ヨット教室物語・第151話

「うちのヨットは失格なんだってさ」

「でも、あのままアクエリアスのことを見捨

てずに、ちゃんと助けてあげられたのだから

良かったじゃないの」

麻美子は、隆に言った。

「アクエリアスは、隆がラッコに乗る前まで

ずっとお世話になっていたヨットでしょう」

麻美子は、クラブレースで最後までゴールで

きなかったことよりも、失格してしまっても

アクエリアスのことを手助けできたことの方

が満足そうだった。

ヨット教室物語・第152話

「さあ、マリーナに戻ろうか」

ラッコは、横浜の自分たちが停めているマリ

ーナへと戻っていった。

マリーナに戻ると、横浜マリーナのスタッフ

が上下架用の真っ白なクレーンで待っていて

くれて、クラブレースを終えてマリーナに戻

ってきたヨットたちを順番にクレーンで陸上

に引き上げてくれていた。

ラッコの順番がきて、ラッコの船体も横浜マ

リーナスタッフたちの手により操作されてク

レーンで陸上へ引き上げられた。

ヨット教室物語・第153話

ラッコの船体は、いつも載せられているラッ

コの船台上にちょっこんと載せられた。

横浜マリーナでは、ラッコのようにクレーン

で陸上に上げられて、船台に載ってマリーナ

の敷地内で保管されているヨットやボートと

アクエリアスのように、すぐ近くの海面上に

設置されているブイに船を舫って、海上で保

管されているヨットやボートがあった。

「そうなんだ。さっきのアクエリアスは、海

上で係留されているのね」

陽子は、隆から聞いて頷いていた。

ヨット教室物語・第154話

「お昼にサンドウィッチしか食べていないか

ら、少しお腹が空いてきた」

陽子が言った。

「後で、クラブレース後のパーティーがある

から、そこで何か食べよう」

隆と陽子は、ラッコのセイルを片付けながら

話していた。

「私たち、食器を洗ってくるね」

他のメンバーたちは、サンドウィッチを食べ

終わった食器類を持って、マリーナにあるキ

ッチンへ行って、そこで洗い物をしていた。

ヨット教室物語・第155話

「レースって、もっと大変なのかと思ったけ

ど、意外と楽しかったね」

「ウララじゃなくラッコに乗ってたから、楽

だったのかもしれないね」

「あと、陽子ちゃんが何でも全部やってくれ

ちゃってたから」

「陽子ちゃんは優秀よね」

麻美子も頷いた。

隆が保管している横浜マリーナでは、春から

秋にかけて、ほぼ毎月、月一の間隔でクラブ

レースを開催していた。

ヨット教室物語・第156話

横浜マリーナでは、春から秋にかけて艇を保

管している会員同士の交流を兼ねて、毎月、

月一でマリーナに保管しているヨット同士で

のクラブレースを開催していた。

毎年、春からシリーズレースとして第1戦か

ら第6戦まで開催されていて、年末に開催さ

れる横浜マリーナのクリスマスパーティーで

総合優勝艇を表彰していた。

クラブレースの開催された日には、春の第1

戦と夏のレース、秋の最終戦だけは、レース

後に、パーティーを開催していた。

ヨット教室物語・第157話

本日は、春の第1戦なので、レースが終わっ

た後に、マリーナ敷地内でバーベキューを準

備して、ヨットレース参加者たちが集まりパ

ーティーを開催することになっていた。

ヨットレースに参加した男性クルーたちは、

マリーナ敷地の中央にドラム缶を転がして持

っていき、その中に薪をくべて火を起こす。

女性クルーたちは、クラブハウスから紙皿や

紙コップ、飲み物や食べ物を準備して、薪の

上に鉄板を配置して、その上で焼きそばを焼

くのが定番となっていた。

ヨット教室物語・第158話

薪をくべたドラム缶以外に、空きドラム缶に

