中古車輸出・第121話

「マラウィの海外バイヤーさんなんだ。ラン

ドクルーザーをご希望ですね」

アフリカは、動物たちがたくさん暮らすサフ

ァリが多いのか、ジープ特にランドクルーザ

ーのオファーが多かった。

もちろん、ハイエースコミューターのオファ

ーも多いのだが、それと同じぐらいにランド

クルーザーのオファーも多かった。

「何に使うのだろうか。ライオンさんとかキ

リンさんの世話とかするのかな」

ゆみは、アフリカの様子を想像していた。

中古車輸出・第122話

「なんか会社の自己紹介みたいのいらない気

するな」

ゆみは、いつもオファーメールへの最初の返

信では、私は横浜の貿易会社の何々で、こん

な仕事をしていますみたいな自己紹介を付け

ていたが、何回か海外バイヤーに返信してい

るうちに特に自己紹介は必要ないように感じ

てきていた。

「ハーイ、誰々さん。アムユミー」

それだけで十分だなと感じていていた。

「その後の自己紹介は無くてもいいな」

中古車輸出・第123話

ハーイの後は、すぐにこんな車があるよって

海外バイヤーさんが希望している車を写真付

きで案内してあげるだけの方が、反応が良い

ように思えた。

それが、この1ヶ月間ずっと何十人もの海外

バイヤーとやり取りしてきての、ゆみとして

の海外バイヤーへの返信のやり方だった。

他の人にとっては、会社の自己紹介から始め

て、やり取りをスタートさせるのがベストな

のかもしれない、でもゆみにとっては、返信

での会社案内とかは不要という結論だった。

中古車輸出・第124話

「次はモーリシャスか」

ゆみは、次の海外バイヤーからの返信メール

を開いて、中身を確認していた。

「モーリシャスってなに?」

ゆみは、オファーメールの内容を確認して呟

いた。モーリシャスってどこの国よ。

「アフリカの島よ。マダガスカルの向こうに

ある島」

シャランが、ゆみの大きな声の独り言に反応

して、返事をしてくれた。

「マダガスカルは知ってるわ」

中古車輸出・第125話

「リングテールルマーのいる島よね」

ゆみは、シャランに答えた。

リングテールルマーは、黒白の、シマシマの

長い尻尾があるアライグマみたいな顔をした

シルバー色のお猿さんだ。

世界中の国の名前を、動物たちの故郷で覚え

ている動物好きのゆみだった。

「モーリシャスってきれいな島ね」

ゆみは、ネットでモーリシャスの島を確認し

て言った。世界のリゾートアイランドで、富

裕層たちの人気の観光地なのだそうだ。

中古車輸出・第126話

「行ってみたいな。っていうか、マダガスカ

ルも大きな島なのね、私ずっとマダガスカル

ってアフリカ大陸の中にある国なのかと思っ

ていた」

ゆみが、パソコンで地図を確認しながら、常

識はずれなことを呟いているのを聞いて、シ

ャランは思わず自分のデスクで作業しながら

吹き出してしまっていた。

「ゆみちゃん、入金あったわよ」

マダガスカルを眺めていたゆみに、経理担当

から報告があった。

中古車輸出・第127話

「220万の入金。ゆみちゃんでしょう?」

「そうかもしれない、ミャンマーの人よね」

ゆみは、経理担当に答えた。

「ずいぶん高いけど、なんの車なの?」

「ミキサー車」

ゆみは、経理担当に答えた。

「他に、シャランか誰かで入金を待っている

人は、いない?」

経理担当は、営業担当全員に聞いた。

「いや、今の所は誰も待っていないかと」

部長が、経理担当に答えた。

中古車輸出・第128話

「私も、モルジブからはまだもう少し入金ま

でには、日数が掛かるかな」

シャランも、経理担当に返事した。

「70万ですかね?」

それぞれ営業担当者たちが経理に返事した。

「70万ではないわね、180万よ」

経理担当が答えた。

「180万の入金待っている人いないの?」

経理担当が、もう一度皆に聞いた。

「さあ、知らない」

誰も心当たりのある営業担当はいなかった。

中古車輸出・第129話

「ね、ゆみちゃんじゃないの?」

シャランが、ゆみに聞いた。

「ミャンマーからは、もうお金入っているし

そんなに何件も、私のお金入らないわよ」

ゆみは、首を横に振った。

「もう1回確認してみな」

「あ、私かな?ハイエースの人かな?」

ゆみは、自分が送ったプロフォーマインボイ

スを1件ずつ確認して答えた。

「ハイエースなら180万なんだけど」

「ゆみちゃんじゃないの!」

中古車輸出・第130話

シャランが、ゆみに叫んだ。

「また入金あったのか、なんか海外バイヤー

とのやり取りにすっかり慣れたな」

社長が、ゆみに言った。

「うん、なんか最近は、海外バイヤーも皆、

割とすぐにお返事返してくれるの」

