ヨット教室物語・第91話

「だって、私より4歳も年上だもの」

「そんなこと気にしなくてもいいよ、雪って

呼んでくれていいよ」

雪は、麻美子に言った。

「へえ、麻美子よりも年上なんだ」

「そう、私がこの中で1番の年長者かな」

雪は、隆に答えた。

「そうなんだ。俺よりも年長なのか」

「だから、私よりも4歳年上だって言ってい

るじゃないの」

麻美子は、隆に言った。

ヨット教室物語・第92話

「麻美子より年上なのはさっき聞いたよ。俺

より上かなって聞いたんだけど」

「何を言っているの?」

麻美子は、隆のことを見た。

「私と隆って同級生だよね、私より4つ上だ

って言っているでしょう」

「あ、そうか。じゃ、俺とも4つ上なのか」

隆がやっと気づいたように言ったので、皆

はキャビンの中で大笑いになった。

「それじゃ、この中で1番の年下は?」

「香代ちゃん」

ヨット教室物語・第93話

麻美子は、隣の席に座っている香代の頭を撫

でながら、隆に答えた。

クラブハウスでの講義中に、ロープワークを

香代に教えてあげて以来、麻美子と香代はす

っかり仲良くなっていた。

「すっかりお友達だよね」

麻美子が、香代に話しかけると、香代は麻美

子の方を嬉しそうに見ながら、頷いた。

「お友達というよりも、見た目は親子だな」

隆は、麻美子のことを笑った。

「お姉ちゃんと妹」

ヨット教室物語・第94話

隆が麻美子に言った親子という言葉を、香代

が言い直してくれていた。

「そうよね。お姉ちゃんと妹よね」

麻美子は、訂正してくれた香代の言葉に嬉し

そうだった。

それから隆1人が混じってはいたが、日が暮

て周りが暗くなるまで、ラッコのキャビンの

では、女の子たちの黄色い声で女子会トーク

盛り上がっていた。

「そろそろ、お開きにしようか」

隆が皆に言った。

ヨット教室物語・第95話

隆の声で、皆は飲み終わったお茶のカップと

お茶菓子を片付けて、船台の上のヨットから

帰るために降りた。

「大丈夫か、スカートで下りられるか」

さっき上がるとき、麻美子が心配したのと同

じことを、今度は隆が瑠璃子に言っていた。

「大丈夫、スカートでどこでも普通に動き回

れるから」

瑠璃子は、隆の前で普通にスカートでヨット

のライフラインを飛び越えると、颯爽とキャ

タツを降りてみせた。

ヨット教室物語・第96話

「でも、それじゃ、真下にいる麻美子にスカ

ートの中まる見えだろう」

「え、ぜんぜん見えていないよ」

キャタツを下で抑えていた麻美子は、降りて

くる瑠璃子に向かって話しかけた。

「皆、ここから電車で帰るのかな」

隆は、自分の狭いセダン車に全員ぎゅうぎゅ

う詰めで乗せると、横浜マリーナの最寄り駅

、京浜東北線の根岸駅まで送り届けた。

「それじゃ、来週ね!バイバイ」

皆は、駅で別れた。

ヨット教室物語・第97話

「それじゃ、来週の日曜日ね」

皆が駅から電車に乗って帰ってしまうと、隆

は麻美子を乗せて東京の自宅まで車を走らせ

た。隆は、渋谷のマンションで一人暮らしし

ていて、麻美子は、中目黒の実家で両親と暮

らしていた。

麻美子には、弟がいるのだが、弟は、いまサ

ンフランシスコに単身赴任していた。

「ね、私なんだけど」

麻美子は、ずっと隆に話し出せずにいたこと

をようやく車の中で話せた。

ヨット教室物語・第98話

「私さ、ヨット教室の生徒さんたちが、うち

のラッコにクルーとして大勢来るようになっ

たら、隆が1人ぼっちでヨットに乗ることも

なくなるだろうから、今週でヨットに乗るの

は辞めようかなと思ってたのよ」

「マジで、なんで?」

帰りの車の中で、麻美子は隆に話した。

