「お母さんも、お父さんも、もう車の運転し
ないし、ここに置いておくのは別に良いと思
うんだけど、ここから自分の家の渋谷に帰る
とき、隆はどうするのよ」
「俺は、ここからなら中目黒駅から東横線で
帰れるし。麻美子に家まで送ってもらっても
良いし」
隆は、麻美子に提案した。
「麻美子って、うちの会社で俺の秘書をして
くれているじゃない」
「そうね」
「お母さんも、お父さんも、もう車の運転し
ないし、ここに置いておくのは別に良いと思
うんだけど、ここから自分の家の渋谷に帰る
とき、隆はどうするのよ」
「俺は、ここからなら中目黒駅から東横線で
帰れるし。麻美子に家まで送ってもらっても
良いし」
隆は、麻美子に提案した。
「麻美子って、うちの会社で俺の秘書をして
くれているじゃない」
「そうね」
「なんなら、ここから会社に行く時も、この
車で渋谷に立ち寄って、秘書だけじゃなく、
俺の運転手もしてくれないかな」
麻美子は、隆の話を聞いて、思わず吹き出し
てしまっていた。
「隆って、前にも会社で運転手が欲しいって
言っていたものね。うちから渋谷まで東横線
で帰るって話よりも、私に運転手をやってく
れっていう方が話のメインでしょう」
隆の考えていることをズバリと当ててしまっ
ていた麻美子だった。
「それじゃ、早速、明日の日曜日は、隆社長
を横浜マリーナまでお送りするために、買い
換えたばかりの自動車で、お家までお迎えに
行きましょうか」
「頼む」
隆は、腕組みをしながら麻美子に答えた。
「社長さん、明日は別に渋谷までお迎えに行
かなくたって、隆さんが空いている弟の部屋
のベッドで泊まっていけば良いじゃないの」
麻美子の母親が、2人の会話に割って入って
言った。
「確かにそうでした」
隆は、麻美子の母親に答えた。
「そういえば、車屋さんで、麻美子って俺の
奥さんとかって呼ばれてなかった?」
「うん。隆と出かけると、いつも言われるこ
とだから一々訂正しなかった」
麻美子は、隆に言った。
「夕食にしましょうか」
麻美子のお母さんが、皆を呼んだ。
「どうせなら、今夜のうちにマリーナに行っ
て、ラッコの船に泊まらないか」
隆は、麻美子の母親が作ってくれた夕食を食
べた後で、麻美子家の皆とリビングでゆっく
りしているときに、麻美子へ話しかけた。
「別に良いけど」
麻美子は、クローゼットに置いていたエステ
ィマの鍵を取ってきつつ、隆に返事した。
「夜のドライブにでも出掛けちゃおうか」
「何も、こんな真っ暗になってから横浜まで
車を出さなくても良いんじゃないの」
麻美子の母親は、夜中に横浜まで出かけよう
としている2人に声をかけた。
隆は、普段、会社がある平日は、ここではな
く渋谷の自分の家で過ごしていた。
麻美子の母にとっては、隆とは、週末の休日
しか会えないので、今夜は中目黒の家で過ご
してほしかったようだ。
「これから、夜道を走って横浜まで向かうの
も面倒だし、明日の朝でいいか」
「隆が、それで良いなら、私は別にどっちで
も良いけどね」
麻美子は、取ってきた鍵を元あった場所に戻
しながら、隆に返事した。
「次の海の日の三連休も、あなたたちは、ヨ
ットでお出かけするの?」
「そのつもりだよ」
麻美子は、自分の母親に返事した。
「まあ、次の三連休はヨットで出かけてもい
いけど、その後の週末は、仕事で弟が日本へ
帰ってくるぞ」
麻美子の父は、姉である麻美子に伝えた。
「それじゃ、再来週は泊まれませんね」
「隆さんは、麻美子の部屋に予備ベッド持
っていって、そこで寝たら良いわよ」
「だってよ」
「別に良いんじゃない」
麻美子は隆に答えつつ、父にも答えた。
「そうなんだ。少し前に、LINEで弟と話
した時に、私が隆の買ったヨットに毎週末乗
っているって話をしたんだ」
麻美子は言った。
「そしたら、ヨットなんてサンフランシスコ
じゃ、周りじゅう海に囲まれていて、あっち
こっち走っているから全然珍しくないんだっ
てさ」
「そうなんだ。サンフランシスコっていうの
は、ヨットマンには羨ましい環境だよな」
隆が、麻美子の話に答えた。
「隆くんが、うちの会社で貿易商になってく
れると言ってもらえるなら、こいつの弟なん
