「マストの高さを比べてみな。うちよりも、
アクエリアスの方が背が高いだろう」
隆は、前方を行くアクエリアスを指差しなが
ら麻美子に答えた。
「でも、うちの方がマストが2つあるよね」
「マストが2つあるのは、速く走らせるため
に2つあるわけじゃないんだよ」
隆は、麻美子以外にも説明していた。
「アクエリアスのように、マストが1つのヨ
ットをスループっていうんだ」
「マストの高さを比べてみな。うちよりも、
アクエリアスの方が背が高いだろう」
隆は、前方を行くアクエリアスを指差しなが
ら麻美子に答えた。
「でも、うちの方がマストが2つあるよね」
「マストが2つあるのは、速く走らせるため
に2つあるわけじゃないんだよ」
隆は、麻美子以外にも説明していた。
「アクエリアスのように、マストが1つのヨ
ットをスループっていうんだ」
「まあ、レースをする船じゃなくて、こんな
感じでクルージングするヨットだからね」
隆は、自分のヨットのことを説明した。
「アクエリアスだって、クルージングをする
船じゃないの?」
麻美子が、隆に質問した。
「アクエリアスの方がセイルも大きいし、船
内のインテリアも軽く造られている」
「そうなんだ。セイルが大きいんだ」
麻美子が、アクエリアスを眺めてみた。
「やっぱり、うちのヨットは、フィンランド
製の重たい木材をたくさん使って、船内のイ
ンテリアを造作しているから、どうしても重
たくて速くは進まないよ」
隆が言った。
「この間のレースの時も、ビリになってしま
たものね」
雪が、隆に言った。
「この間のは、アクエリアスを助けに戻った
りしていたのもあるけど」
帰りは、出港時にだけかけていたエンジンを
停止して、風の力だけで順風満帆にセイリン
グで横浜を目指していた。
「やっぱり、風が吹くと、うちよりアクエリ
アスの方が速いんだな」
隆は、風を受けて、ラッコよりも遥か先を走
っていくアクエリアスの姿を見て、呟いた。
「うちのヨットって遅いの?」
瑠璃子が隆に質問した。
「そうね。まあ、遅いわな」
今日の海上は、夏の季節にしては珍しく、風
がそれなりに吹いていた。
ラッコは、メインとミズンセイルにジブセイ
ルも上げると、ラッコの船体は風を受けて、
それなりのスピードで走っていた。
一緒に並走していたアクエリアスも、メイン
とジブセイルを上げてセイリングしていた。
横浜から大島まで来るときは、風がほとんど
吹いてなくて、セイルだけでは風が弱く走ら
ず、エンジンだけでは走らなかった。
ラッコも、アクエリアスも、岸壁に舫ってい
た舫いロープを外し、アンカーを海底から上
げて、波浮港の港を出港した。
まだ朝が早いため、皆は朝食を食べずに出航
していた。出航して、海上に出てから食べる
予定だった。
「香代、ヘルムをお願い」
「了解!」
波浮港を出港するまでは、隆がずっとヘルム
だったが、出港してから香代と代わった。
「さあ、出航しようか」
まだ、早朝の5時だったが、今日の夕方まで
には横浜へ戻りたいので、ラッコの皆は早起
きして出港の準備をし終わっていた。
昨日、岡田港に移動しているはずだった隣に
停泊しているアクエリアスのメンバーも皆、
ラッコと一緒に出航する準備を終えて、準備
万端だった。
「それでは、行きましょうか」
隆は、アクエリアスに声をかけた。
「ここの食事美味しいから、ここで食べて行
くのもいいよ」
隆は、麻美子に答えた。
その日の夕食は、かんぽの宿にあるレストラ
ンで、食事して行くことになった。
「美味しかったね」
麻美子が言った。
「明日の出航は朝早いから、今夜は戻って早
めに寝ようか」
皆は、ヨットに戻った。
「今から、ラッコに戻って、お料理を作るの
も面倒じゃない」
麻美子は、隆に言った。
「だから、今夜の夕食は、ここで食べて行こ
うってことになったの」
レストラン奥のテーブルには、「ラッコ様」
と書かれたプレートが立っていた。
「ラッコに戻って、夕食にしたかった?」
麻美子は、隆に聞いた。