「でもさ、あの子たちとヨットに乗るのだ

ったら、なんかおしゃべりしてて楽しいし

もうしばらく隆のヨットに乗せてもらおう

かなと思い直しているんだけど」

ヨット教室物語・第99話

「いいかな?」

「全然いいんじゃないの、別に」

隆は、運転しながら麻美子に答えた。

「正直、さっきもう乗りに来ないとか言われ

た時、麻美子が本当に乗りに来ない気かと思

ってドキドキしたよ」

「そうなの?」

隆は、麻美子に頷いた。

「後さ、乗せてもらうとか言ってたけど、あ

のヨットは、麻美子も、自分のヨットって思

ってもらって良いんだからね」

ヨット教室物語・第100話

今日は、初めてのヨット乗船日だった。

先週からクルージングヨット教室は始まって

いたが、先週はクラブハウスの2階で座学の

講習を受けただけだったので、実質今週が初

めてヨットに乗る日だった。

今日は、永田瑠璃子も皆と同じようにスカー

トではなくパンツを着ていた。

「さあ、メインセイルを上げようか」

隆の号令で、皆はラッコのメインセイルを上

げるのに必死になっていた。

「そのロープを引っ張ってくれる」

ヨット教室物語・第101話

皆よりも少しだけヨットの乗船経験がある麻

美子が皆に指示を出していた。

「麻美子も、ヨットではロープっていう言い

方は辞めようか」

コクピットで、操船用のステアリング、ラッ

トを握りながら、隆は麻美子に注意した。

「そっちの赤いヒモを引っ張ってくれる。陽

子ちゃんは青いほうのヒモを引いて」

隆がロープと呼ぶなというので、麻美子はロ

ープのことをヒモと呼んでいた。

「ヒモって呼び方もおかしくないかい」

ヨット教室物語・第102話

コクピットに戻ってきた麻美子に、隆が注意

していた。

「ロープがだめで、ヒモがだめならば、一体

なんて呼んだらいいのよ」

「シート。ヨットでは、ロープのことはシー

トと呼ぶようにしよう」

「シート?なんか腰掛けたくなってしまうよ

うな名前なんだけど」

麻美子は、コクピットの座席に腰掛けながら

隆に言い返していた。

「めちゃ夫婦漫才なんだけど」

ヨット教室物語・第103話

「夫婦げんかはしないでください」

陽子は、麻美子と隆のことをなだめていた。

「夫婦?」

「だって、まるで奥さんなんだもの」

陽子は、ラットを握っている隆の横の空いて

いる場所に腰掛けながら、隆に言った。

「え、勘弁してよ。麻美子は、別に奥さんじ

ゃないよ。ただの大学時代の同級生」

隆は、陽子に答えた。

「え、結婚していないんですか?」

「していないわよ。夫婦でもなんでもないも

ヨット教室物語・第104話

の」

麻美子が陽子に答えた。

「ええ、麻美子さんって、ぜったい隆さんの

奥さんだと思っていた!」

「口げんかの仕方とか、話し方とか完全に夫

婦の会話だったものね」

ラッコの女性たちは、コクピットで口々に話

し始めた。皆、さっきまでのヨットの操船方

法の話をしているときとは明らかに違うテン

ションで、楽しそうに隆と麻美子の話で盛り

上がっていた。

ヨット教室物語・第105話

「麻美子さんって中目黒に住んでいるの?」

「隆さんと麻美子さんって、同じ会社で働い

ているんですよね」

皆は、隆と麻美子へ質問攻めになった。

「隆さんって、いつも会社の仕事が終わると

麻美子さんの家に行って、夕食を食べている

んですか」

「麻美子のお母さんがすごく料理上手の人で

さ、田舎から都会に出てきて一人暮らしして

いる俺の栄養とか食べるもののことを心配し

てくれて、作ってくれてしまうんだよ」

ヨット教室物語・第106話

隆は、陽子に答えていた。

