアスのクルーから

舫いロープを受け取り、ラッコの船尾に付い

ている左右のクリートにロープを結んだ。

「どちらから来られたのですか?」

「横浜です」

「女性ばかりで乗られているのですね」

ヨット教室物語・第521話

ラッコが岸壁に停泊し終わった後、ラッコの

すぐ後ろにアクエリアスがアンカーを打って

停泊した。

港内は、お盆休みを新島で過ごそうとやって

来たボートやヨットの数が多すぎて、全艇が

全て岸壁に停泊できる場所がないため、ラッ

コのように直接、岸壁に停泊したヨットの後

ろに、さらに後からやって来たヨットが二重

に停泊しているのだった。

「お願いします」

ヨット教室物語・第520話

ラッコが岸壁の手前で停泊したのに合わせて

船首で舫いロープを持って構えていた香代が

舫いロープを持ったまま岸壁に飛び移って、

岸壁に付いていたクリートに舫いを結んだ。

「すごいね!女の子ばかりで、かっこ良く船

を停泊させたね」

隣に停泊していたヨットのおじさんたちから

香代への歓声が上がっていた。

「香代ちゃん、戻っておいで」

麻美子に呼ばれ香代は岸壁から船へ戻った。

ヨット教室物語・第519話

隆は、ラッコを操船して、空いている岸壁に

近づきつつ、頃合いの良い場所で、アンカー

を持っている陽子と瑠璃子に、アンカーを落

とす指示を出した。

アンカー、レッコーとは、アンカーを落とせ

という意味だ。

ラッコは、岸壁に向かって前進していたが、

陽子と瑠璃子が落としたアンカーが効いて、

前進するのが止まって、岸壁の手前でしっか

り停泊した。

ヨット教室物語・第518話

船首のアンカーは、常に船首に備え付けられ

ていて、電動のスイッチ一つでアンカーの出

し入れができた。

船尾には、アンカーが常時取り付けられてい

るわけではなく、陽子と瑠璃子に、雪も加わ

って、船尾用のアンカーが入っているアンカ

ーロッカーから手でアンカーとアンカーロー

プを取り出して、2人が手動で船尾に取り付

けたのだった。

「アンカー、レッコー!」

ヨット教室物語・第517話

海の日のクルージングでは、ラッコは波浮港

の岸壁へ後ろ向きに停泊したので、船首に備

え付けられたアンカーを使えた。

今回は、大勢のボートやヨットで混雑してい

るし、他のヨットやボートが船首から岸壁に

突っ込む形で停泊しているため、他艇に合わ

せて、ラッコも船首から岸壁に着けるしかな

かったのだった。なので、船首から岸壁に停

泊する場合は、ラッコも船首と別のアンカー

を船尾から落とさざるをえなかった。

ヨット教室物語・第516話

隆は、狭い港内の中で、どこか停泊できる空

きスペースがないか探していた。

「あの端に停めようか」

隆は、漁港の一番隅の方に空いている場所を

見つけて、陽子に伝えた。

「いつでも、アンカーを下ろす準備はできて

いるよ」

陽子は、アンカーロープとアンカーを、瑠璃

子と一緒に持ちながら、隆に返事した。

「OK、着岸するぞ」

ヨット教室物語・第515話

港内は、東京や湘南、静岡など至るところの

マリーナからやって来たボートやヨットでい

っぱいになっていた。

もともと漁港に停泊している漁船の数よりも

今はヨットやボートの数の方が遥かに多く停

泊していた。

「泊められる場所ある?」

麻美子は、ラットを握っている隆に聞いた。

隆は、港内の中を停泊できる場所を探して、

ぐるぐる旋回中だった。

ヨット教室物語・第514話

時刻は午後3時、ラッコは新島の新島港に到

着した。

「着岸するぞ」

昨夜の午前12時、午前1時近くに横浜マリ

ーナを出航しているので、だいたい14時間

ぐらい掛かって、新島港に到着した。

「すごい大混雑ね」

麻美子は、港内を眺めながら、呟いた。

「本当にレジャーボートだらけだな」

隆も、麻美子に同意した。

ヨット教室物語・第513話

「それで、下田に着いたら、観光船で利島に

上陸してみようか」

香代が嬉しそうに頷いた。

「その次は、伊豆でも東伊豆でもなく、西伊

豆の方に行ってみるのも良いよ」

「うわ、大変。この先、何年もあっちこっち

行かなければならない所がいっぱいね」

麻美子は、皆に言った。

「とりあえず、今は新島を目指そう」

隆が、現実の航海に皆を戻した。

ヨット教室物語・第512話

「途中に、熱海とか熱海の沖には初島って島

もあるし、稲取とかいろいろな漁港に立ち寄

りながら行ける」

隆が言った。

「そっちのクルージングも楽しそうだね」

「ああ、来年とかのクルージングは、静岡の

東伊豆とか巡ってみようか」

「それ良いかも!行ってみたい!」

陽子が隆に賛成した。

「まずは、新島に行きましょう」