機帆走で走る時には、ジブセイルの存在が邪
魔になってしまうのだった。
「ウォッチは、どういうグループで別れる予
定なんだ」
隆は、陽子に聞いた。
「どういう風に別れたらいいかな?」
逆に、陽子から隆に質問が返ってきた。
「どういう風に別れてもいいよ。俺は、ずっ
と一晩中起きているから、その他の皆で、そ
れぞれ2グループに別れなよ」
機帆走で走る時には、ジブセイルの存在が邪
魔になってしまうのだった。
「ウォッチは、どういうグループで別れる予
定なんだ」
隆は、陽子に聞いた。
「どういう風に別れたらいいかな?」
逆に、陽子から隆に質問が返ってきた。
「どういう風に別れてもいいよ。俺は、ずっ
と一晩中起きているから、その他の皆で、そ
れぞれ2グループに別れなよ」
「東京湾は航路が狭いし、夜は真っ暗で危険
だから、俺はずっと起きていると」
隆は、陽子に返事した。
「だってさ、他の皆さん、どう別れます?」
「そうね。それじゃ、私は、香代ちゃんと2
人でもいいわよ」
麻美子が、陽子に答えた。
「それじゃ、残りの私と瑠璃ちゃん、雪さん
の3人でグループってことで」
陽子は、他の2人に言った。
「後にウォッチするグループは、先にキャビ
ンに入って寝てきなよ」
隆が、皆に提案した。
「どっちが先に寝ますか?私は、まだあんま
り眠くないけど」
陽子は、麻美子に質問した。
「それじゃ、皆はまだまだ若いし、私は、も
うおばさんで眠いから、先に休ませてもらお
うかな」
麻美子は、陽子に返事した。
「香代ちゃん、お先に眠らせてもらおう」
そういうと、麻美子は、香代の手を握って、
一緒にキャビンの中へと入った。
「ここで寝るの?」
香代は、キャビンの中に入ると、パイロット
ハウスのメインサロンがベッドに変わってい
るところに乗っかって、そこに置かれている
毛布と枕を手にとった。
「私は、後ろの部屋のベッドで寝ようかな」
麻美子は、香代に言った。
麻美子は、船体後部のアフとキャビンの扉を
開きながら、香代に言った。
「香代ちゃんも一緒に後ろの部屋で寝る?」
香代が麻美子と一緒に寝るつもりでいたみた
いだったので、麻美子は香代に聞いた。
「私も、後ろで寝ようかな」
香代は、麻美子に大きく頷くと、麻美子と一
緒に、後部のアフトキャビンのベッドに移動
して、横になった。
「おやすみ」
「私さ、隆に、初めてこのヨットへ連れて来
られた時から、ここのベッドで寝てみたかっ
たんだ」
麻美子は、香代の横に寝転がりながら、香代
話しかけた。
「そうなの?」
「うん。なんか気持ち良さそうだったし」
「なんかわかる」
香代は、麻美子に頷いた。
「一番ここがベッドっぽいものね」
2人は、アフトキャビンのベッドに仲良く並
んで眠りについた。
「陽子、ヘルムを変わってくれるかな」
ずっと横浜マリーナから観音崎の先までラッ
トを握り続けてきた隆が、陽子に頼んだ。
「いいよ。ずっと握っていたものね。疲れて
きちゃうよね」
陽子は、隆と変わってラットを握ると、ヨッ
トの操船を引き継いでいた。
「とりあえず観音崎灯台を目指すね」
「ここまでは、東京湾内で航路が比較的狭か
ったけど、ここから先は海域が広くなって走
りやすくなるから」
隆は、観音崎から先の航路を説明した。
航海計器に表示されている海図を眺めながら
隆は陽子にコースを説明した。
「陽子ちゃん、すごいね。隆さんから変わっ
ても、ちゃんと船がまっすぐに走っている」
雪が、陽子に言った。
「確かにまっすぐ走っている!」
瑠璃子が、後ろを振り返って、船の進んでき
た後方の波、航跡を確認して言った。
「そうだよね。私じゃ、上手く走らない」
瑠璃子が、陽子の操るラットを指差しながら
陽子に言った。
「いや、瑠璃子だって、陽子と同じ時期にヨ
ットを始めているのだし、陽子のように、も
っとちゃんと操船できるようにならなきゃダ
メだろうが」
隆は、瑠璃子に言った。
「はい、次は雪と交代」
30分ぐらい陽子がラットを握った後で、隆
は雪に命じた。