は氷水が入れられて、缶ジュースや缶ビール

などが冷やされていた。

パーティー参加者たちは、そこから冷たい飲

み物を取って味わっていた。

「もうパーティー始まっているな。俺たちも

飲みに行こう」

隆は、陽子と一緒にラッコのデッキ上でセイ

ルを片付けていたが、ようやくセイルも片付

け終わったし、陽子のことを誘って、ラッコ

から降りると、パーティー会場へ移動した。

ヨット教室物語・第159話

「隆さん、ビールがあるよ」

陽子は、ドラム缶の中で冷えている缶ビール

を手に取った。

「残念だけど、俺は、帰りに車の運転がある

から飲めないんだ」

「そうだよね、帰りは東京まで運転だよね」

「陽子、飲めるんでしょう。飲みなよ」

隆は、烏龍茶を手にしていた。陽子は、隆に

言われて、缶ビールを頂いた。

「今日はお疲れ様!」

隆と陽子は、2人で乾杯していた。

ヨット教室物語・第160話

「うん、美味しいね。この焼きそば」

雪は、バーベキューで焼かれていた焼きそば

を食べながら、隣の麻美子に話しかけた。

隆と陽子が、乗り終わった後のセイルとか片

付けておくからと言うので、他の皆は、先に

パーティー会場に来て、バーベキューの準備

を手伝っていたのだった。

準備を終えた後、会場で焼かれた焼きそばと

飲み物を先に頂いていた。

「いただきます」

「瑠璃子ちゃんって、けっこう飲めるね」

ヨット教室物語・第161話

麻美子は、既に2本目の缶ビールを飲んでい

る瑠璃子に言った。

「麻美ちゃんは、お酒はぜんぜん飲まないん

ですか?」

少し頬を赤くしている瑠璃子が、オレンジジ

ュースを飲んでいる麻美子に聞いた。

「私も、ビールを頂いちゃおう」

麻美子の横に腰掛けていた雪も、1本目の缶

ビールを手にして、飲んでいた。

アルコールを飲んでいないのは、麻美子と香

代の2人だけだった。

ヨット教室物語・第162話

「私も少しは飲めるんだけど、今日は帰りに

車の運転があるからね」

麻美子は、たぶん隆がパーティーで飲むだろ

うと思ったから、自分はアルコールを控えて

いたのだった。

「香代ちゃんは飲まないの?」

「私、お酒って一度も飲んだことない」

まだ21歳の加代は、2本目のビールを飲ん

でいる瑠璃子に聞かれて答えた。

「お酒なんて飲まない方がいいわよ」

麻美子は、香代に言った。

ヨット教室物語・第163話

まだ21歳の香代のことを、麻美子は、まる

で自分のかわいい妹のように思えていた。

「そういえば、隆さんと陽子ちゃんってどう

したんだろう?まだセイルを片付けているの

かな?」

瑠璃子が呟いた。

「ほらほら、あそこに来ているじゃん」

ラッコの船体から下りてきて、こちらのパー

ティー会場にやって来る2人の姿を見つけて

雪が叫んだ。

「やっと片付け終わったのね」

ヨット教室物語・第164話

2人は、ラッコから下りてくると、パーティ

ー会場に向かってくる途中、会場の隅に置か

れていた飲み物のドラム缶から缶ビールを取

って、バーベキューで焼きそばをもらって食

べながら、楽しそうに談笑していた。

「なんかさ。陽子ちゃんって、ヨットの上で

いつも隆さんと仲良くしてない」

そういう事には、人一倍敏感な瑠璃子が気づ

いて、言った。

「麻美ちゃんいるんだし、言わないの」

「あ、そうだった。ごめん」

ヨット教室物語・第165話

瑠璃子は、楽しそうに談笑している2人の姿

を見ながら、口にしていた。

「あの2人って話が合うんだろうね」

「そうなのかな」

瑠璃子は、麻美子に返事した。

「だって、ヨット教室初日でうちのヨットに

来た時から、陽子ちゃんは、何となく隆と話

が合いそうだなって思っていたもの」