「いや、別に」
1階下のお風呂場から階段を上がって、エン
トランスフロアへ向かおうとしていたら、
「隆!」
奥から麻美子に呼ばれた。
お風呂場と同じフロアには、階段の手前に卓
球台が置いてあって、その奥に食事ができる
レストランがあった。
麻美子だけではなく、他の女性クルーたちも
皆、そこに集まっていた。
「卓球か」
「それじゃ、お先に」
先にお風呂に入っていたアクエリアスのクル
ーたちが帰ってしまった。
隆は、1人でのんびりと大きく身体を伸ばし
てお風呂に浸かっていた。
「そろそろ出るかな」
女湯の連中も、お風呂から出ている頃だと思
ったので、隆もお風呂から出ると、服を着て
男湯を出た。
「気持ちよかったな」
「いや、また海の真ん中で故障してもなと思
ってね。念のためだけど」
中村さんは、隆に言った。
「あれは故障じゃないし、ただのエアを噛ん
だだけだから」
隆は、行きにアクエリアスのエンジンが掛か
らなかった原因を説明した。
「それにしても、うちのクルーたちじゃ、そ
の対処法がわからなかったから」
「帰りも、ラッコと一緒なら安心だから」
「波浮港の沖で良い風だったので、のんびり
セーリングだけして、また波浮に戻った」
「そうなんですか」
「また、エンジンが故障して止まるといけな
いと思ってさ。帰りも、隆くんたちと一緒に
ランデブーで横浜まで帰ろうと思ってね」
中村さんは、隆に説明した。
「そんなにいつもいつもエンジンだって止ま
らないでしょう」
隆が言った。
昨日は、隆とアクエリアスの面々がいて、女
性が陽子が1人だけだった。
今日はラッコの女性クルーたちだけなので、
隆だけが男湯で1人だった。
「あ、中村さん」
隆が脱衣所で服を脱いで、お風呂に入ると、
そこには中村さんたちアクエリアスのクルー
たちがいた。
「どうしたんですか?岡田港に行ったんじゃ
なかったですか」
「右!そこからだと、もうお風呂屋の建物も
見えているはずだけど」
隆が、山道を登りながら、麻美子たちの方に
向かって叫んだ。
「かんぽの宿」
「そう、それ!」
隆と陽子は、昨日も来ているホテルのエント
ランスで日帰り入浴をお願いした。
「それじゃあね」
麻美子は、隆と別れて女湯に入った。
雪と瑠璃子は、山道の下から上で待っている
麻美子と香代を眺めながら話していた。
「本当の親子みたいだよな」
隆も、陽子と山道を登りながら、同じことを
話していた。
「どっちー」
「どっち?」
麻美子お母さんと娘の香代が山の上からお風
呂屋さんの方角を聞いていた。
「右!」
「一本道じゃないの」
2人が山道を歩いて行くと、舗装された道路
に出た。舗装された道路に出たところで、麻
美子と香代は、皆が来るのを待っていた。
「あなたはトトロ、トトロなの!?」
背の低い香代は、お父さんのバスの帰りを待
つサツキとメイの真似をして、背の高い麻美
子に声をかけて楽しんでいた。
「こっちから見ると、本当にトトロとサツキ
がいるみたい」
麻美子は、隆に言うと、お風呂屋さんへ行く
山道を先に歩き始めた。
「歩こう、歩こう、私は元気ー」
麻美子と香代は、手を繋いでトトロの歌を歌
いながら、先を歩いて行く。
「行こう」
他の皆も、2人の後を追っかけて、山道を歩
いて登り始めた。
「道、わかるのか?」
先を歩いていく麻美子に、隆は声をかけた。
「どうせ、レンタカー屋さんだって、元町の
お店まで戻るんだろうから、途中のお風呂屋
さんまで乗せててもらっても良かったよな」
隆は、レンタカー屋さんが運転して帰って行
く車の後ろ姿を眺めながら呟いた。
「そんなことしなくても、ちゃんと足がある
んだから、すぐ近くなんでしょう」
麻美子が、隆に言った。
「自分の足でお風呂屋さんまで歩いていけば
良いでしょう」
隆が、レンタカーのドアを開けて乗ろうとし
たところで、レンタカー屋さんが車の回収に
やって来た。
「本日は、お車のご利用ありがとうございま
した。お車の方を回収させて頂いても宜しい
ですか?」
