ヨット教室物語・第211話

麻美子は、陽子からの電話を切った。

「ほら、陽子ちゃんも頑張ってねだって。あ

ともう少しなんだから頑張ろう」

麻美子は、隆のことをなだめながら、自分も

作業の手を進めていた。

「麻美ちゃんたち、残業で少し遅くなるらし

いわよ」

陽子は、瑠璃子に伝えた。

「忙しいんだ」

「そうみたいだね」

ヨット教室物語・第212話

瑠璃子は、電話を切った陽子から隆と麻美子

の残業の話を聞いて、返事した。

ヨットは、昼間にマリーナの職員が海上に下

ろしておいてくれたみたいで、瑠璃子や陽子

が仕事を終えてマリーナにきたときには、既

にポンツーンへ舫いロープで結ばれていた。

「雪さんも、少しだけ残業で、こっちへの到

着が遅くなるんだって」

香代が、ラッコのキャビンに入ってきて、皆

に報告した。

ヨット教室物語・第213話

「金曜日だものね」

「皆、休み前で仕事忙しいよね」

3人は、キャビンの中で話していた。

「おはよう」

今回、一緒にクルージングすることになって

いるアクエリアスのオーナーである中村さん

も、ラッコのキャビンに入ってきた。

「おはようございます」

「おはよう」

中村さんも仕事を終えての到着だった。

ヨット教室物語・第214話

中村さんも、東京での仕事を終えて、たった

今、横浜マリーナに来たばかりのようだ。

中村さん以外には、まだアクエリアスのクル

ーたちは来ていないようだった。

「船を、ここに持って来たいんだけど、一緒

にちょっと手伝ってもらえないか」

中村さんに言われて、ラッコのクルーたちの

うち香代と陽子が中村さんと一緒にアクエリ

アスを取りに行くこととなった。

「あのボートで行くんですね」

ヨット教室物語・第215話

ラッコの船体は、普段は船台に載せられて、

横浜マリーナ敷地内の陸上にて保管されて

いる。しかし、アクエリアスの船体は、マ

リーナの沖合にある入り江にロープで結ば

れて、海上に浮かんだ状態のままで保管さ

れていた。

海上に浮かんだ状態で保管されているヨット

やボートは、出航する時には、マリーナの準

備してくれている小さなボートに乗って、自

分のヨット、ボートを取りに行く。

ヨット教室物語・第216話

小さなエンジンの付いたボートで、海上のヨ

ット、ボートまで取りに行くと、ヨットを出

航準備のため、マリーナのポンツーンまで運

んで来るのだった。

昼間だと、マリーナの職員が出勤しているの

で、海上に浮かんでいる自分のヨットまで、

マリーナの職員が小さなボートを操船して連

れていってくれる。

夜間は、マリーナ職員は、もう帰宅してしま

っているため誰もいなかった。

ヨット教室物語・第217話

そのため、ポンツーンに結ばれている小さな

ボートを自分で操船して、自分のヨットまで

取りにいかなければならなかった。

香代と陽子は、中村さんの操船する小さなボ

ートに乗って、海上に浮かぶアクエリアスま

で行くと、アクエリアスに乗り移った。

小さなボートは、アクエリアスの船体後部に

ロープでしっかり結ばれた。

「このまま、引っ張っていく」

中村さんは、自艇のエンジンをかけた。

ヨット教室物語・第218話

海上まで乗ってきた小さなボートは、アクエ

リアスの後ろにぶら下げたまま、アクエリア

スをマリーナのポンツーンまで移動させた。

ポンツーンに到着すると、ポンツーンには遅

れて到着したアクエリアスのクルーたちが来

