中古車輸出・第31話

昨今では、他にポルトガル語、ドイツ語、中

国語やロシア語ぐらいでの説明は、あった方

が良いかもしれません。

ゆみの勤務する横浜の貿易会社では、各国の

輸出担当スタッフが豊富に揃っているので、

彼らに訳してもらって、それを、ゆみがホー

ムページに落としこんでいきました。

「マイク、これロシア語に訳してほしいの」

ホームページが完成すると、今井ゆみのホー

ムページに毎日たくさん車のオファーが来る

ようになりました。

中古車輸出・第32話

今井ゆみは、毎朝出社すると、まずはその日

に、自動車の海外バイヤーから届いた車のオ

ファーをチェックします。

チェックした車のオファーは全て、会社のプ

リンターでプリントアウトして、営業担当者

向けのバインダーに挟んで各輸出担当者たち

に配ります。

横浜の貿易会社には、十数名前後の営業担当

者がいます。日本人スタッフだけではなく、

アフリカやスリランカ、中東アジアなど各国

のスタッフが働いています。

中古車輸出・第33話

この各国のバライエティ豊かな外国人スタッ

フたちが、後に中途採用されてくる小倉まな

みと社長との間で経営方針の相違が表面化し

てくるきっかけになってくるのですが。

今は、その事は置いておきましょう。

今井ゆみは、国際色豊かなスタッフたちにオ

ファーを振り分けていました。

「はい、今日の届いたオファーです」

「ありがとう」

今井ゆみから配られた海外バイヤーからのオ

ファーを基に、商談を進めていきます。

中古車輸出・第34話

今井ゆみは、各営業担当者たちに本日の海外

バイヤーからのオファーを配り終えて、マイ

カップのミルクティーを飲みながら、自分の

デスクで少しホッとしていました。

「このオファーからメールしていくか」

毎日、横浜の貿易会社宛てに届くたくさんの

海外バイヤーからのオファーは、それぞれ割

り振られた各営業担当者たちと海外バイヤー

の間で車の商談が進められて、見積もり、入

金、車の仕入れ、船積みと取引が進められて

いきます。

中古車輸出・第35話

今井ゆみは、ウェブデザイナーなので、実際

の海外バイヤーとの商談には、直接関与して

いません。

その日のオファーを振り分け終わると、後は

翌日以降のオファーを取るためにサイトの構

築、SNS運用などの作業に従事します。

「どうして商談が進まないんだ?」

今井ゆみは、明日以降の海外バイヤーからの

オファーも、今日来た海外バイヤーからのオ

ファーのようにたくさん来るようにとホーム

ページの更新作業をしていた。

中古車輸出・第36話

「どうして商談が進まないんだ?」

社長室内から社長がラオス人の営業スタッフ

に激を飛ばしている声が聞こえてきます。

彼は、日本の中古車店で販売スタッフとして

働いていたのだが、中古車オークション会場

で社長と知り合い、中古車の輸出販売がやっ

てみたいと直訴して、ゆみたちの働く横浜の

貿易会社に転職したのだった。

転職をして、もう3ヶ月になるというのに、

未だに自国のラオスはもちろん、その他の国

々からも注文を1件も取れていなかった。

中古車輸出・第37話

「先週、ゆみちゃんから配られたケニアとの

商談の話はどうなったんだ?」

彼は、日本の大手中古車販売店で販売員をし

ていたのだが、どうしても国内でなく世界へ

中古車輸出をしてみたいと横浜の貿易会社へ

転職してきたのだ。

「そんな返事の書き方では相手から返ってこ

ないに決まってるだろう」

社長は、ラオス人の彼に言った。

「もっと相手のことを考えて、思いを込めて