「うちのお父さんが輸出入の貿易商で日本と

サンフランシスコに拠点があって、今は弟が

サンフランシスコの事務所に赴任しているか

ら、弟のいた部屋が余っているのよ」

麻美子がつけ加えた。

「それで、あまり夜が遅くなると、麻美子の

弟の部屋に泊めさせてもらってるの」

隆が、皆に言った。

「ただ、それだけの事なんだよ」

隆が付け加えた。

ヨット教室物語・第107話

「それって、ひとつ屋根の下じゃない」

「もう夫婦みたいなものじゃないですか」

皆は、隆と麻美子の話で、デッキ上で大いに

盛り上がっていた。

さっきまで隆がヨットの操船方法について説

明していたときは、こんなには盛り上がるこ

となど全く無かったのに、盛り上がり方が雲

泥の差だった。

「やっぱ、もう2人は夫婦っすね」

「確かに!ぜったいそうだね」

皆は、そう結論づけていた。

ヨット教室物語・第108話

クルージングヨット教室の一環で、ヨットに

乗りに来ているというのに、ヨットの操船方

法の説明の時も、このぐらいは盛り上がって

くれよと隆は思っていた。

「でも、隆さんとお付き合いはしているので

すよね?」

「私たちって、お付き合いなんかしていたこ

とあったっけ?」

麻美子は、隆に聞いてみた。

「ないない」

隆は、首を大きく横に振った。

ヨット教室物語・第109話

「麻美子とは別に付き合ってはいないよ」

「ほら、なんか大学生の頃から相性が良かっ

たんで、いつも一緒にいただけなのよ」

麻美子は、皆に答えていた。

「ふーーん」

瑠璃子が言うと、皆も、ふーんって感じで頷

いているのだった。

「それじゃ、貯木場に船を入れて、お昼ごは

んにしようか」

隆は、ヨットを貯木場に入港させた。

「セイルも下ろすよ」

ヨット教室物語・第110話

今日のお昼ごはんは豪華だった。

「ただのパスタじゃないんだ、ラザニアまで

付いているの」

隆は、ラッコのメインサロンのテーブルに並

べられた料理を見て驚いていた。

「今日のお昼は、私が作ったんじゃないよ」

「麻美子の作った料理じゃないってことは、

一目で見てわかった」

隆は、麻美子に言った。

「だって、いつもより豪華だもの」

「それは、どういう意味かな」

ヨット教室物語・第111話

お昼の時間、ラッコは、いつも貯木場に置か

れている元横浜博覧会のイルカのプールに横

付けしていた。

ラッコがイルカのプールに横付けし終わると

キャビンの中では、パイロットハウスの一段

下にあるキッチン、ギャレーに女性クルーた

ちが皆集まり、お昼ごはんを作り始めたのだ

った。

「さあ、お昼ごはんを作りましょう」

ちなみにラッコとは、隆が所有しているセー

リングクルーザーの船名だ。

ヨット教室物語・第112話

ラッコがイルカのプールに横付けしてから、

しばらくすると同じ横浜マリーナにヨット

を保管している仲間のヨットたちも、次々

とやって来て、イルカのプールに横付けし

ていた。

ちなみにイルカのプールが置かれている貯木

場は、横浜の金沢区にある周りを岸壁で囲ま

れた港内で、この場所が後に、横浜ベイサイ

ドマリーナというアウトレットモールも併設

された巨大なヨットハーバーに生まれ変わる

こととなるのだった。

ヨット教室物語・第113話

横浜ベイサイドマリーナに生まれ変わってか

らは、お昼を食べようと、マリーナ内のポン

ツーンにヨットやボートを停泊すると、マリ

ーナ事務所に停泊料を払う必要があった。

「舫いロープを取りますよ」

が、横浜ベイサイドマリーナが完成する前の

貯木場だった頃は、横浜マリーナに停泊して

いる隆たちのヨットが、お昼休憩で貯木場内