「本当だね。もしかして、あの2人って、お

付き合いし始めちゃったりして」

雪は、麻美子に答えた。

ヨット教室物語・第166話

「確かに。隆って、もしかして陽子ちゃんと

話の波長が合うのかもね」

「心配だね」

「何が?」

麻美子が、雪に聞いた。

「え、別に私たちって付き合っているわけじ

ゃないし、ただの大学の同級生だからね」

「はいはい」

雪と瑠璃子は、ニヤニヤと苦笑していた。

「え、本当だよ。私たちって別に付き合って

いるわけじゃないからね」

ヨット教室物語・第167話

「ただ、家が渋谷と中目黒で近いってだけで

うちのお母さんがさ、隆のこと気に入ってて

いつもうちへ食事に呼んでしまうのよね」

麻美子は、2人に話していた。

「そうだよね。それじゃ、もし隆さんと陽子

ちゃんが結婚するってなったらどうする」

「別に良いんじゃないの。2人がお互いに結

婚したいって決めたんだったら」

麻美子は、雪に返答した。

「私も喜んで、2人の結婚式に参加させても

らうわよ。そしたら私」

ヨット教室物語・第168話

「私は、陽子ちゃんから良い人が見つかるよ

うにって、ブーケ投げてもらおうかな」

麻美子たちがおしゃべりをしているところに

当の隆と陽子が戻ってきた。

「やっと、セイルを片付け終わった。2人だ

けだったから畳むの大変だったよ」

「そう、お疲れ様」

麻美子は、ドラム缶から冷えた缶ビールを出

してくると、隆に手渡した。

陽子は、既に自分の分の缶ビールをしっかり

手にしていた。

ヨット教室物語・第169話

「え、俺は、帰りに車の運転があるから」

「大丈夫、大丈夫」

麻美子は、隆がいつも車の鍵を入れている方

のポケットに手を突っ込むと、車の鍵を受け

取っていた。

「え、そうなの。それじゃ、運転はお願いし

ちゃおうかな」

隆は、缶ビールを開けると、陽子の持ってい

る缶ビールに乾杯してから飲み始めていた。

隆は、さっきまで麻美子と雪、瑠璃子がして

いた会話には何も気づいていなかった。

ヨット教室物語・第170話

「今日はレースお疲れ様。来週は普通にクル

ージングしような」

隆は、パーティーが終わった後、車の助手席

に座りながら皆に言った。

麻美子は、運転席に座って、鍵を回して車を

運転していた。

「この車って、外観の見た目は良いんだけど

皆で乗るには、ちょっと狭いよね」

隆の車は、スポーツタイプのクーペ車だ。

2シーターではなく、いちおう後部座席はあ

るが、後部には3人までしか乗れなかった。

ヨット教室物語・第171話

体が小さく、小柄の香代は、場所がないため

助手席の真ん中、隆の横に腰掛けていた。

普段、隆が運転しているときは、助手席の麻

美子の膝の上にちょっこんと腰掛けていたの

だったが、さすがに隆の膝の上に腰掛けるわ

けにもいかず、助手席の内側に座っていた。

「今度、もう少し皆で乗れるような車に買い

換えようね」

麻美子が運転しながら、言った。

「え、俺はけっこう、この車のこと気に入っ

ているんだけどな」

ヨット教室物語・第172話

「これじゃ、皆で乗れないでしょう」

麻美子は、隆に言った。

「隆さんの車をどれにするかって、麻美ちゃ

んが決めているんだ」

「そうね、隆ってけっこう買い物下手なとこ

ろがあるからね」

麻美子が答えた。

「だから、こんな薄くて、平べったい車を買

ってしまうのよ」

「なるほどね」

皆は、麻美子の返事に笑っていた。

ヨット教室物語・第173話

「そろそろ出かけようか」

土曜日、会社が休みの隆は、いつものように

麻美子の母親に誘われて、中目黒の麻美子の

家でお昼ごはんを食べた後、リビングでのん

びり寛いでいた。

「本当に買い換えるのか」