雪が陽子からラットを引き継いで、必死にラ
ットを握っていた。
陽子から雪にヘルムが代わって、ラッコの船
体は、右に左に少し蛇行しながら走り始める
ようになっていた。
「しっかりまっすぐ持とうな」
隆が、雪のラットをサポートしていた。
「もっと、しっかり真っ直ぐに握らないと」
隆は、雪がラットを握っている間、ずっとラ
ットの下端部分を自分の足で支えて、雪の操
船をサポートしていた。
「ね、瑠璃ちゃん。疲れたから交代してもら
えないかな」
陽子からラットを引き継いで、まだ5分ぐら
いしか経っていないのだが、もうラットを握
っているのが疲れたとかで、雪は早々に瑠璃
子とラットを交代したがっていた。
「もう少し、せめて30分ぐらいは頑張って
ラットを握ろうよ」
隆が、雪に言った。
「だって、私これ苦手なんだもの」
「苦手だから頑張って握るんだろう」
隆に言われて、雪はきっかり30分だけ握る
と、早々に瑠璃子とラットを交代していた。
「後半は、結構まっすぐに走っていたよ」
「そんなことないよ」
雪は、隆に言われて照れていた。
「おはよう!」
夜中の3時過ぎ、というかほぼ明け方の4時
ぐらいの時間になって、夜のウォッチをして
いたグループが眠くなって静かになってきた
頃、キャビンの中で眠って元気を回復した麻
美子が大きな声で起きてきた。
「元気だな」
隆は、眠そうな声で、麻美子に返事した。
今は、ラットは瑠璃子からまた陽子に代わっ
て、陽子がラットを握って操船していた。
「いま何時だと思っているの?」
「え、4時かな」
麻美子は、隆に聞かれて答えた。
「ウォッチは、前半と後半で半分ずつ交代っ
て言ったのに、一体何時まで寝てたんだよ」
「そうか、ごめんね」
麻美子は、隆に言われて、皆に謝っていた。
「とりあえず、ラットをずっと握ってる陽子
から代わってあげなよ」
「そうね。香代ちゃん、代わってあげて」
香代は、麻美子にそう言われて、コクピット
の操船席に移動して、陽子と代わって、ラッ
トを握った。
「それじゃ、おやすみなさい」
麻美子、香代の2人と交代で、陽子、雪、瑠
璃子が寝るためにキャビンの中へ入った。
雪が、パイロットハウス一段下のギャレー前
のサロンで眠ったので、瑠璃子はパイロット
ハウスのサロンで横になった。
「じゃ、私は後ろで寝ようかな」
アフトキャビンの扉が開いていて、中のベッ
ドに、香代と麻美子が使っていたタオルケッ
トがそのままになっているのが見えたので、
陽子はアフトキャビンで横になった。
「明るくなってきたな」
4時半ぐらいになって、朝陽が登って、海は
明るくなってきた。
「目の前の大きな島が大島だ」
ラッコは、東京湾の入り口、三浦半島の突端
三崎を通り越していた。
三浦海岸を通り越して、目の前に見えている
大島に向かって走っていた。
大島の波浮港は、島の反対側にある漁港なの
で、ぐるっと大島を回り込む必要があった。
「俺も、少し寝てきていいか」
隆が、2人に言った。
「コースは大丈夫だよな?」
「うん」
ラットを握っている香代が、GPSの画面を
眺めながら頷いた。
隆は、後は麻美子と香代に、GPS航海計器
を任せて、キャビンの中へ入った。
「麻美子、たまにはラット代わってやれよ」
キャビンに入る前に、隆は、ずっとラットを
香代に任せっぱなしで、後部デッキで座って
いる麻美子に言った。
「うん、わかっている。おやすみ」
麻美子が、隆に答えた。
「おやすみ」
隆は、キャビンの中へ入った。
「なんだ、皆それぞれ3ヶ所に別れて寝てい
るのか」
隆は、開けっ放しのアフトキャビンの扉から
中に入ると、そこに寝ていた陽子を見た。
「俺も、ここの横で寝てもいいか」
「うん」
陽子は、ベッドの奥側に自分の身体を移動し
て、隆が寝れるように手前側のスペースを空
けてくれた。
「おやすみ」
「隆さん、起きないの?」
昨夜は、遅くまでラッコを操船していたので
朝寝坊をしてしまうのではないかと思ってい
た隆だったが、朝の6時頃に目が覚めてしま
った陽子が、横に寝ている隆に声をかけた。