メールを書いてあげないと返事も来ない」

中古車輸出・第38話

他にも、日本の中古車を輸出している人はた

くさんいるのだから、その中でおまえから買

うと気持ち良く商談が進められると思っても

らえたら、その海外バイヤーは、おまえから

車を買ってもらえるんだぞ。

社長は、ラオス人の営業スタッフに熱を入れ

て指導しています。

「車の注文を取るのも大変よね」

今井ゆみは、マグコップのお茶を飲み、キー

ボードの操作しながら、社長室から聞こえて

くる2人の会話を聞いていました。

中古車輸出・第39話

「うちの会社に来るオファーメールの質が悪

いのかもしれないです」

ラオス人の彼は、当社宛てにオファーを出し

てくる海外バイヤーは、そんな真剣に日本か

ら自動車を買う気もなく、なんとなく冗談半

分でオファーを出していたり、いたずらやス

パム的にオファーを出してきているのが多い

のではないかと社長に伝えました。

彼のこの言葉がきっかけになって、本来はウ

ェブデザイナーだった今井ゆみが、実際の営

業にも携わっていくようになりました。

中古車輸出・第40話

「ゆみちゃん、おまえの取って来るオファー

メールは質が悪いのか?」

社長は、今井ゆみに聞きました。

そして、今井ゆみは、オファーを出してくれ

た海外バイヤーとも深く関わるようになって

彼らの自動車を日本の市場から探し出し、実

際の船積み、ブッキングなどをして、車の輸

出手続きを行い、彼ら海外バイヤーの国の港

へと自動車を届ける中古車輸出業の実務にま

で関わるようになったのでした。

「そんなことないと思うけど」

中古車輸出・第41話

「え、なんでよ!私が悪いの?」

今井ゆみは、ラオス人の彼の言葉にはじめは

ちょっと悔しくもあったけど、この事がきっ

かけでホームページのデザインだけしている

のではなく、実際に海外バイヤーと交わり、

中古車輸出業の根幹である中古車輸出業の実

務にまでこだわれるようになれたのは、彼に

感謝でした。

「そんなに質が悪いのかな」

「そう言う人がいるんだけどな」

社長は、今井ゆみに告げた。

中古車輸出・第42話

もし彼が、今井ゆみが集めていたオファーの

海外バイヤーの質が悪いと言ってくれなかっ

たとしたら、今井ゆみが実際の中古車輸出業

の実務に関わることも無かったであろう。

そしたら、中古車輸出業の実務のことは何も

わからず、お姉ちゃんがプリンセストレーデ

ィングを起業してくれた時も、お姉ちゃんに

自動車を日本の市場から探し出す方法も、船

積み方法や車の輸出手続きを聞かれても、ど

うやったら良いのかを全く答えられなかった

ことだろう。

中古車輸出・第43話

「うちの会社に来るオファーメールは良くな

いものが多いのか?」

今井ゆみは、社長室に呼ばれて質問された。

「そうなんですか?」

「そういう風に言っている人が営業にいるん

だけど・・」

社長にそう聞かれたが、毎日届くオファーメ

ールをプリントアウトすると、そのまま営業

担当の人たちに手渡してしまっているだけの

今井ゆみには質が悪いのかどうか判断できな

かった。

中古車輸出・第44話

「でも、シャランちゃんとかケニアからベン

ツの注文をもらっていた気するけど」

「そうだよな」

つい最近、スリランカ人の営業担当が、うち

に届いたオファーメールをきっかけにケニア

の石油会社から受注して、ベンツを何台かケ

ニアに輸出していた。

「シャランは、おまえの取ったオファーメー

ルでしか営業していないものな」

社長は、ゆみに頷いた。