に出入りして、そこに置かれているイルカの

プールにヨットを停めようが、誰にも停泊料

なんか支払う必要が無かった。

ヨット教室物語・第114話

隆たち横浜マリーナに停泊しているヨットた

ちは、お昼の時間になると、よくここの貯木

場にヨットを停泊して、皆でキャビンの中で

お昼ごはんを料理して、船で飲んだり食べた

りしていた。

「本当に、今日は豪華な料理だな」

隆は、改めてメインサロンのテーブルの上に

並べられた料理に感嘆していた。

これまでのラッコのお昼ごはんといえば、麻

美子が自宅で作ってきたタッパーに入った料

理をお皿に盛り付けるだけだった。

ヨット教室物語・第115話

ラッコのキッチン、ギャレーには、せっかく

立派な調理設備が一式揃った台所が完備して

いるというのに、それらを、麻美子が使うこ

とは、全くなかった。

家で作って、タッパーに入れて持って来たも

のを、せいぜい温めるぐらいだった。

「ラザニアと一緒にミートパイも焼いたよ」

陽子は、ラッコのギャレーに付いているガス

オーブンを使ってパイを焼いていた。

「先週、ここのガスコンロの下にオーブンが

付いていたから、焼いてみたくなったの」

ヨット教室物語・第116話

陽子は、自分が焼いたミートパイの味を、皆

が褒めてくれるので、嬉しそうだった。

「オーブンって、こういう使い方するものな

んだね。私も、ラッコにオーブンが付いてい

るのは知っていたけど、どういう風にどんな

料理を作ったら良いかわからなかった」

麻美子は、陽子に言った。

「このヨットって、海外製なのよね。たぶん

ヨーロッパとかだと、オーブン料理ってメイ

ンになるから付いているんだと思う」

「なるほどね、隆には宝の持ち腐れね」

ヨット教室物語・第117話

麻美子は、陽子と笑っていた。

「海で魚とか釣れたら、魚を野菜と一緒にオ

ーブンで焼くのも簡単で良いかも」

陽子が、麻美子に料理を提案した。

「夏になったら、1週間ぐらい使って、伊豆

七島にクルージングしに行くから、その時、

海に釣竿を垂らして、魚を釣ろう」

隆が、陽子に言った。

「そしたら、その魚をオーブンで料理したら

美味しく食べれると思うわ」

陽子は、隆に話していた。

ヨット教室物語・第118話

「伊豆七島まで、このヨットで行けるの?」

「伊豆七島ぐらいは楽に行けるさ。このヨッ

トならば、行こうと思ったら、伊豆七島どこ

ろか世界中どこへだって行けるさ」

隆は、瑠璃子に答えた。

「それじゃ、今から夏休みに向けて会社の

を貯めておかなくちゃ」

瑠璃子が言った。

「私、会社の有給休暇は使わずじまいで、け

っこう貯まっているから大丈夫」

年齢的にも勤続年数の長い雪が言った。

ヨット教室物語・第119話

「伊豆七島って、どこらへんまで行くの?」

「そうだな。まだはっきりとは決めていない

けど、大島、新島、式根島ぐらいまでは行き

たいとは、思っている」

隆は、陽子に答えた。

「新島って、夏はすごい人気みたいよね」

「そうなの?」

「うん、なんか高校生とかが多くて、原宿み

たいな店がたくさん出店されるらしいわよ」

「ええ、なんか楽しそう」

瑠璃子が言った。

ヨット教室物語・第120話

「今週は、クラブレースがあるから参加して

みようか」

隆は、ラッコのメンバー皆に提案した。

「まだまだヨット初心者で、レースなんて出

場できるまで上達できていないよ」

「大丈夫だよ。うちの横浜のマリーナのクラ

ブレースは、本格的なレースではなくて、う

ちのマリーナに保管されているヨットだけの

内輪なクラブレースだから」

隆は、不安そうな瑠璃子に説明した。

「それならば大丈夫かな」