ていた。船の上の香代と陽子が、彼らに向け

て舫いロープを投げると受け取ってくれた。

舫いロープを受け取った彼らは、アクエリア

スの船体をポンツーンに結んでくれた。

「船が固定されました」

ヨット教室物語・第219話

「あれ、隆さんはいないんですか?」

「残業で、こっちに来るの遅くなるって」

陽子は、遅れてきたアクエリアスのクルーた

ちにも、隆たちの残業のことを説明した。

「先に軽く夕食を食べて待っていよう」

瑠璃子が、ラッコのクルーたちに言って、ラ

ッコのキャビンで簡単な夕食となった。

「隆さんの分も取っておこう」

「そうね、お腹空かして来そうだし」

瑠璃子が言った。

ヨット教室物語・第220話

「おはよう!」

隆が、陽子に声をかけた。

「っていうか、こんばんはでしょう」

麻美子が、隆に言った。

隆と麻美子が、会社での残業を終えて、よう

やく横浜マリーナにやって来た。

ちょうど、近くのコンビニまで夜食を買いに

行って来た陽子と瑠璃子とすれ違った。

「仕事が、どうしても今週中に終えなければ

ならなくて、今まで残業してきたんだ」

ヨット教室物語・第221話

「渋々、残業していたのよね」

陽子は、隆に返事した。

「えっ」

「もう続きは来週でいいよって言ってるのを

来週じゃ間に合わなくなるでしょうって、麻

美ちゃんに言われて渋々、会社に残ってお仕

事して来たんだよね」

「なんで、知っているの?」

「もうバレバレなんだけど」

陽子は、苦笑していた。

ヨット教室物語・第222話

夜遅くまでお仕事頑張ってきて疲れたみたい

にカッコつけていた隆だったが、残業中にブ

ーブー文句を言いながら仕事していたことは

もうしっかり麻美子から皆に伝わってしまっ

ていたようだった。

「もう全部伝わっているんだ」

「そうよ」

麻美子は、隆の頭を小突いた。

「アクエリアスの人たちには、ちゃんと黙っ

ておいてあげるわね」

ヨット教室物語・第223話

「こんばんは!」

4人は、ポンツーンの手前のところに泊まっ

ていたアクエリアスの人たちに挨拶をしてか

ら、その奥に泊まっているラッコの船体に乗

り移って乗船した。

「ああー、疲れた」

隆は、残業で疲れた肩を解しながら呟いた。

「隆、荷物積むの手伝って」

隆は、麻美子から持っていた重たい荷物を受

け取ると、ラッコのキャビンの中に入れた。

ヨット教室物語・第224話

キャビンの中では、雪と香代が航海計器をい

じっていた。

「どうしたの?」

「ううん、別にどうもしないけど。大島まで

向かうのに、ナビゲーションに針路を登録し

ておこうかなと思ったの」

瑠璃子が、隆に言った。

「それで、航海計器のスイッチをあっちこっ

ち触っていたんだけど」

香代が、隆に答えた。

ヨット教室物語・第225話

「で、大島までの針路は、しっかりインプッ

トできたの?」

「ぜんぜん!わからない」

香代が、隆に返事した。

「俺も、この航海計器は触るの初めてだから

後でマニュアル見ながら設定しよう」

「私、わかったよ」

瑠璃子が、隆に言った。

「マジかよ、登録できたの?」

「うん」

ヨット教室物語・第226話

「このナビ、触ったことあるの?」

「全然ないけど」

瑠璃子は、隆に答えた。

「さっき、相鉄ローゼンへ出かける前に、ち

ょっとだけ触った」

瑠璃子は、香代と場所を代わって、航海計器

のスイッチ類を触っていた。

「登録は伊豆大島までで良いのよね?