「どうしたものかな」

中古車輸出・第45話

「ね、社長。私も自分でも、海外バイヤーに

お返事を書いてみてもいいかな」

今井ゆみは、社長に提案した。

もしかしたら本当に、ラオス人の彼が言うよ

うに毎日届くオファーメールが、海外バイヤ

ーの質が悪いのかもしれない。

そうだったら彼に申し訳ないから、自分でも

オファーメールにお返事を書いてみて、ちゃ

んとお返事が来るのか、車の注文をしてくれ

るのかを確認してみたいと社長に直談判して

みたのだった。

中古車輸出・第46話

「それは良い、おまえもやってみなさい」

社長は、今井ゆみにそう答えたのだった。

さっそく翌日から届いたオファーメールのう

ち何通かだけは自分の手元に残し、残りをプ

リントアウトして、営業担当者たちに振り分

けるようになった。

「今日からしばらくは、私もオファーメール

の相手に返信してみることになったの」

「そうなんだ、頑張って」

シャランは、ゆみに言った。

「返事もらうのって、かなり大変だよ」

中古車輸出・第47話

「それでね、もしお返事が来て、車をほしい

ってお願いされたら、私じゃどうやって車を

仕入れたらいいかわからないし、シャランち

ゃんに渡すから後はよろしくね」

「うん、わかった。注文きたら車は仕入れて

あげるよ。お返事が来るといいね」

シャランは、今井ゆみに答えた。

「お返事くるかな」

今井ゆみは、少し不安そうだが、それよりも

海外のバイヤーと話ができることにちょっと

ワクワクしていた。

中古車輸出・第48話

「うん、どんな風にお返事を書こうかな」

今井ゆみは、オファーメールの内容を読みな

がら、パソコンの前で悩んでいた。

「最初はサンキュー・フォ・オファーが良い

んじゃないかな」

まずオファーのお礼を軽く書いてから、自分

や自分の会社、横浜の貿易会社のことを軽く

自己紹介してから、オファーをくれた車種の

年式やマイレージ(走行距離)、車の状態な

どについて説明して、だいたいの相場を伝え

るぐらいで最初のお返事は良いと思う。

中古車輸出・第49話

シャランは、営業担当の先輩として、今井ゆ

みにメールの書き方を教えてくれた。

「プロっぽくお返事は書こうね」

シャランは、3年前ぐらいに、スリランカか

ら日本へ出稼ぎに来た女性で、去年から今井

ゆみと同じ横浜の貿易会社で働いていた。

今井ゆみより少しだけお姉さんだったが、ほ

とんど同い年で、女性同士と言うことで仲良

くお喋りするようになっていた。

「ゆみちゃん、その書き方は良くないよ」

シャランは、ゆみにアドバイスした。

中古車輸出・第50話

シャランは、今井ゆみの書いている返事の文

章を確認し、私はウェブデザイナーだから車

のことはよくわからないけどって書いちゃう

と車の素人に見られちゃうから、そこは、あ

くまで車のプロって自信を持って書くように

しなさいとアドバイスした。

「今井、素人っぽい書き方はだめだぞ!」

シャランと今井ゆみの会話を聞いていた部長

も、今井ゆみに注意した。この当時の輸出部

門の営業部長は日本人だった。

「はい、わかりました」

中古車輸出・第51話

今井がウェブデザイナーだとか、車のことは

よくわかっていないなんていうのは、向こう

には関係ないんだからな。

向こうの海外バイヤーは、あくまでプロの車

屋から安心して車を購入したいのだから、今

井が素人だと思われたら不安になるだろう。

ある程度、知ったかぶりみたいになっても良

いから、私は車のプロだという自負を持って

海外バイヤーとは接しなさい!