「だって、あの車じゃ、皆が乗れないでしょ

う。買い換えたくないの?」

麻美子は、隆から車の鍵を取ると、ソファか

ら立ち上がった。

「なんかお腹がいっぱいで歩くのつらいよ」

ヨット教室物語・第174話

「それは、隆が来るからって、張り切って料

理を作りすぎるお母さんに文句言ってよね」

麻美子は、駐車場に置いてある隆の車の運転

席に座りながら、隆と話していた。

麻美子が運転席に座っているので、隆は助手

席に座った。

「どんな車に買い換えるの?」

隆は、運転している麻美子に質問した。

「ラッコの皆が乗れるぐらい広い車にしまし

ょうね。6シーターの車とかよくない」

麻美子は運転しながら、隆に言った。

ヨット教室物語・第175話

麻美子の家の近所にある中目黒の中古車屋に

着くと、展示場の車を見て、周っていた。

「隆は、どんな車が好きなの?」

「俺は、なんでもいいよ。ヨット以外の乗り

物には、全く興味ないから」

隆は、本当に車には興味がないらしく、麻美

子と一緒に、展示場内の車を物色するのに疲

れてきて、ハイエースの車内に設置されてい

たシートで横になって寝転がっていた。

「ね、この車かわいくない!」

麻美子が、古いエスティマを見つけた。

ヨット教室物語・第176話

たまご型の丸っこい形をした車で、車内には

前、後ろ、中央と3列シートで、ラッコのメ

ンバー全員が乗っても窮屈ではなかった。

麻美子は、そのおとぎ話に出て来るみたいな

丸いかぼちゃの車に、香代ちゃんと瑠璃ちゃ

んが乗っているところを想像して、思わず笑

顔になった。

「これ、どうかな!?」

麻美子は、ハイエースの車内のベンチシート

に寝転がっていた隆のことを大声で呼んだ。

「なんかデカい車だな」

ヨット教室物語・第177話

「これに乗るの?運転するのに、サイズが大

きすぎないかな」

隆は、一瞬だけ運転席に腰掛けてみてから、

その車のデカい運転席に、運転するのを諦め

たように運転席から降りながら、麻美子に答

えた。

「え、そんなにサイズ大きくないよ」

隆に代わって、麻美子が運転席に腰掛けてハ

ンドルを握りながら言った。

「俺、あんまり自動車の運転って、上手じゃ

ないからな」

ヨット教室物語・第178話

「この大きさなら、いま乗っている隆の車と

そんな大きさ変わらないよ」

麻美子は、ハンドルを握ってクルクル回しな

がら、窓の外の周りを眺めていた。

「奥様、試乗されてみますか?」

中古車屋の営業マンが、麻美子にエスティマ

の鍵を手渡してくれた。

麻美子は、営業マンから鍵を受け取ると、助

手席に隆を乗せたまま、店の周りの道を一周

してきた。

「見晴らし良くて運転しやすいよ」

ヨット教室物語・第179話

「これが座席数もサイズ的にも良いかもよ」

「麻美子が良いなら、俺はなんでもいいよ」

結局、今の隆の車を、その古いエスティマに

買い換えることになった。

隆の乗っていた車は、まだ購入したばかりの

新しい車だったので、その車を売却すると、

古いエスティマが余裕で買えてしまった上に

お釣りまでもらえてしまっていた。

買い換えたばかりのエスティマには、中古車

屋から麻美子の家まで、運転下手の隆でなく

麻美子が運転して帰ってきた。

ヨット教室物語・第180話

「運転しやすい?」

「うん。オートマだし、周りの見晴らしも良

いし、ぜんぜん楽に運転できたよ」

麻美子は、隆に聞かれて返事した。

「あのさ、渋谷の俺のうちのマンションの駐

車場ってけっこう駐車料金高いじゃない」

「そうね」

「この車って、今までの車より屋根高めだし

立体駐車場に入るかどうかもわからないし、

麻美子の家のここのガレージに置いておいた

らダメかな」