「ああ、大島の波浮港までの針路が設定でき

るなら、設定しておいて」

ヨット教室物語・第227話

隆は、瑠璃子に伝えると、瑠璃子は、しばら

く航海計器のスイッチ類をいじっていた。

すると、パイロットハウス前面にあるモニタ

ーに東京湾の地図が映し出された。

地図には、横浜港から伊豆大島までの航路が

線で引かれていた。

「今日、初めて、この航海計器を触ったんだ

ろう?よく操作方法がわかったな」

「会社で、エクセルとかワードのソフト関係

をずっと触っているもの」

ヨット教室物語・第228話

瑠璃子は、隆に答えた。

「私も、ワードぐらいなら会社で使っている

けど、航海計器の使い方なんて、ぜんぜんわ

からないけどな」

雪が、隆に言った。

「俺も、ぜんぜんわからなかったよ」

「私、エクセルはコードとか使って事務シス

テムを開発しているから」

どうやら、瑠璃子は、機械関係の操作が得意

のようだった。

ヨット教室物語・第229話

「出航する準備は整っているの?」

「セイルとかは、私と香代ちゃんでセッティ

ングしてあるわよ」

陽子が、隆に返事した。

「皆の荷物は、フォアキャビンにあるクロー

ゼットの中にまとめて入れたけど」

「ベッドを作っておこうか」

隆が言った。

「ああ、ウォッチ明けの人たちが、キャビン

に入ったらすぐ寝れるように」

ヨット教室物語・第230話

隆は、パイロットハウス脇のメインサロンと

一段下のキッチン、ギャレー前にあるダイニ

ングサロンのコの字型ソファの真ん中に付い

ているテーブルを下に下げると、テーブルの

上にクッションをおいた。

「あ、ベッドができた!」

すると、メインサロンとダイニングサロンの

ソファがクッションで敷き詰められて、広々

としたベッドスペースに変わった。

「ここで、2人ずつ寝れるだろう」

ヨット教室物語・第231話

「後ろの部屋から枕とタオルケットを持って

こようか」

麻美子は、最後部の部屋からタオルケットと

枕を数個持ってきて、ベッドに変わったサロ

ンの上に置いた。

「誰が、上と下のどっちに寝る?」

「別に、誰がどこに寝るかは今決めなくても

ウォッチっていって順番にグループ毎に別れ

て寝るから、ウォッチで起きてない方のグル

ープがそれぞれ寝れば良いだろう」

ヨット教室物語・第232話

隆は、皆に伝えた。

「もうすぐ出航するの?」

麻美子は、隆に聞いた。

「今が11時過ぎだから、12時半に出航し

ようか」

隆は腕時計の時間を確認した。そして隆は、

ラッコの皆にヨットの出航時間を告げた。

「アクエリアスにも伝えた?」

「伝えて来てよ」

麻美子は、アクエリアスへ移動した。

ヨット教室物語・第233話

「隆くん、12時半出航ね」

ラッコに戻ってきた麻美子と一緒に、アクエ

リアスの中村さんもラッコに来た。

「ええ、12時半で良いですかね」

「うん、うちも12時半でいいよ」

中村さんは、隆に答えた。

「GPSの設定ってどうやるんだったかな」

アクエリアスの中村さんは、隆に聞いた。

「GPSの設定の仕方ですか?」

「久しぶりで操作方法忘れちゃって」

ヨット教室物語・第234話

「忘れちゃいますよね」

隆は、中村さんに返事した。

「どうも、機械の設定がうまくいかなくて、

大島が航路に入ってこないんだよ」

中村さんは、隆にヘルプを求めていた。

「それじゃ、瑠璃子がわかるんじゃないか」

隆に言われて、瑠璃子が中村さんと一緒に、

隣に泊まっているアクエリアスに移動した。

「大丈夫かしら、瑠璃ちゃん1人だけで」

麻美子が言った。

ヨット教室物語・第235話

瑠璃子が、中村さんと一緒に出ていってしま

った後、麻美子が心配そうに呟いた。

「大丈夫だろう」

隆は、呑気にパイロットハウスの席で、コー

ヒーを飲みながら、麻美子に答えていた。

「ただいま」

「え、もう設定できたの?」

瑠璃子が、アクエリアスに行ってわずか10

分ぐらいで、ラッコに戻って来た。

「うん。すぐに設定できちゃった」

ヨット教室物語・第236話

瑠璃子は、ケロッとした表情で、雪に返事し

ていた。パソコンの操作は得意のようだ。

「うわ、瑠璃ちゃんすごいね。もしかしたら

カーナビの操作は、隆なんかよりも上手いん

じゃないの」

麻美子が、瑠璃子に言った。

「確かに」

隆が言った。

「うちの会社を起ち上げる時に、瑠璃ちゃん

にいて欲しかったな」

ヨット教室物語・第237話

「え?」

「うちの会社を起業した時って、俺1人しか

いなかったから、ホームページも全て俺1人

でシステムとか作るしかなかったから」

隆が、瑠璃子に言った。

「隆、わからないわからないって必死に作っ

ていたものね」

麻美子が言った。

「私がいたら手伝ってあげられたのに」

「本当よね」

ヨット教室物語・第238話

「さあ、そろそろ12時半になるし、瑠璃も

戻って来たし、出航しようか」

隆は、ラッコの皆に言った。

皆は、ライフジャケットを付けると、出航の

ためにデッキへ出た。

「中村先生、そろそろ出航しましょうか!」

隆は、ラッコのデッキ上からアクエリアスの

デッキにいる中村さんに声をかけた。

中村さんは、隆の方に手を上げて合図すると

自分の船のクルーたちに出航指示を出した。

ヨット教室物語・第239話

ラッコとアクエリアスは、ポンツーンに舫わ

れていたそれぞれのもやいロープを外して、

エンジンをかけると、2艇並んで夜の海へと

出航した。

「セイルを上げるぞ」

沖合いに出たラッコは、メインセイルとミズ

ンセイルを上げると、横浜港、金沢沖を伊豆

大島へ向けて走り始めた。

メインとミズンセイルは上げたが、船体の一

番先頭のジブセイルはまだ上げていない。

ヨット教室物語・第240話

夏の海は、穏やかで風もほぼ吹いていない。

セイルに風を受けて、セイリングで風の力だ

けで走ろうと思うと、風が弱くスピードが出

ず、予定している時間内に大島までたどり着

けなくなってしまう。

そのため、風とエンジンの力のハイブリッド

機帆走で大島へ向かう予定だった。

機帆走で走るときは、一番先頭に付いている

ジブセイルを上げてセイリングすると、ジブ

セイルがバタバタと風にあおられてしまう。