て、すぐに辞めさせて、サンフランシスコ店
の支店長に昇格させるけどな」
麻美子の父が、隆に言った。
「お父さん、隆が返事に困るようなこと言わ
なくていいのよ」
麻美子は、父の言葉に咳き込んでいた。
麻美子の父は、しきりに隆のことを自分の貿
易会社に誘いたがっていた。
「お母さんも、隆くんが、うちの麻美子と
一緒になってくれたら、中目黒の実家にあ
るもの全部、隆くんに譲ってしまうわ」
麻美子の母は、キッチンにある高級な食器が
飾ってある棚の中を眺めながら、隆に話しか
けていた。
「ありがとうございます」
隆は、麻美子の母親にお礼を言った。
「え、隆ってそうなの?」
「ここの棚に入っているものは、ヨーロッパ
から取り寄せたとっても良い食器なのよ」
「お母さんも、変なこと言い出さないでよ」
麻美子は、自分の両親たちに苦笑していた。
「ね、見て」
麻美子の母は、食器を1個手にとると、隆に
見せた。
「良い食器ですね」
「でしょう、隆さんにあげてもいいわよ」
「ありがとうございます」
隆は、麻美子の母親にもお礼を言った。
「だから、隆ってそうなの?」
麻美子が、再度隆に聞いた。
「え、何が」
「だって、サンフランシスコに赴任させても
らえたり、高級食器もらえたりって話すから
お礼を言っただけなんだけど」
「あ、それだけね」
麻美子は、ホッとしたように呟いた。
「お礼なんか言うから、その、隆が私と結婚
したいのかと思ったわよ」
「そういうのじゃないよ」
「だいたい、俺には、渋谷に自分の会社があ
るのに、サンフランシスコに赴任できるわけ
ないじゃん」
隆が、麻美子に返事した。
「それは、まあ、そうね」
「サンフランシスコはともかく、中目黒から
渋谷へ通うことは出来るわよ」
麻美子の母親が、棚の中の食器をチラつかせ
ながら、隆に言った。
「お母さん!」
麻美子は、自分の母に苦笑していた。
「隆は、明日横浜マリーナへ行くんだし、そ
ろそろ寝る?」
「そうだね」
「じゃ、私は、弟の部屋のベッドメイクして
くるね」
「いいよ。そのぐらい自分で出来るから」
隆は弟の部屋に1人で行った。
「あんたも、一緒に行ってみてあげなさいよ
「うん、わかっている」
麻美子は、隆の後を追っかけた。
「あの2人、何かきっかけがあればね」
「おはよう!」
横浜マリーナの駐車場で荷物を降ろしている
と、陽子がやって来た。
「車、買い換えたの」
「そうなの。これなら、ヨットの帰りとか駅
まで送っていく時も、皆が乗れるでしょう」
麻美子は、陽子に答えた。
「今日って、もしかして麻美ちゃんが運転し
て来たの」
陽子が、麻美子に聞いた。
陽子は、麻美子が普段、自動車の運転中に付
けているグラサンをしているのに気づいた。
「アイスボックス、半分持ってよ」
隆は、陽子にお願いして、2人で重たいアイ
スボックスをヨットまで運んだ。
そうこうしているうちに、他のメンバーたち
もマリーナにやって来て、ヨットを出航する
ためのセイルやロープの準備すると、マリー
ナ職員にクレーンでラッコを海上に下ろして
もらった。
「出航するぞ!」
隆は、ラッコのステアリングを握ると、ヨッ
トは、横浜マリーナ沖に出た。
「来週、海の日の三連休があるだろう」
ラッコのセイルを上げ終わると、隆は皆に話
しかけた。
「夏のお盆の時期には、伊豆七島まで出かけ
るから、その前に遠出する練習を兼ねて、千
葉辺りの漁港で一泊して来ないか」
「良いかも、楽しそう」
瑠璃子が、真っ先に隆に返事した。
「千葉の漁港って、どこら辺まで行くの?」
「そうだな。内房の保田の辺りか、それとも
思い切って館山辺りまで行ってみるか」
隆が答えた。
「保田ってどこ?」
「千葉の金谷港のある辺り」
「館山ってお城のあるところでしょう、行っ
てみたいな」
皆は、それぞれ話していた。
「ここからだと、保田の方が館山より近いか
な。今からどちらに行くか決めないで、当日
の風とか天候次第で、どちらに行くか決めた
ら良いんじゃないかな」
隆は、皆に提案した。
「そろそろ、お昼だから、まずは貯木場に入
港して、お昼ごはんにしましょう」
麻美子が言って、ラッコは貯木場のイルカの
プールに横付けした。
「左舷側で横付けしよう!」