「はい、宜しいです」
麻美子は、隆の手に持っていた鍵を奪い取る
と、レンタカー屋さんに手渡した。
「こちらこそ、車のおかげで助かりました」
「さあ、お風呂に出かけようか」
隆達は、入浴セットを持って出てきた。
これから、昨日、隆と陽子が行った郵便局の
かんぽの宿へお風呂に入りに行くのだった。
昨日は、隆と陽子の2人だけだったが、今日
はラッコのメンバー全員で出かける。
「どうせなら、車でお風呂まで行こうか」
入浴セットの準備をして、ラッコの船体か
ら岸壁に降り立つと、目の前に停まってい
たレンタカーに気づいた。
「どうしたんだろう?何かエンジントラブル
でもあったのかしら」
麻美子が言った。
「中村さーん!」
隆は、アクエリアスの船内に向かって、中村
さんのことを呼んでみたが、留守のようで誰
も出てこなかった。
「どこかに出かけているみたいだね」
仕方ないので、ラッコの皆は、自分たちのラ
ッコの船内に入った。
「あれ、アクエリアスが、まだうちの船の隣
に泊まっているじゃん」
波浮港に戻ってきた隆は、ラッコの横に泊ま
っているアクエリアスの船体に驚いていた。
「朝、アクエリアスをお見送りしてから、車
で出かけたよな」
「うん、皆で手を振ってお見送りしたよ」
陽子は、隆に聞かれて答えた。
「そうだよな。なんで、またここに戻って来
たのだろう?」
「わちゃわちゃって」
「うん。わちゃわちゃとしか言いようがない
な、あそこの島は」
隆が皆に返事した。
「わちゃわちゃって、どんな所なのだろう?
お盆に行くのが楽しみになったな」
麻美子は、隆に返事した。
「そろそろ、波浮に戻ろうか」
皆は、車に乗って、元町の街を後にして、波
浮港へと戻っていった。
「お盆休みに行くけど、新島とか式根島とも
大島の雰囲気はぜんぜん違う」
「大島と違うって、新島とか式根島っていう
のは、どんな島なの?」
瑠璃子が聞いた。
「そうだな、わちゃわちゃしていて大島とは
全く違う島だよ」
隆は、瑠璃子に答えた。
「わちゃわちゃしているの?」
「うん。わちゃわちゃだな」
「でも、スーパーはあっただろう」
隆が言った。
「スーパーというか、いろんな食料品が揃っ
ているお店だったけどね」
陽子が、隆の言った言葉を訂正していた。
「まあ、すぐそこにジェット船も走っている
し、何か欲しければ、あれに乗って熱海まで
出れば何でも揃うしな」
「そうだよね、自然がいっぱいあるところに
住めて、熱海までも行ければ便利だよね」
「街中を歩いてみようよ」
瑠璃子が提案して、皆は元町の街中を歩きに
出かけた。といっても、ほんの少し周っただ
けで、元町の街は周り終わってしまった。
「小さな町」
「大島の中心っていうから、もっとお店と
か色々あるのかと思った」
瑠璃子が言った。
「波浮の港と同じぐらいしかお店の数も無か
ったよね」
飛行機やら電車でやら、やたらと大島から帰
れるルートを説明する隆に、雪は言った。
「いや、別にそんなことはないよ」
皆は、元町港の駐車場に車を入れると、港内
の待ち合わせ室の中を見て、周っていた。
「東京の竹芝からも船が来ているんだね」
香代は、麻美子と話していた。
「高校の修学旅行で、竹芝からの東海汽船で
大島まで来たことあるよ」
瑠璃子が、麻美子に言った。
隆は、車でそのまま海沿いに下りていき、元
町港へ出た。
「観光船が泊まっている」
元町港には、ジェット船が停泊していた。
「熱海から大島まで走っている観光船だよ、
あれに乗って熱海へ行けば、そこから新幹線
でも帰れるよ」
隆が説明した。
「そんなに、私のことをヨットから下ろして
公共交通機関で帰らせたいの」
「なんなら空港まで送るから、帰りは飛行機
で帰るか?」
隆が、雪に言った。
「え、ううん。明日、ヨットで帰るよ」
一瞬、頷きそうになりながらも、慌てて否定
した雪だった。
「じゃ、元町港に行こうか」
車は、元町に向かって走り出した。
「何か、急に東京へ帰らなければならなくな
った時は、飛行機でも帰れるのね」