「そうか、返事の書き方にも慣れてきたな」

社長は、ゆみの進歩に満足そうだった。

「こうなってくると、この先は、おもしろい

ように車の注文が取れるようになるぞ」

社長は言った。

中古車輸出・第131話

「ゆみちゃん、また中古車オークション会場

で落札しなきゃだね」

「うん、ミキサー車は、この間いっぱい扱っ

ているところ見つけたの」

ゆみは、シャランに答えた。

「じゃ、いまオークション会場用のパソコン

空いているから、今入札してきなよ」

シャランに言われて、ゆみは、会社で中古車

オークション会場用に使っているパソコンの

ところに移動すると、そこでミャンマー向け

のミキサー車を落札して戻ってきた。

中古車輸出・第132話

「え、もう落札したの?」

「うん」

ゆみは、シャランに頷いた。

「だって、入札、落札は簡単じゃない」

そこは、本職がウェブデザイナーだけに、パ

ソコンの操作はお手のものだった。

「落札するの早くない?」

「本当に落札されているわ。福岡のローカル

なオークション会場の車に落札したのね」

経理担当は、オークション会場からファック

スされてきた落札通知の紙を見せた。

中古車輸出・第133話

「本当に落札出来ているんだ」

シャランは、経理担当の差し出した落札通知

の用紙を見て答えた。

「ゆみちゃんには、こっちね」

経理担当は、ゆみに陸送申込書を手渡した。

「今回、福岡から出すからアトラスさんに依

頼するから、船のブッキングは、こちらでや

るわ。だから、オークション会場から港まで

の陸送を依頼してちょうだい」

ゆみは、経理担当に命じられた。

「まだ、よくわからないよ」

中古車輸出・第134話

「シャラン、これで大丈夫よね」

ゆみは、初めて自分で書いた陸送申込書の内

容をシャランに見せた。

「うん、大丈夫じゃない。え、待って」

シャランは、経理担当の方に振り返った。

「伊馬さん、船は横浜から出すんですか?」

「ううん、福岡港よ」

「ですよね。だったら横浜港でなく福岡港に

陸送しなきゃ。福岡で落札した車は、福岡の

1番近い港から出す方が経費も効率も良い」

中古車輸出・第135話

「そうか、福岡の会場で落札したから福岡の

港に陸送するのね」

ゆみは、シャランに頷いた。

「うん、大阪会場なら大阪港、名古屋会場な

ら名古屋港みたいに」

「なるほどね、北海道会場なら北海道港、沖

縄会場なら沖縄港ね」

「北海道とか沖縄だと船が直接出ていなかっ

たりするから、東北とか九州まで持ってくる

こともあるけどね」

中古車輸出・第136話

「あ、船が出航しない港もあるのか」

「そう、新潟会場なんかも横浜港まで陸送し

たりすることもあるわ」

「なるほど、落札した会場と輸出先の国への

船が出航する港と合わせて、陸送する港は考

えないといけないのね」

ゆみは、シャランに教えてもらっていた。

「あと、終わったらアフリカのハイエースも

落札するんでしょう」

シャランは、ゆみに聞いた。

中古車輸出・第137話

「うん、海外バイヤーに、どの車にするか聞

いているところ」

「そうか、入札するのはその後か」

「うん」

ゆみは、シャランに答えた。

「すみません、面接に来ました」

会社の入り口に背の高い白人が立っていた。

「はーい」

会社出入り口に一番近い席に座っているゆみ

が、来客者の対応もしていた。

中古車輸出・第138話

「面接に来ました」

「ありがとうございます、どうぞこちらへ」

ゆみは、背の高い白人を社長室へ案内した。

「ね、すごいかっこ良い人だと思わない」

「そうかな、私のタイプじゃないかな」

みなと横浜で、車の海外輸出をしている貿易

会社だけあって、ゆみの勤める貿易会社には

海外の人たちからの応募も多かった。

「背が高くてスラっとしてイケメン」

ゆみは、うっとりしていた。

中古車輸出・第139話

「今日から一緒に働くイアン君だ」

「よろしくお願いします」

白人の男性は、流暢な日本語で会社の皆に挨

拶した。ロシア系のカザフスタンから来た青

年だった。

「ゆみちゃん、良かったね」

「え、そんなんじゃないよ」

ゆみは、シャランに苦笑した。

カザフスタンやウズベキスタンとかスタンが

につく国名は、ロシア系の国だった。

中古車輸出・第140話

ロシア、旧ソビエト連邦から独立した国々に

多い名前だった。

日本側の沿岸にある中国の港から、これらの

国々へは、鉄道が通っており、日本からコン

テナ船に中古車を載せて、そのまま輸送する

ことができた。

モンゴルなんかも、日本からコンテナ船で中

国の港経由で鉄道で輸送できる。

「ゆみ、告っちゃえば」