イルカのプールに横付けし終わると、皆はキ
ャビンの中に入って、お昼ごはんの料理を作
り始めていた。
お昼ごはんを作っていると、先日のクラブレ
ースの時、一緒になった中村さんのアクエリ
アスも入港して来た。
隆と陽子がキャビンから飛び出して、アクエ
リアスの舫いロープを取ってあげて、イルカ
のプール岸壁に舫いを結んであげた。
「お疲れ様」
その日のお昼は、中村さんたちアクエリアス
のクルーたちが、ラッコのメインサロンにや
って来て、皆で賑やかなお昼となった。
「隆くんのところは、来週の三連休はどこか
に行くの?」
中村さんが、隆に質問した。
「千葉辺りまで行って来ようと思います」
「うちは大島に行こうと思ってる」
中村さんが、アクエリアスの三連休の予定を
隆に伝えた。
「大島か。大島まで行って、また戻ってくる
のも良いですね」
「大島まで行ってみたいな」
雪も、中村さんの計画に賛同して、来週はラ
ッコとアクエリアスの2艇で伊豆大島までク
ルージングしてくることに決まった。
「大島だと、千葉辺りまで行くのと違うから
金曜、前日の夜から夜通しでセイリングして
次の日の朝か昼ごろに、大島の波浮港に入港
することになるんだ」
隆は、自分の船のクルーたち皆に説明した。
「夜って、徹夜でずっとヨットを走らせてい
る感じになるの?」
「それじゃ、疲れてしまうからね。ウォッチ
といって、何人かずつのグループに別れて、
順番に交代でヨットを操船して、操船してい
ない方のグループは、キャビンの中で寝泊ま
りする感じかな」
「船の中で寝泊まりするんだ」
瑠璃子が言った。
皆は、初めてのクルージングに目をキラキラ
させて、隆の話を聞いていた。
「隆さんは、大島に行ったことあるの?」
陽子が、隆に聞いた。
「あるよ。もう何度も行っているよ」
「ヨットで?」
「もちろん」
隆が、陽子に頷いた。
「ラッコで行ったの?」
「ラッコでは行っていないよ」
「ラッコは、まだ今年の初めに進水したばか
りだからね」
「そうか」
瑠璃子が答えた。
「それじゃ、隆さんもラッコで大島に行くの
は初めてなんだ」
「そうだね」
隆は、瑠璃子に答えた。
「だから、俺も楽しみだ」
「そうだよね」
「今日は金曜日なんだけど、明日から三連休
なんだけど」
隆は、社長秘書の麻美子にブーブー文句を言
っていた。
「ね、今夜から大島に向けて、横浜マリーナ
を出港する予定なんだぞ」
「だから、私が昼間にマリーナの人に電話し
て、夜すぐに出航できるようにとヨットを下
ろしてもらってあるから」
麻美子が、隆に言った。
「もうヨットは、しっかりポンツーンに泊め
てくれたってさ」
麻美子は、残業で機嫌の悪い隆をなだめた。
「いくら船が海上に下ろしてあっても、それ
に乗る人が行かなければ、大島に出港できな
いんだけど」
「だから、早く仕事を終わらせましょう」
麻美子は、隆に優しく伝えていたのに、隆の
機嫌はなかなか直らなかった。
「続きは来週明けで良くない?」
「こんなに机の上にまで貯まっているんだけ
ど、もうこれって週明けで良くない?」
隆は、麻美子に言った。
「さっきから文句ばかりうるさいな!私も手
伝ってあげるから早く終わらせましょう!」
いつまでも文句ばかり言っている隆に、麻美
子の怒鳴り声が落ちた。
「ほら、手を動かさないと終わらないよ」
麻美子は、自分でも手を動かしながら隆に告
げた。隆も渋々目の前の作業をやり始めた。
「まったく、これじゃ、どっちが社長なんだ
かわからないわね」
麻美子は、渋々作業している隆のことを眺め
ながら、自分でも作業を進めていた。
それから、2人は真っ暗になっている社長室
の中で黙々と作業を進めていた。
リンリーン・・
「はい、もしもし、あら、陽子ちゃん。もう
マリーナに着いたんだ」
電話の相手は、陽子のようだった。
「私たち、今どうしても今週中にやらなけれ
ばならない仕事があって」
麻美子は、陽子と電話で話していた。
「残業しているのよ」
「そうなんだ、大変だね」
「もう少し、そっちに行けるの遅くなる」
「わかった、頑張ってね」
陽子は、麻美子に返事した。
「こっちは、皆でできる準備はやっておくか
ら、心配しないでお仕事頑張ってね」