「いま何時?」
「ちょうど朝の6時ぐらい」
「いけない、随分と寝過ごしてしまったな」
隆は、慌ててベッドから起き上がった。
「瑠璃ちゃんたちも今、起きた所みたい」
「寝坊してしまったよ」
隆は、陽子と一緒にアフトキャビンを出ると
デッキ上に出た。デッキには、雪と瑠璃子も
起きていた。
ラットは、香代が握っていた。
「おはよう、ウォッチの間ずっと香代ちゃん
にヘルムを取ってもらってしまった」
麻美子が、起きたばかりの隆に報告した。
「麻美子は、ヘルムを取らなかったの?結局
サボってしまったんだ」
隆は、麻美子に言った。
「私がやりたいって言ったの」
香代が、隆に答えた。
「そうなの」
麻美子も頷いた。
「私がまだ眠そうにしていたから、香代ちゃ
んがまだ大丈夫って、ずっと握っていてくれ
たのよ」
「そうなんだ」
隆が答えた。
「香代、疲れたんじゃないの?雪が代わって
あげたらいいじゃん」
隆が、雪に言った。
「私?」
雪は、隆にラットを握れと言われて、あまり
気が進まなさそうだった。
「大丈夫、私まだ握っていられる」
香代が元気いっぱいに答えた。
「さすが若いな」
隆が、香代に言った。
「私が変わるよ」
瑠璃子が、香代からラットを引き継いだ。
「じゃ、香代ちゃんは、私と一緒にキャビン
で朝ごはんを作ろうか」
麻美子は、香代のことを誘った。
香代は、麻美子とキャビンの中に入って、朝
ごはんの準備を始めた。
航海中の揺れる船内の中での料理なので、ジ
ャムトーストと目玉焼きだけの簡単な朝ごは
んとなった。
朝食が終わった後、風も穏やかだったので、
隆と陽子は、フォアデッキに行って、パイロ
ットハウスの窓枠を枕にしてもたれ掛かって
昼寝というか朝寝を楽しんでいた。
昨夜あんまり寝ていなかったし、隆は、いつ
の間にか本気で眠ってしまっていた。
「隆、隆、起きてよ」
朝寝を気持ちよく寛いでいた隆は、麻美子に
身体を揺り起こされていた。
「アクエリアスから電話なの」
「電話?」
パイロットハウスの中では、瑠璃子が無線機
で応答していた。
「電話じゃなく無線だろう」
隆は、瑠璃子が無線で傍受している内容を聞
きながら、麻美子を訂正した。
「そんなこと、どっちでも良いから。アクエ
リアスのエンジンが止まってしまったって」
麻美子は、心配そうに隆に報告した。
「エンジンが止まるって何」
隆は、パイロットハウスの中に入ると、無線
で話していた瑠璃子に状況を確認した。
瑠璃子の話だと、アクエリアスのエンジンが
急に停止してしまって、その後、いくらキー
を回しても、まったくエンジンが掛からなく
なってしまったようだ。
「アクエリアスって今どこにいるの?」
「わからない」
隆も、瑠璃子もパイロットハウスの屋根から
顔を出して、海上の周りを見渡してみた。
アクエリアスの船体の姿は、どこにも見当た
らなかった。
「向こうの位置を緯度経度で確認してみな」
瑠璃子は、隆に言われて、無線でアクエリア
スの現在位置の緯度経度を確認した。
瑠璃子は確認した緯度経度を入力し終わると
航海計器のモニターにアウトプットする。
「ずいぶん後方じゃん」
隆は、モニターに映ったアクエリアスの現在
地を確認して叫んだ。
いまラッコがいる現在地は、ほぼ大島の中央
辺り、それに対してアクエリアスのいる現在
地は大島の北端、ラッコからかなりの後方に
位置していた。
もし、アクエリアスのいる場所に迎えに行く
とすると、せっかく進んだ進路をまた逆戻り
で戻らなければならなかった。
「なんとか、無線で向こうのエンジンの調子
を聞き出して、無線で指示してエンジンを掛
けられないかな」
また逆戻りして迎えに行くのが面倒な隆は、
瑠璃子に言った。
「そんなこと言わないで、迎えに行ってあげ
れば良いんじゃないの」
麻美子は、隆に言った。
「また一回戻って、また同じ道を辿って、大
島の波浮港を目指すのって大変だぞ」
「そんなこと言ったって、それでなんかあっ
たら大変じゃないの!」
麻美子は、隆のことを怒った。