「はい、わかりました」

今井ゆみは、一番奥の席の部長に答えた。

中古車輸出・第52話

「その内容じゃ、メールが、ほぼシャランの

書いたメールじゃないか」

今井ゆみの席の背後に来て覗き込んでいた部

長が、今井ゆみに言った。

今の内容ではシャランのメールの内容に、名

前だけYumiと書き換えただけだろう。

文章なんて文法が下手でもどうでも良いから

もっと今井らしさを全面に出して、ただし車

のプロ意識を持って返事を書きなさい。

「はーい」

ゆみは、部長に返事した。

中古車輸出・第53話

どうせ、オファーメールにちゃんとお返事が

くるかどうかのお試しで書くだけなのだから

メールの内容なんて、シャランと同じでも良

いと思っていた今井ゆみだったが、部長に言

われて、結局ぜんぶメールの内容を自分なり

の文章で書き直して、返信することになって

しまったゆみだった。

「シャランと同じ内容にしたからといって、

今井が車の注文を取れるようになるわけじゃ

ないからな」

部長は、今井ゆみに言った。

中古車輸出・第54話

シャランと一緒の内容でメールしたとしても

今井ゆみが同じように車の注文を取れるわけ

ではない。

シャランの文面は、あくまでシャランが車の

注文を取れる文面であって、今井ゆみは今井

ゆみが車の注文を取れる文面を自分で見つけ

ない限り、いつまでも海外バイヤーから車の

注文なんて取れないからな。

「今井が車の注文を取れる文面は、自分で何

度も何度も文面を変えていろいろ返信してい

く中で見つけなさい」

中古車輸出・第55話

「ああ、なんか肩が凝った」

今井ゆみは、横浜の会社から東京の自宅へ帰

るために、自分の車を運転しながら呟いた。

結局部長に言われて、いろいろと自分で試行

錯誤しながらも、それぞれの海外バイヤー宛

にそれぞれ文面の内容を変えながら、何通も

何通も返信することになってしまった。

「私は、オファーメールの海外バイヤーがち

ゃんとした海外バイヤーかどうかを確認でき

れば良いだけで、別にずっと車の営業なんか

するつもりないんだけどな」

中古車輸出・第56話

ゆみは、まるで営業部に新人が新しく入った

みたいに、ずっと部長が付きっきりで、色々

アドバイスされながら、メールを書かされて

いたのだった。

「あら、お返事が来てる」

今井ゆみは、次の日の朝、新しく届いたばか

りのオファーメールをプリントアウトして営

業担当者皆に配り終えると、自分のメールア

ドレスの内容を確認していた。

「パキスタンの人か、トヨタのノアが欲しい

と言っていた人ね」

中古車輸出・第57話

昨日、今井ゆみが書いたお返事のメールに対

して、さらに今井ゆみ宛に追加のお返事をく

れた海外バイヤーはぜんぶで3人だった。

その1人がパキスタンの人で、黒色もしくは

白色、シルバー色のノアが欲しい、いくらで

出してもらえるのかと聞いてきていた。

「いくらで出してもらえるかなんて、私だっ

て知らないよ」

ゆみは、そう独り言を呟くと、シャランに渡

して、後はシャランに車の値段とか商談を進

めてもらおうと思っていた。

中古車輸出・第58話

「シャラン、お願い」

「わかった。後は任せて」

シャランは、ゆみに返事した。

「いや、待った。なんで、シャランがやるん

だ。ゆみ、おまえが最後までやらなければ、

車の受注したことにならないだろうが」

部長が、ゆみに言った。

「車の値段とかわからないんだけど」

「中古車オークション会場にログインして、

自分で調べられるだろう」

部長は、ゆみに言った。

中古車輸出・第59話

「さて、なんてお返事しようかな」

今井ゆみは、受け取ったメールの内容を確認

しながら考えていた。

いくらぐらいかと聞いてきているのだから、

ノアの値段を教えてあげないといけないね。

ゆみは、パソコンで中古車オークション会場

のページを開くと、会社のアカウントでログ

インした。

「トヨタのノア」

中古車オークション会場の検索フォームにト

ヨタノアと入力して検索する。

中古車輸出・第60話

本日出品されているたくさんのトヨタノアの

車が表示された。

年式や走行距離などによっても変わってくる

が、だいたいの落札時の相場価格なんかも確

認できるようになっていた。

「そうね、80万ぐらいかな」

今井ゆみは、向かいの席のシャランにも聞こ

えるぐらいの大きな声で呟いてみた。

「それに、会社の手数料とか陸送料なども、

ちゃんと足さないとだめよ」

シャランがゆみに言った。