「だから、違うって」

中古車輸出・第141話

「私、いまグルジアの人と話してるから、そ

の海外バイヤーをあげようか」

ゆみは、イアンに言った。

「いや、それは、ゆみの海外バイヤーなんだ

から、ゆみがやれ」

イアンにロシア系の海外バイヤーを分けてあ

げようとしたら、部長に断られた。

「ゆみちゃん、グルジアのバイヤーとの取引

をサボろうとしたね」

「だって、私は営業じゃないし」

中古車輸出・第142話

「だめよ、バレバレなんだからサボりは」

シャランに言われてしまったゆみだった。

「なるほど、この本は読みやすいですね」

イアンは、社長に言われて、社長が著者の会

社で発売している、育成部門のオンライン通

信教育でも教本として使用している中古車輸

出業の教本を読んでいた。

オンライン通信教育の受講者たちが、読んで

いる教本だったが、会社に新人が入社した時

の新人教育用の教本としても使っていた。

中古車輸出・第143話

「どうだ、できそうか?」

「はい、この教本を読みながらやれば、簡単

にできそうな感じです」

社長は、自分が書いた教本がわかりやすいと

言われて、嬉しそうだった。

ゆみが働いている横浜の貿易会社は、人の出

入りが激しい会社で、つい先日もウガンダの

人が入社後すぐに退社したばかりだった。

先日のオーストラリアの人も退社していて、

人の入れ替わりが激しい会社だった。

中古車輸出・第144話

そのオーストラリア人も、入社後は、社長の

書いた教本を読んで、中古車輸出業のやり方

を覚えていた。

1ヶ月後、中古車輸出業のやり方を覚え終わ

ったからと横浜の貿易会社は辞めてしまって

会社のすぐ近所、徒歩15分ぐらいの所に事

務所を借りて、そこで自分の中古車輸出会社

を起業させてしまっていた。

「日本人なら考えられない恩知らずの奴だ」

社長は、彼のことを憤慨していた。

中古車輸出・第145話

しかも、横浜の貿易会社の会社IDで中古車

オークション会場に出入りし、そこで知り合

った日本人の中古車屋さんと仲良くなって、

中古車オークション会場の入会まで紹介して

もらってしまっていた。

「全く信じられないような奴だな」

社長は、彼のことを一際可愛がって、中古車

輸出業のことを指導していただけに、かなり

ショックを受けていた。

「何から何まで教えてやったのに」

中古車輸出・第146話

「そうか、バスの運転手になりたいのね」

ゆみは、今日も海外バイヤーとメールのやり

取りをしていた。

相手は、マラウィに住むアフリカ人で、マラ

ウィの村からザンビアの町へ通勤する人たち

が大勢いるのだが、彼らを町まで運ぶバスの

本数が少ないのだそうだ。

それで、バスの運転手になりたいようだ。

「ハイエースには、18人まで乗れるバスタ

イプの車があるのよ」

中古車輸出・第147話

「それでは、村の皆全員を乗せられない」

彼は、ゆみに相談していた。

もっとちゃんとした大きなバスが欲しいのね

偉いじゃない、村の皆のために大きな本格的

なバスで始めたいとか、ゆみは思った。

「少し古いバスになっても良いかな?」

「古くても良い、もう予算がギリギリで、こ

の予算で買えるバスないだろうか」

ゆみは、本当に村の皆のためのバスを探して

いるの見つけてあげたいなと思った。

中古車輸出・第148話

「うーん、このバスならどうかな」

ゆみは、中古車オークション会場のサイトで

古いバスとにらめっこしていた。

「もう少し安いのないかな?」

ゆみは、自分が見積もった金額で、会社が赤

字になってしまうのも嫌だった。

「会社には迷惑をかけたくないし」

計算間違いしてあると思っていた利益が無く

なってしまうのも、もっと嫌だった。

「私、計算が苦手だからな」

中古車輸出・第149話

だから、いつも少し見積額高いかなと思って

も、多めに金額を上乗せしてプロフォーマイ

ンボイスを書いていた。

でも、今回の海外バイヤーは予算ギリギリだ

し、シビアに見積もるしかなさそうだった。

「もっと、田舎のローカルな中古車オークシ

ョン会場の車から探すしかないか」

これとかは、どうかな。

「ゆみ、このバス良いじゃん、いいじゃん」

海外バイヤーからすぐに返事が来た。

中古車輸出・第150話

ゆみが中古車オークション会場で探し出した

バスの写真を送ってやると、マラウィの海外

バイヤーからすぐに返事が返ってきた。

「このバスを、送ってくれたプロフォーマイ

ンボイスの値段で買えるのか?」

「うん、なんとか大丈夫よ」

ゆみは、海外バイヤーに返事した。

ゆみが送ってあげたバスは、日野の28人乗

りで、通路には折りたたみの補助席も付いた

バスだった。